第3話 妃の部屋
「そろそろ王宮だペルデルセ… 心の準備は良いか?」
瞳をずっと閉じたままだったペルデルセに、声を掛ける兄のメディシナ。
優しい兄の顔を見て、ペルデルセは穏やかに微笑んだ。
<アンダルを愛したように、夫となるプラサ陛下を愛す自信は無いけれど、せめて仲良くなれるように努力しよう>
「はい… お兄様の言う通り、頑張ってみます!」
<この結婚は神様がくれた僕への贈り物だと感謝して… この国で一から出直そう>
王宮に到着したプラサ王への挨拶は、第二王子メディシナが務め、妃となるペルデルセは婚儀の儀式のために急いで後宮の自室へと通された。
ペルデルセは後宮の中でも一番端の、日当たりの悪い北側の小さな部屋を当てがわれた。
<もしかして、これは嫌がらせをされているの?>
この扱いからも、ペルデルセを歓迎されていないのが良く分かる。
プラサ王の妃の中でも王族出身なのはペルデルセ一人で、身分的には正妃になってもおかしくないのにだ。
「まぁ仕方ないさ…」
エスタシオン王国側の冷淡な対応よりも…
何より辛かったのは、母国サルド王国から使用人が1人も、ペルデルセに付いて来なかったことだ。
命令すれば別だが、ペルデルセは敢えてそうしなかった。
ペルデルセの素行の悪さに、従者をしていた者たちは…
王宮に勤める他の使用人たちに、ペルデルセの愛人ではないかと、疑惑を持たれ陰口を叩かれていたことを、長い間不快に思っていたらしい。
婚姻が決まり、王宮を出る挨拶を使用人たちにした時も…
『どうかお幸せに、お身体にお気をつけて』
素っ気なく別れの挨拶をした、3人の従者たちの瞳に…
やっと解放される! と、安堵の光が宿っているのをペルデルセは見逃さなかった。
「あんなに良くしてやったのに… 人間なんて、薄情で当たり前なんだ!」
従者たちの親類が王宮で勤められるよう、ペルデルセは口を利いてやったり、休みを多くやり、仕事をさぼっていても
親切心から良かれと思ってペルデルセがしていたことが、忠誠心を育てるどころか、使用人たちから未熟な主人だと軽く見られていたのだ。
母国からも… ずっと側にいた従者たちからも… 初恋の人からも見放され…
たった1人でたどり着いたこの部屋が、ペルデルセにとって
だが…
「でも、今の僕にはお似合いなのかな?」
…と、納得もした。
「苦いお茶だなぁ…」
部屋まで案内をした使用人が
庭に並べて植えられた立派な椿の木が、紅や白の花を咲かせていた。
ペルデルセの目の前で、紅い花が一輪ポロリと枝から落ち、椿の木の下にコロリと転がる。
地面は椿の花の絨毯で、紅と白で染まっていた。
「ふふふっ… 部屋は気に入らないけど、この庭は悪く無いかぁ…」
薄っすらとペルデルセは笑う。
コンッ! コンッ!
扉が叩かれ、ペルデルセに付けられた、エスタシオン王国人の従者アバホが顔を出す。
「婚儀の支度の時間でございます、ペルデルセ様」
主人よりも2つ年上の従者は、礼儀正しく頭を下げた。
「ああ、そう…」
飲み掛けのお茶をそのままテーブルに置き、アバホの前をゆったりと横切り、気だるげに廊下へと出る。
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