第20話 プール、エトセトラ。

 八月の上旬。太陽の光が容赦なく照りつけ、前日に降った雨の水分を奪っていた。そんな中俺は、グループラインで峠崎&杉並と話していた。


『部活動の日程はさっき送った予定表の画像を参照してちょうだい』


『うん、ありがとう!わざわざ予定表作ってくれるなんて優しいねこみちは。それと今日暇ならプールに行かない?どうかな?』


『いいわよ』


『おう、いいぞ。で、どこに何時集合なんだ?』


『十三時に中野プール場に集合でどうかな?』


『おう、それでいいぞ。じゃあ、十三時に会おうな』


『私もそれでいいわ。楽しみね』


(以下略)とラインでプールに行く約束をする。


 時計を見ると十一時半になっていた。昼飯を食べるにはいい時間なので手早く炒飯を作り、食べ終える。

 少し汗臭いので、シャワーを浴びに行く。冷水が冷たくて気持ちいい。

 五分ほどでシャワーを浴び終えると、出掛ける用の服に着替える。

 下は黒の半袖に、上は黒の半袖のワイシャツだ。下のズボンも黒と全身真っ黒コーデである。まるで黒の剣士みたいだなと、そんな中二病じみた感想が出てくる。中二病というと思い出すのが、中学時代ほうきを剣替わりにして「エクスカリバー!」とかやっていたことだが、それはまた秘密のお話だ。その後にタオルや、水着の準備を抜かりなくする。

 集合の時間までまだ三十分は猶予があるのでその間、ヒルナ○デスを見ながら時間を潰す。ピンク色のセーターを着た芸能人のネタがなかなか面白くてツボに入る。

 テレビを観ているとそろそろ出発しなければいけない時間になったので、靴を履いてから、「いってきます」と言って玄関を出る。

 相変わらず夏の日差しは容赦なく俺のSAN値を削る。SAN値ピンチ!

 そういや三十センチ!とか歌ってた替え歌あったな。あれは、ひどかった。

 自転車に乗り、暫く漕いでいると、目的の中野プール場が見えてくる。

 入り口には既に、峠崎と杉並が来ていた。

「よう。早いな。俺もできる限り早く来たが、それでも待たせてしまったな」

「そうでもないわよ。私達も今来たばかりだから、そんなに待ってないわよ」

「うん、こみちの言う通り今来たばかりだよ!」

「そうか。じゃあ、中に入るか」

 そう言って中に入ると場内は、クーラーが効いていて涼しかった。おー!生き返るぜっ!

