前略、ボーナスステージです
「さてさて、どう攻略しましょうか」
現在確認しているチートは、浮遊、オートエイム。多分他にも何個か付けてるだろう。
代表的なので言えば、透視、HP無限、弾薬無限辺りは付いていそうだ。
周囲の環境は、海上コンテナが積まれていて視界が悪い。ふむ、なるほどな。
「全員一度合流で」
『はい!』
『はーい』
建物内に姿を隠して二人と合流する。
「ちなみに運営さんから何か連絡が来てたりしますか?」
「いや、特には何も……対応が遅れてるんでしょうか」
「もしくは私たちが倒すのを待ってるんですかね?」
「特定には時間も必要でしょうし、まあそれまで相手しましょう」
[こういうのってすぐBANするもんじゃないの?]
[まあ優勝は決まってるし、良いんじゃないですかね]
[運営もてんやわんやだろ、スケジュール狂うぞ]
[幸いなことはこれが最終試合で後に予定がないこと]
俺たちのことをすぐに追ってこない。透視は持っていないのか、それともゆっくり戦闘をするタイプなのか。
「よし、じゃあ作戦を伝えますね」
「お願いします」
「窓辺先輩はスポッターとして相手の位置を常に把握し続けてください」
「分かりました!」
「織部さんにはやってほしいことがあります。」
「了解です」
「相手は透視で俺たちの位置が分かる前提で動きます。では初めに舞台を整えましょうか」
「舞台?」
俺たちは遮蔽物の間を動き回り、道具を集めつつ、乱雑にコンテナが置かれた立地を探す。よし、この辺りがよさそうだな。
「武器が壊れても、消えたりしないのがこのゲームの良いところですね。窓辺先輩、敵はどこに?」
「こっちには来てないみたいですね。多分屋内に入っていったと思います」
「なら透視は持ってないと見ていいか……よっ、あ、織部さん刀でグラップラーのワイヤー切ってもらってもいいですか?」
「は、はい」
道中拾った刀が、俺が発射したグラップラーのワイヤーを切断する。
「んで、このワイヤーまとめて……このくらいでいいかな。もう一回切断お願いします」
「えいっ」
[なんでFPSで工作し始めるの?]
[ブービートラップでも作るのかな?]
[3分戦場クッキングってか?]
[やかましいわ]
「よしよし、爆破するのはこの辺りで……」
上を見ながら位置を調整する。ズレたらせっかくの準備が台無しだからな。
「あ、小波さん! 敵が出てきました」
「おっと、了解です。なら、あとは俺で十分できるので、織部さんは敵とぶつからないように屋内に入って、建物の屋上に向かってください。その際に体と同じ大きさの鉄板、コンテナの扉なんかを外して持っておいてください」
「了解です!」
「窓辺先輩には、ここから潰れ役になってしまいますが……俺が仕掛けを終えるまで、ちょっかいをかけて相手を引きつけておいてくれませんか?1分もあれば終わるので」
「分かりました!」
「できるだけコンテナの中に入ったりして完全に射線を切ってくださいね」
「行ってきます!」
「さて、ここをこうして、っと」
数秒後、銃声が辺りに木霊する。
『うわあああ体力すぐ溶けますよこれ!』
「もうちょい持ちこたえられません?」
『無理無理無理です!』
「じゃあできるだけこっち連れてきてください。できるだけでいいです」
『はいいいい!!』
コンテナの中に隠れながら、流れるコメントに目を向ける。
[どうやって倒すんや]
[そもそも倒せるの?]
「ああ、大丈夫。奴のHPが無限だろうと関係ない処刑法を思いついた」
[時止めんのか?]
[zawarudo!!]
「織部さんどんな感じです?」
『あともう少しで屋上着きます!』
「分かりました。仕掛けをしたところの真上にちょうどいいのがあるので、合図をしたらそれを切り落としてください」
『ちょうどいいの……? 了解、です』
『ねえ小波さんもういいですかマジで死にそうなんですけど!』
おっと、結構しぶといな。
「窓辺先輩まだ生きてたんですか?」
『ひぃー、ひぃー、ひ、必死に逃げ回ってましたよ! それで、ここからどうすれば』
「――十分です」
コンテナの扉を蹴破り、空中の敵を見定める。
「こっち、だっ!」
狙いを定めて射撃。空中にいる分どこからでも射線が通るのはこちらとしてもありがたい。
ただ体力無限のチートは使っているみたいで、身を隠そうともせずこちらを狙ってサブマシンガンを乱射してきた。
「あぶなーい」
蹴り飛ばしたコンテナの扉を即席の盾にして体を隠す。
すると、あんなに正確に俺の頭を狙っていた銃弾の雨が、途中からあらぬ方向に飛んで行った。
「ふむ、このオートエイム、さてはアバターの頭部を視認してないと発動しないタイプかな?」
なら体を隠しつつ移動してもすぐにはやられないかも。
「ほら、こっち来いよ!」
何度か発砲してこっちにヘイトを向ける。おし、食いついたな。
「はいはいこっち来てねー」
面白いほど直線的にこちら移動してくる。もうちょい回り込むとかしたらいいのに。
銃弾を防ぎながら、呆気なく仕掛けの場所まで相手を連れてこさせることができた。
さて、本題はここからだ。
銃弾を受けてベコベコに凹んだ扉と共に再度コンテナの中に身を隠す。
「織部さんいつでも行けるよう準備してください」
『は、はい!』
どうやって罠を発動させるか。相手も空を飛んでいるから、低空にいる今しかチャンスはない。
「敵が今どこにいるかわかります?」
『えーっと、小波さんが隠れているコンテナのちょうど上の辺りにいます』
「了解です」
よし、じゃあ一か八か。
「行きまーす」
反対側のコンテナの扉に持っていた盾代わりの扉を投げつける。それが外に飛び出していった一瞬後に俺も飛び出した。
「っ!」
「はははっ!」
