第26話 忖度
「全然ダメだった。ごめんね、ユウト。せっかくつきあってくれたのに」
落ち込む早川。
俺たちは撮影を中断して、ダンジョンの片隅で休憩していた。
「仕方ないよ。あれは完全に運なんでしょ」
「そうだけど。あーあ。レアモンスターとは言わないまでも、なんで最弱のが出るかな。小学生でも同じの倒してたよ、あれ」
早川が引き戸を開け現れたのは、今現在確認されているなかで、最も弱いとされているスライムだった。
適当な棒さえあれば十歳でも倒せる弱さ、らしい。
実際、ひめたんのピンクバールの一振りで、スライムはぺションと潰れて消えてしまった。
その間、わずか数秒。
画的には当然、全然バエない。それでも僅かな希望を胸に、早川はその場でAIに今回撮影した分の画像を編集をしてもらい、動画をアップしていた。
結果は、不安が的中。
再生回数は十数回から増えることはなかった。
入念に準備をし、必死にキャラ作りまでして臨んだ早川が、へこむのも理解できる。
「まあ、はじめてなんだし。上手くいかなくて当然か」
早川は自分をふるいたたせるようにそう言うと、すくっと立ち上がる。
ここら辺の切り替えの早さは、早川の美点だよなと思いながら、俺は相槌をうつ。
「あれ、ユウト君?」
そこへ、声がかかる。
「ああ、緑川さん。こんにちは。緑川さんもお祭りに来ていたんですね」
「そうなの。奇遇ね」
お隣の緑川だった。
「ちょっとユウト。そのお綺麗な女性は、どなた?」
「え、ああ。隣に今度引っ越してくる緑川さん。緑川さん、こっちは同級生の早川」
紹介しろということかと思い、俺は二人を互いに紹介する。
早川と緑川は互いにとても朗らかに挨拶をする。
「それで、その格好はダンジョン配信?」
「わかりますか。そうなんです。でも、全然、上手くいかなくて」
「そうなの……」
緑川の質問に答える早川。
二人のやり取りを眺めていた俺に再び声がかかる。
「お、この前の坊主じゃねえか。あのときは助かったぜ」
それは前に、うちの近くで道に迷っていた中年間近の探索者だった。
「あれ、そっちはハードラッ──」
緑川の鋭い踏み込み。
まるで掌底打ちのようにつきだされた緑川の手のひらが探索者の口を塞ぐ。
「タロマロさん、お久しぶりですねぇ」
「モゴモゴ」
「ちょっと、こっちに来てちょうだい」
「フガフガ」
タロマロと呼ばれた探索者が緑川に引きずられて隅の方へいく。
「え、えっ! ユウト! 緑川さんが、タロマロって言ってたよね。あの有名なタロマロさんかな!?」
なんだかカオスだなーと思いながら、俺は少しホッとしながら、うわべだけでも元気にはしゃぐ早川に返事をした。
◇◆
「緑川さんて、探索者をしていたんですね」
「引退したんだけどね」
俺の質問になぜか視線をそらす緑川。後ろめたいことなど無いはずなので、俺はその反応を不思議に思う。
俺が緑川と話すその横では、早川がタロマロに話しかけている。
「あの、私は早川姫って言います。タロマロさんのダンジョン配信、いつも見てます!」
「おう。ありがとな」
その早川の様子をみて、俺は思いきってタロマロに頼んでみることにする。
──ダメもとだ。早川、元気そうに振る舞ってはいるけど。でも空元気な感じがする。さすがに、このままだと早川がかわいそうだよな。
「あの、タロマロさん。お願いがあります。早川、今日初めてダンジョン配信をしたんです。準備もたくさんして、必死にキャラも作って。でも全然良い画が撮れなくて。再生も伸びなくて。何かアドバイスをいただけませんか?」
「あー、そうだな……」
なぜか困ったように緑川をチラチラ見るタロマロ。
パクパクと口パクで緑川がタロマロに何かを告げる。
「よし、わかった。どうだ、ちょっとダンジョンの奥まで一緒に潜ってみるか?」
ニカッと笑って告げるタロマロ。
「良いんですか!? やったー。ありがとう、ユウト。私のために頼んでくれて」
心からの満面の笑みを見せる早川。
なぜか顔を覆って天をあおぐ緑川。
そしてタロマロは、そんな緑川をみて首を傾げていた。
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