第17話 星に願いを

 ToLoveるな事件から暫く経ち、俺は意識を取り戻した。何か素晴らしいものを見た記憶がありそうなんだが、どうも思い出せない。

 確か体育館から帰って来て着替えてから、隣の部屋をノックして、ドアを開けたところまでは覚えてるけど、その後の記憶がない。

 なに俺。史上最強の弟子ケ○イチの長老のボウシンハショーゲキでも、くらったの?

 時計を見ると、十二時半になってたので食堂へと行く。

 食堂に行くと、杉並も峠崎も先に昼食を食べている様子だった。

 俺の分の昼食を取ると、彼女達のところまで向かう。

「先に食べてたんだな」

 そう言うと、

「ええ。それと、さっきのこと忘れてるわよね?」

 冷ややかな目をしながら峠崎が問いかける。

 当然、思い当たる節も無いので、

「何のことだか分からないんだが。俺どうやら一時的な記憶喪失で宿舎に帰って来てからの一部の記憶が無いんだけど」

 と答える。

 すると、彼女は安心した様子で「そう。なら良かったわ」と言った。

「何が良かったかは、分からんが峠崎が良いなら、それでかまわないか」

「畝間とりあえず座ったら?ご飯冷めちゃうよ。とりあえずさっきのことは、ビンタでチャラにしてあげたから」

 杉並に促されて座る。

「何?妙に頬がヒリヒリすると思ったら、俺ビンタされたの?何お前、蝶野なの?それが俺の記憶喪失と関係してるのか?なぁ、教えてくれよ~」

「教えてあげないよーだ!」

 あっかんべー、と彼女は舌を出す。

 これ以上問い詰めても何も得られないと思った俺は、昼食を食べることにした。

 二日目の今日の昼食は、オムライス、コンソメスープ、ポテトサラダだ。

 オムライスは卵がふわとろで美味しい。チキンライスも丁度の味付けで尚更旨い。コンソメスープもほどよい熱さで体に染み渡る。暑いときに熱いもの案外悪くない。ポテトサラダもボリュームがあり、丁度いい味付けだ。兎に角、運動後は腹が空いているので飯が旨い。

 あっという間に食べ終わると、ごちそうさま、と言って食器が乗ったトレーをカウンターに返しに行く。

 彼女達は先に食べ終わっていたようで、先にトレーを返し、俺が食べ終わるまで待っててくれた。

「食べ終わったら十三時に宿舎の玄関前に集合だってさ」

「そうらしいわね。それと、飲み物の準備が必要らしいわよ。猛暑の中動くのだから、飲料水の持参は不可欠ね」

「じゃあ、俺は飲み物自販機で買って来るわ」

「私も行くわ」

「私も行く~!」

 そう言うと三人で飲み物を買いに行く。買い終わると、十二時五十五分になっていたので、急いで玄関前まで走っていく。

 玄関前まで来ると、長谷川先生と北川先生が先に来ていた。小学生はどうやら全員集まっているようだ。

 全員が集まったことを北川先生が確認すると、

「はーい。全員集まりましたね。これからウォークラリーを始めます。ウォークラリーは、今から配る地図にあるチェックポイントを巡ってもらうというルールになってます。チェックポイントには、ハンコを置いているのでそれを押してから帰って来て下さいね」

 そう言ってから地図とスタンプカードを北川先生と長谷川先生が配り始める。

「なお、一位にはちょっとした景品を用意しているので頑張って下さいね。それでは熱中症に気をつけて、スタート!」

 まずは、グループごとに分かれる。

 小学生の男女が入り交じったグループがいくつかできる。

「畝間、杉並、峠崎。お前達は今回小学生のグループに参加せず、三人で行動したまえ。では、よろしく頼むぞ」

 長谷川先生は、そのように言うとその場から去って行く。

「じゃあ、まずは第一チェックポイントのお地蔵さんのところまで行きましょう」

「そうだな」

「そうだね!」

 そうすると山の上を降り、国道沿いを歩いて目的地まで向かう。

 何も特徴がない平坦な道が続いていく。

 暫くすると、目的のお地蔵さんが見えてきた。その近くの机の上に置かれたスタンプを押す。一つ目ゲットだぜ!