狙い通り、コンテナに気を取られた相手は見事に視線をそちらに向けている。そしてその数瞬があれば、アイツに飛び掛かれる。
「おーらっ!」
まず銃を弾き飛ばして武装解除、そのまま首を絞めて意識を遠のかせる。
すると敵の高度がだんだんと下がり始めた。
「よかった。意識がないと発動しないタイプのチートなのか」
落下した敵を何度か殴りつけ、所定の位置に移動させる。トラップは手動で起動させた。
バン! と大きな音が鳴り、積まれたコンテナが衝撃でズレて滑り落ちて上手い具合に相手の腕を挟んで動きを封じることに成功する。
「小波です、敵を捕らえることに成功しました」
『すごーい!見に行っていいですか?』
『うわ、綺麗に腕挟んで動けなくしてる……』
「いいですよー」
時間を稼いでくれた窓辺先輩がこちらにやってきた。何気に倒されてないのすごいな。
「アバターは完全にリリックさんの物ですよね」
「そうですね。まあ何があったのかは終わってから公式の発表を待ちましょうか。織部さーん、準備はいいですか?」
『いつでも行けます!』
「じゃ、お願いしますね。窓辺さん離れましょう」
「了解です」
巻き込まれないように離れて合図を出すと、ちょうど真上の建物の屋上に吊り下げられたコンテナを、織部さんが刀で切り落とす。
自由落下したコンテナは数秒後に轟音を立てて敵の頭の上に着弾した。
プレイヤーはまず間違いなく気絶、復帰しても自分で何もできないから完全に詰みだ。
「チーターにはギロチンの刑ですね。GGです」
[あれ、エキシビションマッチやってた?]
[おつー]
[やっぱ勧善懲悪よなぁ]
[あれ相手からしたらトラウマ物だろ]
[環境キルうめぇ]
[ハイライトで草]
[公式チャンネルの実況席も沸いてるなぁ]
[ゲーマーからしたらチーターはゴキブリに等しい存在だからな]
[チーター成敗お疲れ様です! もう順位は確定しているので、一度マッチを抜けてロビーに戻ってください マホスト祭公式チャンネル]
「あ、コメントから指示が飛んできた」
「よいしょ、っと。お疲れ様です小波さん。運営さんから連絡が着てます」
「今確認したところです。戻りましょうか」
「……なんか、いろいろありましたけど、とりあえず優勝、したんですよね?」
「そうですね。まずは第一歩。この調子で頑張りましょうか」
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波乱に襲われたToPバトロイ部門は、何とか終わりを迎えた。
「マホスト祭、ToPバトルロイヤル部門、優勝は――『エコーフォース・シルバー』!!」
[うおおおおおおお]
[おめでとおおおおおおおおおおおおおおお]
[まじでよくやった!]
[本当に優勝できるとは]
[マジで強いぞこの3人!]
ロビーに戻り、俺たちはインタビュー席に腰を落ち着けていた。もう少ししたら優勝インタビューと優勝カップの授与が行われる。
「ふぅ……き、緊張しますね」
「そう言えば織部さん、こういった場所は苦手なんじゃないですか?」
「あはは、滅茶苦茶苦手です。でも、今回は胸を張っていられそうです」
「ならよかった。手伝ったかいがありましたよ」
「というか、チームの編成がタレント1名公式スタッフ2名ってよく考えたら結構ありえなくないですか?」
「そうなんです?」
まあ公式スタッフを設けているVの箱もホロウエコーくらいだからな。
「あ、来ましたよ二人とも」
「よし、頑張ります……」
実況はプロゲーマーの方がやってくれたので、モニターを通してインタビューが始まった。
「まずは優勝おめでとうございます! リーダーの織部若葉さん。中盤は低迷しましたが、なんと最終戦で大量キルからの1位。巻き返せた秘訣を教えていただけますか?」
「そう、ですね。やっぱりチームメイトの二人が、私が不調でも支えてくれたことが一番の要因だと思います。特に小波さんは、今回が初めての大会にも関わらず大活躍してくれました。この調子で明日も頑張りたいと思います」
先ほどの言葉の通り、胸を張って堂々とウチのリーダーはそう答える。
「なるほど、仲間との支え合いが優勝のカギだったわけですね。続いて窓辺光璃さん。今のお気持ちは?」
「去年悔しい思いをしたのでその雪辱を晴らせてよかったです。これからも頑張っていきたいと思います」
「えーそしてそして、小波さん、1試合当たりの最多キルおめでとうございます。今の気持ちを教えていただけますか?」
「そうですね。急造チームだったので、俺の出来がチームの結果に大きく影響を与えるとは思っていたので、こうして目標の一つである優勝をすることができて、正直ほっとしています。二人も言っていたのですが、俺たちの目標は明日のマルチアリーナ部門でも優勝することなので、これを弾みにして、優勝を目指していきたいと思います」
「優勝しても気は抜かない、あれ、窓辺さんも小波さんも、スタッフの方ですよね?」
「スタッフで、基本裏方だからこそ、タレントの方の目標を全力でサポートするのが俺たちの役目ですから」
「なるほど、明日のマルアリも楽しみにしています! 以上、ヒーローインタビューでした!」
ToPバトルロイヤル部門 優勝:エコーフォース・シルバー
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投稿に間が開いてしまい申し訳ありません。カクヨムコン用の作品を考えていたら、期間が開いてしまいました。
バトロイ編がやっと終わりましたね。まあこの後マルチアリーナ戦があるんですが。
バトロイのおまけにならないよう頑張って書いていくので、もう少々お付き合いください。
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