第11話 コーラル(3月)

 今回は、「コーラル(珊瑚さんご)」について取り上げます。


【コーラルとは?】

「コーラル」とは「珊瑚」のことです。「珊瑚」と言われれば、「沖縄で見るサンゴ礁ね!」と思う方も多いかもしれません。でも、宝石になる珊瑚はサンゴ礁を形成しないので、ちょっと種類が違います。


〇「珊瑚」という生き物〇

 珊瑚は、海に住む腔腸こうちょう動物です。

 腔腸動物というのは、体内に口から続く袋状の空所がある水中の動物で、イソギンチャクなどもこれに当てはまります。

 珊瑚にも種類がありますが、宝石になるものは「宝石珊瑚(8本の触手を持つことから「八放サンゴ」とも言う)」と言われ、光の届かず冷たい深海(水深100m以上)で成長(=生木)するものです。そして珊瑚が死ぬと木の枝のような骨格だけが残り、人はそれを加工して宝飾具にし、珍重してきました。


〇色〇

 コーラルは、白、ピンク系、赤系のものがあります。

 色の好みは人それぞれですが、現在の市場の一番人気は「血赤ちあか」といわれる、はっきりとした赤いもののようです。


〇歴史〇

 古くから人の生活に寄り添っていた珊瑚。古代ローマ人はお守りとして用いられていましたし、ドイツでは旧石器時代(約2万5千年前)の遺物として発掘されています。


 しかし、上記に記載したように、宝石になる珊瑚は深海で成長したもののはず。それを昔の人たちがどうやって手にしたのでしょうか。


 大昔、人が手にしていた珊瑚の宝石は地中海産のベニサンゴでした。

 本来宝石珊瑚は、深海で成長しますが、地中海で生育されていたものは深度が浅かったというのです。それが嵐などによって波にさらわれ陸に打ち上げられると、珊瑚は死んでしまい、骨格だけが残ります。

 美しくて、まるで木の枝のような珊瑚の死骸を見た当時の人たちは、「海底の国の木が陸に打ち上げられたのだ」と思っていたようです。


〇英国女王ともゆかりある宝石〇

 スコットランドには「コーラル」に、「少女に美と繁栄をもたらす」という言い伝えがあることから、故・エリザベス二世は生後9か月のときに、母親からコーラルのネックレスを贈られたのだとか。子ども時代のエリザベス二世の写真には、ピンクのコーラルネックレスを付けた姿が多くあるとのことです。


〇日本へはシルクロード経由してもたらされる〇

 日本に珊瑚の宝石がもたらされたのは奈良時代。ペルシアからシルクロードを経由して持ち込まれました。



【名前の由来】

<通説>

「コーラル」は、ギリシア語で「小さな石」を意味する「korallion(コーライオン)」から付けられました。


<雑記>

「コーラル」の語源が載っているのは、私が持っている書籍の中で一冊しかなく、今回はちょっと比べることができませんでした。そのため、何故「小さな石」という意味の「korallion(コーライオン)」という名をつけられたのかということまでは分かりませんでした。すみません。


<和名>

 すでに書いていますが(笑)、「珊瑚さんご」です。


〇説1〇

「珊瑚」と名が付いた説の一つに、コーラルが中国で楽器として使われていた経緯があるようです。

 その楽器というのが、コーラルの枝をさん(=障子などのほね)に紐につるして叩くというもの。涼やかな音が出るそうで、資料を読みながら、「当時の人たちは海底の神秘的な音として捉えていたのかもなぁ」などと思いました。

 それで「珊」というのは、この「コーラルの枝をさんに紐につるして叩くというもの」から生まれた形容文字とのこと。

 そしてコーラルが「胡の国(=ペルシア)」から渡ってきて、王族しかつけることを許されなかったことから「胡」に王偏が付けられ、「珊瑚」となったのだとか。


〇説2〇

 説1も面白いですが、もう一つ、漢字の成り立ちから想像した説を語ってみようと思います。

「珊瑚」の「珊」の漢字の由来について『三省堂全訳 漢辞海 第四版』には、「『玉』から構成され、『さく』の省略形が音」とあります。

「刪」とは「けずること」。「玉」を「削る」というのは、木の枝のような美しいコーラルを削ることによって、「玉」(=石の美なるもの)になるという風にも捉えられそうです。

 そして「瑚」は説1と同じ意味として考えると、「珊瑚」は「ペルシアから渡ってきた削られた石の美なるもの」という意味も秘めているのかなと思いました。

 でも、説2の方は漢字辞典を調べた私の勝手な想像なので、テキトウに聞き流してくださいませ(笑)


【メモ】

〇コーラルは弱い〇

 この世で一番硬い鉱物はダイヤモンドと言いました。

 ダイヤモンドが宝石として優れているのは、美しいだけでなく、その硬さや強さにもあります。

 装飾品としてつけていてどこかにぶつかっても、料理の汁がついても大してダメージにならず、気負わずにつけられるというのは、宝石を大事にしつつも着飾りたい人にとっては重要なポイントのはず。

 しかし宝石のなかには、とても魅力があるけれども弱いものもあるのです。その一つがコーラルなんですね。


 コーラルは硬さも弱いですが、酸にも弱く、汗などに触れると光沢を失ったり、溶けてしまうことがあります。

 酢につけた実験では表面が溶けてぼこぼこになり、レモン汁につけたものは十二時間後に消滅します。


 十二時間もレモンにつけておくような状況には、あまりならないかもしれませんが、気を付けるに越したことはありません。


 そのためコーラルの装飾品はブローチなどの服の上から付けるものが多く、ネックレスなどの肌の上で映えるようなものは、デザインを工夫して、直接触れないようにしています。

 もし直接肌に触れさせて身に着けた場合は、空拭きなどをすることで長持ちさせます。

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