「二つ目のチェックポイントは神社ね。行きましょうか」

 そう言うと峠崎が先行して歩いて行く。次の神社までは、四キロくらいだ。時折、休憩や飲み物を飲みながら歩いて行く。

 すると、目的の神社が見えてきた。

 鳥居は小さく、神社自体も小規模だったが、小綺麗なところだった。

 境内の中に机が置いてあり、その上にあるスタンプを押す。これでともかく二つ目のスタンプ獲得だ。

「最後は山の頂上だな。これが一番しんどいな。大体ここから五キロあるらしい。帰りは十キロ以上の道程になることを考えると憂鬱だな」

「ええ。少ししんどいわね。でも、こうして三人で歩くのも楽しいわね」

「そうだね!」

「そ、そうだな」

 少し照れながら返す。

 そうして目的地の山の山頂まで歩いて行く。起伏が激しい道とも言えない道が続く。俺達はともかく、小学生にはキツいんじゃないだろうか?

 アップダウンを繰り返し、山を登って行く。暫くすると、山頂が見えてきた。

 いい眺めの景色だ。思わずナイスビュー!と言いたくなる。

「綺麗な景色だね、畝間、こみち~。それに空気も心なしか綺麗だね!」

 手を仰向け深呼吸をする杉並。

「そうね。ここまで来ただけはあるわね。ほんとに綺麗な景色と空気ね」

「おい、スタンプ押すの忘れてないだろうな?押してから帰るぞ」

「そうだったわね」

「そういや、そうだったね~。景色に見惚れて忘れてたな~」

 そう言うと山頂のベンチの近くに置かれてた机の上のスタンプを押す。

 これで三つ目のスタンプ。コンプリート達成だ。

「じゃあ、帰るか」

 そうすると三人揃って山を降りていく。特にこれと言ったこともなく、無事に宿舎の方まで着く。

 すると、玄関の方に居た長谷川先生と北川先生が「おめでとう」と声をかけてくる。

「もしかして、俺達が一番に着いたんですか?」

「そうだ。おめでとう。それと、景品の図書カード三千円分だ。文芸部としては、嬉しいだろう。大切に使いたまえ」

 そう言って三人に三千円分の図書カードを渡す。

「「「ありがとうございます」」」

「ウォークラリーが終わった者は、自由時間だ。存分に楽しむといい」

 そう言われ自分の部屋まで帰って行く。

 部屋に帰って「妹さえ○ればいい。」を読んでいると、「畝間~。トランプしようよ~」と杉並が声をかけてくる。

「おう、いいぞ。どこでやる?」

「私達の部屋でやろうよ~。こみちもいるからね」

 そう言うと隣の部屋まで行く。峠崎はベッドに座っていた。

「畝間君、来たのね。じゃあ、勝負よ!」

 やる気満々の峠崎。デュエル、スタンバイ!と言いそうな勢いだ。

「トランプじゃ負けないよ!」

 こちらもやる気は充分。

「ああ、やろうか」

 それから大富豪や七並べ、ババ抜き、ぶたのしっぽ等をする。

 やはり、杉並は強く二人とも連続して負ける。トータルで杉並が十一勝、峠崎が三勝、俺が二勝という結果になった。

 ランダムな要素が介在するゲームは、弱いのよ俺。(言い訳)

 そうこうしてると十八時になり、夕食の時間になる。ご飯のいい香りがやってくる。

「そろそろ止めて、夕食に行きましょうか」

 そう言うと峠崎と杉並は、立ち上がる。

 俺も続いて立ち上がると、食堂まで向かう。

 カウンターには既に夕食が準備されていた。

 三人とも夕食を取ると、一緒のテーブルに座る。今日の夕食は、ご飯、味噌汁、さばの味噌煮、漬け物、味付け海苔、サラダ、デザートにプリンだ。

 さばの味噌煮は、しっかりと火が通っており、ホロホロとしていて柔らかい。味付けも絶妙で、ご飯との相性も抜群だ。味噌汁は今回は、赤味噌で優しい味付けのさばの味噌煮とは対照的で、これはこれでいい。

