第15話 林間学校一日目
「おーい、畝間~!起きなよ~!」
すっきりはっきりとした明瞭な声で目が覚める。どうやら野外炊飯の時間になったようだ。
「おお、ありがとう杉並」
そういうとベッドから起き上がり、ベッドから降り、脱いだ靴を履く。
「じゃあ、行こうか!」
「ああ、行こう。ところで峠崎はどこに居るんだ?」
周りを見渡しても彼女の姿はない。
「あーね。こみちは、先に先生と外の調理場に行ったよ。私は畝間がいなかったから、寝てると思って起こしに来ただけだよ~」
「そうだったのか。わざわざすまなかったな。ありがとう」
「うん。どういたしまして!」
にっこりと微笑む彼女。
そんなやり取りをしながら、目的の調理場まで着く。
そうすると、こちらに気づいた様子の長谷川先生が手招きをする。
峠崎も隣に居る。
彼女達の隣まで行くと、
「よし、これでみんな集まったな。小学生の諸君。こちらに居る三人の高校生がこれから三日間の林間学校でお世話になるボランティアスタッフだ。自己紹介をよろしく頼む」
ざっと見て五十人弱居る小学生に呼びかける長谷川先生。
自己紹介をするべく、俺からするべきかと迷ってると、
「峠崎こみちです。三日間よろしくお願いします」
峠崎が率先して自己紹介をする。
彼女に続く形で杉並も、
「杉並かおりです。三日間よろしくね~!」と自己紹介をする。
順番が回ってきた俺も、「畝間苗太です。三日間よろしくお願いします」と挨拶をする。
三人の自己紹介を終えると、どこからともなく、パチパチ、と拍手が聞こえてくる。
「じゃあ、それぞれ役割分担をしてカレーを作って下さい。それでは、よーい、スタート!!」
北川先生が調理開始の音頭をとる。
「私たちはどうしたらいいですか?」
峠崎が長谷川先生に指示を仰ぐ。
「そうだな。人数の少ない班に回って手伝いをしてやれ。三人手分けしてな」
「分かりました」
そういうと峠崎と杉並は、小学生の人数の少なそうなグループに入っていく。俺も参加しなきゃいけないなと思いながら、キョロキョロと歩き回っていると、
「畝間さん、こっちのグループに来たらどうでしょうか?」
と少女から誘われる。
「おー、ありがとう。改めて、俺は畝間苗太。君の名前は?」
「私は、霧島さくらです。よろしくお願いします」
綺麗に纏められたツインテールを揺らしながら、ペコリと頭を下げる。
「うん、さくらちゃんね。よろしく」
彼女に目線を合わせながら挨拶を返す。
「俺は、健太!よろしくな畝間さん!」
「僕は、光です。よろしくお願いします…」
元気な挨拶の健太。気弱な印象を受けるのが光。二人の名前もついでに覚えると、
「健太君、光君。よろしくね」と彼らに挨拶を返す。
「じゃあ、材料を先生のところから取ってくるね」
そういうと材料が置いてあるところまで歩いていく。
「私も一緒に行きます!」とさくらも着いてくる。
材料を取ってくると、俺が役割分担をさくら、健太、光に指示し、調理を開始する。
俺は、お米を洗って飯盒で炊く係だ。
お米を洗い、磨ぎ汁を排水口に流す。
飯盒にお米を入れ、水を入れ蓋をする。
燃えやすいように準備されていた藁に火をつけ、その火を薪に移す。
飯盒を吊るし、火をかける。
確か、はじめちょろちょろなかぱっぱ、だっけ?