 受付でブレスレット型の入場パスポートを三人とも買うと、男女別に分かれた更衣室に入る。

 先に着替えた俺は、プールのある場内で待っていた。

「おーい、お待たせ~!畝間~!」

 振り返るとオレンジ色の水着を着た美女と、水色の水着を着た美女がそこに居た。

 前者が杉並で、後者が峠崎だ。

 杉並は、オレンジ色のいわゆるセパレート水着で豊満な胸が尚更強調されていて素晴らしい。

 峠崎は、ビキニで水色の布地が陶器を連想させる肌にマッチしていてこちらも非常に美しい。

「…水着どうかしら?」

 峠崎は不安そうに尋ねる。

「お、おう。似合ってるぞ」

 少し動揺しながら答える。

「ねーねー!私はどうかな?似合ってる?」

 胸を強調しながら問いかける。自然とそんなポーズをするので目のやり場に困ってしまう。

「あ、ああ。凄く似合ってるぞ」

 少しだけ声が裏返る。

「じゃあ、行こうか!」

「そうね。行きましょう」

「行こうか」

 プールサイドまで行き、入水する。

 ここは温水プールらしく、生ぬるい。

「ねー!こみち、畝間~。三人で二十五メートル競争しない?」

 いきなり杉並から提案される。

 特に断る理由も道理もないので、

「いいぞ」

「いいわよ。前回の林間学校のトランプとかもそうだけれど、三人になると勝負事が多いわね」

 競争するべく、最初のスタート位置まで行く。

 一コースが峠崎、二コースが杉並、三コースが俺だ。


「それじゃ、用意!スタート!」


 それをトリガーに三人ともスタートする。

 俺はバタフライ、峠崎、杉並はクロールで泳ぐ。

 あいにく俺は金づちということもなく、水泳は得意な方だ。

 順調にスピードを上げ、スイスイと進んでいく。

 十五メートルを過ぎ、もうすぐで二十五メートルだ。

 ラストスパート、持てる力を尽くして全力で泳ぐ。

 一メートル、二メートル、後少し。二十五メートル泳ぎきり、壁をタッチする。

 横を見ると峠崎が既に着いていた。

 後ろを向くと杉並がクロールで泳いでいた。

「どうやら、私が一番のようね。それにしても畝間君も速いのね。私と数秒差だったわ。負けると思って思わず、焦ってしまったわ」

 少し息を荒げている様子の峠崎。

「くっそー!俺は二位か~。実はバタフライが俺一番遅いんだよな~。クロールにしとけば良かった」

 悔しくて思わず負け惜しみを言う。

「ごほっ、ごほっ!二人とも速いよ~。私が最下位だね。悔しいな~。どうやったらこみちや、畝間みたいに速く泳げるの?」

「私は元々、泳げていたから分からないのだけど。それに、昔から水泳のタイムは負けたことがないから、かおりさんが負けるのも仕方ないわ」

「筋肉を鍛えればいいんじゃね?後はひたすら泳ぐ!みたいな?正直分からん」

 脳筋さながらの意見を出してしまう。

「そうなんだ~。二人とも天才肌なんだね。こみちは何でも出来ちゃうし、畝間は何でもそつなくこなしちゃうし…なんか二人が羨ましいよ」

「別に羨ましいって、言われるほどのことはないぞ?俺だって苦手なものの一つや二つくらいはあるもんだ」

「畝間君の言う通りよ。私だって苦手なものはあるわ。かおりさんには、貴方にしかないものがきっとあるからそれを誇りなさい」

 強い眼差しで峠崎は杉並を見つめる。

「うん、そうだね。ありがとう、こみち。ついでに、畝間もありがとう」

「ええ。どういたしまして」

「おう」

「じゃあ、ウォータースライダーに行こうよ!ここの長くて面白いらしいよ」

「そうね。行きましょう」

「行こうか」

 そう言うとウォータースライダーがあるところまで行く。

「じゃあ、滑ろう!」

 すると、杉並はヒョイとウォータースライダーを滑る。

「ヒャー!」という声が聞こえる。

「峠崎。じゃあ、次俺が滑るな」

 そう言ってウォータースライダーを滑る。

 水の勢いが思っていたより凄く、体がみるみる内に流される。

 おー!すげぇ~!楽しい~!

 体が右に行ったり、左に行ったりする。

 あっという間に全長約百メートルのスライダーを滑り終える。

 滑り終えると、杉並が笑顔でこっちに来ていた。

「畝間!楽しかったね!」

 ぴょんぴょん跳ねながらハイテンションだ。心もぴょんぴょんしているようだ。

「ああ、楽しかったな。水流が思っていたより強くてびっくりしたんだが」

 そんなやり取りをしていると、スライダーから峠崎が出てきた。

「思っていたより、楽しいものなのね。畝間君、もう一回行きましょう」

「もう一回行こう畝間!」

 二人に手を引かれながらもう一回ウォータースライダーを滑ることにする。

 結局、その後ウォータースライダーを六回も滑った。

「そろそろ帰らないか?いっぱい泳いだし、ウォータースライダーもいっぱい滑ったし正直飽きたんだが」

 二人に帰ろうと提案する。

「ええ。帰りましょうか。私も正直飽きたわ」

「うん、帰ろうか!飽きるくらい泳いだもんね~」

 そう言いながら更衣室の方まで向かう。俺は水着から着替えると、備え付けのドライヤーで念入りに髪を乾かした。

 更衣室を出ると、当然ながら二人は来ていなかったので近くの自動販売機でコーラを買う。三百mlなのですぐに飲み終える。飲み終えてから暫くすると、峠崎と杉並が更衣室から出てきた。