 すぐに食べ終わると、二杯目のおかわりをする。

 そして、二杯目を食べ終え、三杯目のおかわりに突入した。

 今日は、腹半分で止めておこうと思い、ごちそうさま、と言う。

「相変わらず食べるわね。それで太らないのは、羨ましいわ」

「そうだね。私達がそんなに食べちゃうと太るもんね。羨ましいな~」

 二人して羨ましいと言う。

「家で食べるのは、親父と母親、俺くらいだな。ちなみに親父は、俺以上に食べるぞ。普通のサラリーマンなんだけどな。いっそのこと大食いチャンピオン目指せよと思うんだけど」

「そうなのね。食費が尋常ではないでしょうね。私の両親は、私と一緒で食べる量は普通くらいかしら。畝間君は、恐らく遺伝なんでしょうね」

「私の家は、弟がいっぱい食べるね~。確かに畝間の大食いは、遺伝だね」

「そうかもしれないな。確かに母親が食費が馬鹿にならないって言ってたな」

「そうなんだね。死活問題だね」

「一人暮らしになったら大変だなと思うんだけどな。そういえば、峠崎と杉並は進路どうするんだ?進学?就職?」

 ふと、気になり質問をする。

「私は理系の県外の大学に行こうかと考えているわ」

「私は文系の県内の大学かな?まだ、分からないけど。畝間は、進路どうするの?」

「俺も理系で県外の大学に行こうかと思ってるところだな。もしくは、法学部に入って弁護士を目指そうかと迷ってるところだ」

「そうなんだね。それじゃみんなバラバラになっちゃうね…寂しいね…」

 少し悲しそうに伏し目がちになる。

 ふと、別れの時を連想させる。

 いつの時代も変わらず、無常に別れの時はやって来るものだ。

「でも、別れてもまた春休みとか夏休みもしくは、年末に会えるじゃないか。確かに寂しいけど、一生会えなくなる訳じゃないし」

「そうだね!なんなら私がこみちと畝間に会いに行ってあげるよ!」

 元気に快活に声をあげる。

 先ほどのまでの悲しさは、どこ吹く風だ。

「いきなりはやめろよ?ちゃんとアポイントメントを取ってからだからな」

「そうね。私もアポ無しは困るもの」

「流石に押し掛けるようなことはしないよ~。ちゃんと連絡するね」

「まぁ、俺が連絡されて返信するかは別の話しだがな(笑)」

 冗談めかして彼女に言う。

「またまた、照れ屋さんなんだから畝間は~。えい!」

 そう言うとほっぺたをツンツンしたり、引っ張ったりしてくる。

「や、やめろ!恥ずかしいからさ!」

 右手で彼女の手を振り払う。感触が微妙に残り、妙な気分になる。

 すると、咳払いが聞こえてくる。

「ずいぶんと仲がいいのね、お二人さん?」

 ジト目で俺に目を据える。

 何こみちさん。寂しいの?寂しくて死んじゃう病なの?まるでウサギだな。

「そ、そんなことないよ~。ね、畝間」

 彼女に言われ、

「お、おう。決してそんなことはないぞ。峠崎も友達だからな」

 と答える。

「そう、分かったわ」

 安心した様子の彼女。

「じゃあ、こうしてやる~!」

 いたずらっ子めいた顔をした杉並は峠崎に抱きつく。

「ち、ちょ、ちょっと。暑苦しいのだけれど…」

 杉並に抱きつかれ峠崎は、顔を朱に染める。何、ゆるっとゆりゆりしてんですかね?このまま禁断の関係に突入しちゃうの?まるでゆるゆりだな。(オマージュ)