泡が出てきた頃が炊き上がりの目安だ。
一段落つき周りを見渡すと、健太が人参を切り、さくらが涙目になりながらも玉ねぎを切る。
光も上手にとは言えないが、そこそこの手つきでじゃがいもを切っていた。
三人がほとんど同時にボウルに切った野菜を入れる。
肉は、こま切れになっているので切らなくても大丈夫だ。
さくらがフライパンに油をひき、肉を先に炒める。
肉の焼ける匂いに食欲が刺激される。
肉がいい色になってきた頃合いを見て、ボウルに入った人参、玉ねぎ、じゃがいもを入れ炒める。
さくらは慣れた様子でそれらを炒めている。
「さくらちゃんは、普段料理とかしてるのか?」
ふと、気になった俺は彼女に質問をする。
「はい。両親が共働きで帰って来るのが遅いので、小さい頃から自分で料理してました」
「そうなんだ。偉いな~」
「そんなことないですよ~。そういえば、畝間さんもお米を洗うの慣れた様子でやってましたけど、普段から料理されるんですか?」
「まぁな。妹と俺で毎日交代で飯当番をしてたんだよ。米を洗うのは、毎日やってるから多分慣れてるように見えるんだろ」
「そうなんですか。妹さんがいらっしゃるんですね。畝間さんがイケメンだから、妹さんも美人なんだろうな~」
予想外の言葉が出てくる。
「い、イケメンって。俺そんなに顔は良くないと自負してるんだが」
「そんなことないですよ。畝間さんは、充分イケメンさんです!」
何この子。天使なの?ミカエルとかラファエルたんなの?
よし、これからはさくらたそと呼ぶのをキボンヌだな。……キモいな、俺。
「あ、ああ。ありがとう」
照れくさい気持ちを隠しながら彼女に返事をする。
そうこうしてる内に、カレーもルーを入れ完成に近づいている。後、数十分煮込んだら完成だろう。
ご飯の様子はどうかな?と思い、飯盒の方を見に行く。
泡が出てきていて、炊き上がりを知らせていた。
火からのけると、近くにあった木のテーブルに置き出来上がりを確認する。どうやら上手くいったようだ。
ご飯の炊きたての匂いが食欲を刺激し、自然と唾液が出てきそうになる。
「おーい、ご飯は出来たぞ~」
そういうと健太と光がこっちに来て、おー、とご飯の出来上がりを見て声をあげる。
「こっちもカレー出来上がりました!」
どうやらさくらの方のカレーも出来上がったようだ。
「よし、じゃあ、盛り付けするか」
そういうと俺は、さくら、健太、光と自分の分をよそっていく。
全員の分を準備すると、
「じゃあ、食べるか」
「「「はーい!」」」
いただきます、とみんな揃って言って食べ始める。
パクっと一口。すげぇ、旨い。辛すぎず甘すぎない絶妙な味付けだ。
給食のカレーをつい思い出す。人参や玉ねぎもちゃんと火が通っており、じゃがいももホクホクだ。
飯盒で炊いたご飯と、カレールーの相性も抜群で食べやすい。自分達で作ったということもあり、達成感も加わり尚更旨い。
あっという間に食べ終わり、二杯目のおかわりをする。
健太も光も続いておかわりをしていた。さくらは遠慮してるみたいだ。
さくらがおかわりをしないと言ってたので、健太と光のカレーライスは特盛になっていた。
そんなこんなで皆(さくらを除く)二杯目のカレーを食べ終わると、後片付けを始める。
食器の洗い場であるシンクもスペースが限られているので、俺とさくらが一緒に皿やまな板を洗う。健太と光は、食器拭きの係だ。
「やっぱり、普段から家事をやるだけあってスムーズで速いな」
食器を洗いながら横目でさくらの方を見る。
「それほど速いってことはないですけど… まぁ、慣れてますので」
そういうとにっこりと微笑む。年相応の可愛らしい笑顔だ。昔の妹もこんな感じで笑ってくれたのに、今はツンツンしている。まぁ、ツンドラ(訳:凍えるような冷ややかな態度のこと)でないだけましだな。
そうこうしてると二人とも食器を洗い終わり、後は拭くだけになる。
食器を拭き終わると俺もみんなも、ふー、と一息つく。やっと終わった。
暫くすると、北川先生が集合の合図をする。
片付けを終えた各グループが集まると、
「はい。みんな問題なく安全にカレーが作れましたね。この後は、夕食まで自由時間とします。夕食の時間は十八時なので、それまでに食堂の方まで戻って来て下さいね。では、解散!」
そういうと皆、仲のいい友達同士で集まったりする。
俺も部屋に戻ろうと宿舎の方に足を向けると、
「畝間~。この後一緒にトランプをしようよ~!それに、オセロ、チェス、将棋も持ってきてるよ!」
わくわくした様子で誘いに来る。まるで将棋だな…じゃなくて、小学生みたいだなという感想が出てくる。
「おう。俺は二人零和有限確定完全情報ゲームは、得意だから負けないぞ」
「う、うん。二人なんちゃらは分からないけど、オセロとか得意なんだね」
えっ、二人零和有限確定完全情報ゲームって言っても通じないの?いや、ノゲノラで空君が一話で言ってたじゃん。オタクにしかこのネタは、通じないのね… ヲタクに会話は難しい。
「私もゲームは強いわよ。畝間君、勝負ね!」
ガンダムファイト、レディーゴー!