「ごめんね~。お待たせ!」

「待たせてしまって悪いわね畝間君」

「いや、全然待ってないぞ。思っていたより来るの早かったな」

「ええ。備え付けのドライヤーの風量が思ったより強かったから、早く髪の毛が乾いたの」

「そうだね~。備え付けのドライヤー結構強かったもんね。ドライヤーをこみちの顔に当てて悪戯もしたよ」

 へへへ、と笑う彼女に頭を押さえる彼女と対称的な様子が広がる。

「そうだったのか。じゃあ、行くか」

「そうだね。ねぇ、こみちー、畝間ー。この後、クレープ食べに行かない?近くに美味しいクレープ屋さんがあるんだ~」

 小腹も空いてるし、まぁいいかと思い、「分かった。いいぞ」と答える。峠崎も「いいわよ」と言う。


「じゃあ、行こう!」


 そう言われ杉並に先導される形で、彼女についていく。

 中野プール場の周辺は店が色々と立ち並んでいた。

 五分くらい歩くと、「クレープ美紀」と書かれた看板が見える。

 恐らくあそこが目的の場所だろう。

「着いたよ!じゃあ、中に入ろう!」

 そうすると三人とも店内に入る。

 店員さんに案内され杉並と峠崎が俺の前に向かい合う形で座る。

 店内は白を基調とした内装で、モダンな感じだ。照明の配置や椅子の並びにも拘りが伺える。物珍しくて思わず周りをキョロキョロと見渡してしまう。

 メニュー表を見る。メジャーなイチゴのクレープに始まり、季節限定のクレープまで全部で約二十種類くらいある。

「どうしようかな~?こみち~。クレープどれにする?」

 目をキラキラ輝かせながら杉並は、峠崎に問いかける。

「そうね。このイチゴチョコレートホイップDXクレープにしようかしら」

 なんだその長文は。俺長い名前覚えられないからスタバとか行っても、キャラメルなんちゃらフラペチーノとか頼めないタイプなんだよな。

 リア充レベルいくつ必要なんだよ。

 こっちだってマックブック片手にフラペチーノでドヤりたいわ。

 だから、いつも近くの古民家みたいな喫茶店でコーヒーは済ませてしまうんだよな~。

 リア充レベル低くてすみません。

「それじゃあ、私は季節限定抹茶&あんこホイップクリームクレープにするよ!畝間はどうするの?」

「俺はこのバナナチョコホイップにするわ」

「うん、分かった。注文しようか!すいませーん!」

 呼びかけられるとすぐにウェイトレスが来る。

 それから、注文をしてから十分くらいで三人のクレープがテーブルに届く。

「じゃあ、食べようか!いただきます~!」

 杉並に続いて二人とも「いただきます」と言って食べ始める。

 バナナとチョコレートクリーム、ホイップクリームの相性が絶妙だ。

 チョコレートクリームは、若干ビターでクレープ全体の味わいに奥深さを加えている。バナナはどうやら完熟したものを使用しているらしく、凄い甘い。糖度の高さを感じる。凄い旨くて、期待値通りの美味しさだ。

 数分ほどで食べ終える。峠崎も杉並も食べ終えたようだ。

「美味しかったね~。私の頼んだ抹茶のクレープに白玉入ってて美味しかったよ~。幸せだね~」

「ええ。イチゴもちゃんと糖度が高いものを使ってたみたいだったから、甘くて美味しかったわ。来てよかった」

「それにしても、こんなにクレープが美味しい店よく知ってたな」

「プールに行く前に事前に周辺の美味しいお店をリサーチしてたんだよ。それでここは星五つだったからさ。口コミ見ても間違いないと思ったから二人を誘ったんだ」

「なるほどな。変なところで頭が回るな。てっきり俺はプール行くだけだと思ってたからそこまで頭回らなかったわ。杉並って気が利くんだな」

「気が利くってことはないと思うんだけど…まぁ、ありがと」

 少し顔を紅潮させながら答える。

「なんか喉乾くな。ドリンクバーでも頼まないか?」

「いいわよ。頼みましょう」

「いいね、それ。頼もうよ」

 そう言って店員さんにドリンクバーを頼む。

「二人とも何のドリンクがいい?入れてくるよ」

「じゃあ、私はメロンソーダで」

「私はレモネードで!」

 二人のオーダーを聞くと、ドリンクを取りに行く。

 ドリンクを三人分取るとテーブルに持って行く。

「ほい、どうぞ」

「ありがとー!」

「ありがとう、畝間君」

 それからは三人ともドリンクバーで時間を潰す。

 三人でどうぶつタワーのアプリをやりながら、一喜一憂する。杉並や峠崎がむきになっている様子が微笑ましい。

 それからは、杉並が突拍子のないことを言い、峠崎と俺がそれを突っ込むと言った流れが続く。

 こんな何気ない時間もいいなと思う。

 十年先も二十年先もこんな風に居れるだろうか。

 未来はどうなるかは分からない。

 きっと一人一人の行動で大きく未来や世界線は変動するのだろう。

 俺の行動がバタフライ効果を起こして、とんでもない未来が訪れる可能性があるかもしれない。

 そんな風に未来は不確実性があり、不透明だ。

 だからこそ最善を模索していくのだ。

 より良い未来にするために行動し、様々な可能性と出会っていく。

 そんな風に世界は成り立っており、本人の預かり知らぬところで世界は回っていく。


 それでも地球は回ってる。

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