「いーじゃん!減るもんじゃないし~」

 なおも抱きつく杉並。百合の花が咲き乱れる光景が思わず見える。

「こら、かおりさん。離しなさい」

 そう言って抱擁から逃れる彼女。

「ぶ~。こみちのケチ~!」

「いや、ケチではないだろ」

「そうね。私はケチではないもの。倹約家ではあるけれど」

「俺もわりと倹約家だぞ。半額の物ばっかり買いすぎてかごの中いつもいっぱいになるし」

「それは、かえって倹約家というより、浪費家じゃないかしら?半額でも必要な物だけにしなさい」

「う、うん。気を付けるわ」

「私も服とかファッション誌とかコスメ買いすぎるから注意しなくちゃ」

「かおりさんも要注意ね」

「そうだね。こみちは良いお嫁さんになりそうだね。だって、野外炊飯の時も手際が良かったし、倹約家だし、美人で性格も良いもん。優良物件じゃない?ほんとにお嫁さんに向いてるね!」

「お嫁さんって…それほどでもないわよ。将来結婚するとか考えたこともないのだけれど…」

 照れながら答える峠崎。やはり、褒められるのには弱いらしい。

「俺も結婚するとか考えたこともないな。将来誰と結婚するんだろうな」

「案外、私達のどっちかだったりして…」

 杉並が呟いた言葉にふと、ドキッ、とする。

「そ、そんなことないわよ。私は畝間君のこと友達としか思ってないのだけれど…」

 顔を赤面させる。

「そうかな?私は、畝間のこと優しいし、ちょっとカッコいいな~、なんて思ったりしてるんだけど…」

 両指をもじもじさせる杉並。

 彼女の言葉に思わず、顔を赤くしてしまう。自然と心臓の鼓動が高まる。

「や、やっぱり今の無し!聞かなかったことにしてくれるよね?」

 指をこちらに差し、上目遣いでこちらを見てくる彼女。

「お、おう。うん、俺は何も聞いてない」

 動揺しながらもなんとか答える。

「じゃ、じゃあトレー返しに行こうぜ。調理員さんを待たせても悪いし」

 気まずかったので話題転換を図る。

「う、うん。そうだね」

「え、ええ。そうね。戻しに行きましょう」

 そう言うと三人とも立ち上がり、食器が乗ったトレーを返しに行く。

 歯磨きを終えると、風呂の時間になる。風呂の準備をすると、風呂場まで直行した。

 髪をリンスインシャンプーで手早く洗髪し、洗顔をする。ボディソープで体を一通り洗うと湯船に浸かる。今日は入浴剤が入っているのか湯船が紫色だ。何の花かは分からないがその香りに癒される。

 今日は健太と光は来ないんだな、と思いながら周りを見渡すと、左側の壁の端に扉があった。

 気になったので、その扉を開けてみると、中から尋常ではないほどの熱気がやってくる。どうやらサウナだったようだ。サウナに入る前に体を冷やしておこうかと思い、近くにあった水風呂の水を浴びる。おー!冷たい!キンキンに冷えてやがる!これでサウナに行けると思い、扉の中に入る。中には何人か小学生がいた。顔色を見るとほとんどが限界という様子で顔が真っ赤だった。

 ポツポツとサウナから人が抜けていく。最後は俺だけになる。これも修行だと思い、熱さを少しでも誤魔化す。しかしながら、それも数分しか続かず、俺は限界を迎えサウナを出た。水風呂に飛び込む。やはり、冷たく気持ちが良い。サウナの熱がとれるまで三十秒ほど入った後、少し冷たく感じ水風呂を出ることにする。

 風呂場を出ると、扇風機が平素と変わらず回っていた。

 タオルで全身を拭き、髪をドライヤーで乾かす。

 それから脱衣場を出ると、喉が渇いていたので端にある自動販売機まで飲み物を買いに行く。

 自販機に着くと、迷わずポカリスエットを押した。

 五百ミリリットルだが、それを一気に飲み干す。水分や塩分を失った体に染み渡る。風呂の後と言えば、牛乳かコーヒー牛乳がベターだが、今はこれが一番だ。飲み終えると、空のペットボトルをごみ箱に捨てる。

 暫く近くにあるソファーに座りながらスマホをつついていると、峠崎が前からやって来た。

「よう。お前も飲み物買いに来たのか?俺はサウナで一人耐久レースをしてたから、喉が渇いてポカリスエットを一気飲みしたぞ」

「馬鹿ね。この時期にサウナはナンセンスだわ。私もポカリを買いに来たの」

 そう言って財布から硬貨を取り出し挿入口に入れ、ボタンを押す。

 キャップを開け、ポカリスエットを一口飲むと、俺の隣に腰をかける。

 すると、風呂上がりのシャンプーの良い香りが漂ってくる。ドキドキしてくる。なんだろうな。女子と男子でこうも匂いに差が出るのは。ほんとにシャンプーなに使ってんの?お高いやつかな?

