残念ですが陛下、スローライフはお預けです。～おっさん勇者と王様幼女の入れ替わり～

序章

ある男の終幕。

　かくして勇者は魔王を倒し、全てを失った。

　四十年にも及ぶ長い旅の結末。

　偉業を成したその男の凱旋に歓喜する者はいない。憤慨する者はいない。

　何故こんなところに勇者が――。

　その存在に気付き、嫌悪をする眼差しだけがひんやり広がる。

　愛する者も憎き元凶（おうさま）も既にこの世を去ったあと──。復讐するにしても、やっぱり四十年は長過ぎた。

　「オレは一体、どこから間違ってたんだ……？」

　すっかり白髪の勇者は膝から崩れ落ちる。シワの多い顔を一段と老け込ませながら絶望の沼へと沈んでいく。

　「ねえ、民（タミ）くん」

　そんな彼を引き上げたのはひとりの少女。国家の水鏡（みかがみ）にして国民性の化身たる少女の名は、大国主――トレジャーランド・サファイアジェットスピネル。

　多くの人にその存在を忘れ去られた少女のある提案が、のちの勇者の人生を大きく変えることになる。

　「──王様、やってみない？」

　老い先短し老人は、勇者の『ガワ』を捨て、二度目のスタートラインに立つ。

　これは犠牲の物語。

　勇者と王様の入れ替わり。