と言いそうな勢いだ。ドモンいいよね。ちなみに俺は、UC(ユニコーン)ガンダムが好きだ。たまらないよなあのディテール。
「ああ、勝負だな」
そういうと三人揃って宿舎に帰る。
誰の部屋に集まるか話し合った結果、俺の部屋に集まることになった。
その後は、オセロで峠崎と五分五分の戦いを繰り広げ、チェスではドロー、将棋では千日手と決着がつかなかったので、トランプで大富豪をやったり、ババ抜きをしたりした。トランプでは、アブストラクトゲームで弱かった杉並が連勝する等、引きの強さを見せつけた。
一通り遊んだ後は、食堂で夕食を食べた。メニューは、ハンバーグにサラダ、かきたま汁、ご飯だった。
お残しは許しまへんで!とか言う食堂のおばちゃんは居なかったが、どの人も親切で優しい人達だった。
夕食を食べた後は、お風呂の時間になったので、ゆっくりと疲れを取ることにした。
湯船に浸かってると、野外炊飯で一緒だった健太と光が浴室に入ってきた。
「おお、健太君と光君じゃないか。奇遇だな」
二人に向かって手を振りながら声をかける。
「「こんにちわ!」」
二人揃って挨拶をすると、すぐに頭や体を洗い始めた。
そろそろ浸かり始めてから、約十分くらい経過してたので、そろそろ出る頃だなと思い、二人に「じゃあな」と言ってから湯船を出る。
脱衣場は、扇風機があって涼しい。
タオルで体を拭きながら、扇風機で体の熱を冷ます。風量も強く、とても涼しく感じる。服を着ると、備え付けのドライヤーで髪を乾かす。扇風機で涼んでもまだ暑かったので、ドライヤーを冷風にし、体全体に風を浴びせる。
風呂場を出ると汗をかいて喉が渇いていたので、一階の通路の端にある自動販売機まで飲み物を買いに行く。
様々な種類の飲み物があり、選択に迷ってると、これでいいやと思い、ポカリスエットをチョイスする。
飲む点滴と言われてるように、その効果に偽りなく俺の体を潤す。
喉が渇いていたので、一気にペットボトルの中身を全部飲み干してしまった。
ペットボトルをごみ箱に捨て、部屋に帰ろうかと思い後ろを向くと、杉並がこちらの方まで歩いて来ていた。
「おー、畝間じゃん。私も喉が渇いていたから買いに来たんだよね~」
そういうと財布から硬貨を取り出し、自販機に入れてQooのボタンを押す。
ペットボトルを開けて、小さいボトルの中身を全部飲み干す。
「杉並って、Qooとか子供っぽいの飲むんだな」
「子供っぽいってことは、ないでしょ。それって偏見じゃない?今はLGBTとか多様性が求められる世の中になってるんだよ?よってQooは、子供っぽいってことはないのです!」
えっへん、と言いそうな勢いで胸を張る。薄着で元々大きな胸が殊更強調される。その様子にふと目を背けてしまう。
「そ、そうか。悪かったな。じゃあ、俺は寝るからお休み」
「うん、私はここのソファーに座って時間潰すから。お休みなさい」
そういうとポケットからスマホを取り出し、つつき始める。
俺も部屋に帰ろうと、反対の方角に足を向ける。
部屋まではやや距離があり遠い。
でも、それほど遠くないなと思い直すと部屋まで歩を進める。
ふと、今日あったことを思い出す。色々なことがあったなと、ふと顔が綻ぶ。
明日も頑張るぞぃと心の中で誓いを立てながら、部屋に帰る。
明日の予定をしおりで確認し、消灯までまだ時間があるのでスマホを取り出しつつき始める。
ソシャゲをしたり、音楽を聴いたり、アニメを見ていると消灯の二十二時になったので寝る準備をする。
疲れがあったのか、ベッドに入ると自然と眠気が襲ってきた。
明日は、いい一日になりますようにとどこかにいる神様に祈りながら眠る。林間学校一日目、終了。
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