 兎に角、女子のお風呂事情はミステリーである。

「明日で林間学校最終日だな。何かあっという間だな。もっとボランティアって面倒くさいと思ってたが、ほとんど遊んでただけだったな」

「そうね。想像以上に楽しかったわ。あっという間の林間学校のボランティアだったわね。かおりさんや畝間君と一緒で楽しかったわ。明日も頑張りましょう」

 そのように言うと手をグーにしてこちらに向けてくる。

 一瞬何のジェスチャーかと思ったが、彼女の意図を汲み取りこちらも手をグーにしてコツンとぶつける。

 柔らかい皮膚の感触が伝わり、少し恥ずかしくなる。

 男友達と幼い頃グータッチをやったことがあるが、それとはまた違った感じがする。

「そ、そういや、いつから部活をするんだ?」

 気恥ずかしさを吹き飛ばす為に、話題を変えようとする。

「そうね。林間学校のボランティアが終わってからすぐ次の日に部活動を行おうかと思ってるわ。部費でまた本を買いに行ったり、図書館で本を読んだりしようかと考えているわよ」

「そうか、分かった。また、グループラインで部活動の予定を送ってくれ」

「ええ。分かったわ」

 そう言うと、続けて開口する。

「ねぇ、畝間君。私達は、将来どうしているのかしら?大学でキャンパスライフを送ったり、就職して働いたり、結婚したりしているのかしら?」

 ふと、将来についての質問を投げかけられる。

「多分、俺は普通に進学して、大学生活をそこそこ楽しみ、中堅企業に就職したりしていると思うな。そうやって道を進んでも、杉並や峠崎との関係は変わらず続いていると思う」

「相変わらず普通の答えね。まぁ、何故か安心したわ。私もかおりさんや畝間君との関係は続いてると思うわ」

 そう言って彼女は、小さく微笑む。

「そうだといいな」

「ええ。そうね。ねぇ、ちょっとだけ外に行かない?今夜は流星群が見えるそうよ」

「そうだったのか。じゃあ、見に行くか」

 玄関を出て暫く歩き、近くのベンチに座る。

 空を見上げると、星達がキラキラと輝いていた。

 すると、流れ星がキラッと流れる。

 それを皮切りに次々と星が流れていく。

 キラキラと星が流れて綺麗だ。

 幻想的な風景に二人とも息を飲む。

 ふと、横を見ると彼女は、手を合わせて何かを願っていた。

 俺も彼女に習い、夜空を流れる星々に願う。


『どうか来年も彼女達と変わらず居られますように』


 彼女が何を願ったのか気になったので、「峠崎は、何を願ったんだ?」と問いかける。

 すると、彼女は微笑み、


「ひ・み・つ♪」と答えた。


 女の子はやはり、謎多き存在だなと思う。

 俺はノストラダムスといった預言者でもないし、神様でもないから未来なんて分からない。

 でも、きっと間違いや成功を修めながら成長していくのだろう。

 一歩一歩着実に進み、時には後退しながらも、人生という長い長い道程を歩んでいくのだと思う。

 彼女達と関わり合いながら、学生生活という長いようで短い時を過ごしていくなかで、どのような出来事が起きるかはまだ分からない。

 彼女達と決別したり、関係性が大きく変わる時が訪れるのかもしれない。

 再三に渡って繰り返すが、未来なんて分からないし、分かりたくもない。

 だが、きっと決断するべき時が訪れるのだろう。

 そんな感じがする。

 俺は、その時一歩を踏み出すことが出来るのだろうか。

 願いを流れ星に馳せ、斯くして林間学校二日目が終わる。

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