第363話 現代下人の行き倒れ

ときは、1986年4月。昭和61年の春のこと。

高2になってすぐ高校を中退し、自由の森を去った少年がいた。

彼の名を、現代下人としておこう。


中退後の一時期、彼は自由の森に潜入して窃盗を繰り返した。

その手の事件への対応の得意な某児童指導員のおかげで、撃退された。

かくして現代下人は、羅生門の下人のような人生を歩み始めた。


現代下人には、2歳上の姉がいた。

そこを頼っていた時期もあったが、姉夫婦にも愛想を尽かされた模様。


近代ゴリラ作家ほどの大人物ではない、現代下人のその後


それから10年ほど後、自由の森に連絡が入った。

何の縁もゆかりもないはずの、兵庫県北部の警察署から。

現代下人が行き倒れになっている。

ついては、身元保証人になってくれ、と。

指名されたのは、自由の森で最後の1週間だけ担当した児童指導員。

仮に山崎氏としておく。山崎氏は、その申し出を断った。


さらにそれから半年ほどした、ちょうど春先の今頃だった。

またも、現代下人の行き倒れ情報。

今度はなんと、岡山市内の警察署から。

前回と同じやり取りが、警察官と山崎氏の間で取り交わされた。

現代下人は、これで自由の森との接点を完全に断たれた。

その後の現代下人の行方は、誰も知らない。


さらに30年ほどたったある日の夕方。

プチ同窓会で彼の現代下人の行方の話題が出た。

同級生の作家氏は、参加者らに現代下人の行方は追えていないと伝えた。

その話を小説化していることとともに。


現代下人という少年は、果たして、

同級生の彼らの中で、今も、生きているのだろうか?


・・・・・・・ ・・・・・ ・


注:近代ゴリラ=東京大学全共闘が三島由紀夫氏を揶揄したネーミング

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