第2章、挫けぬ心をREMEMBER
予期せぬ出会い
いかにも怪しい真っ黒な車を追い掛けていくと、やがて廃ビルに入って行くのが見えた。
「ここね」
一応、ビルの前の看板には立ち入り禁止の貼り紙と崩れやすい為注意と書かれていた。
少女が誘拐されるのを見て急いで追いかけてきたけど、何故あの子はあの男達に連れ去られたのだろうか?
普通に考えたら身代金の要求やあの少女の親への何かしらの嫌がらせ、又は親の会社や組織に何かしらの要求を飲ませたいか……。
さっきの戦闘もあって少し疲れたから、手早く済ませて帰りたい。そう思いながら身体強化しつついつでもエスペランサーを出せるよう身構えながら廃ビルの中に入る。
廃ビルの中は所々の割れて穴の空いた窓から太陽光が入っている為に見やすく、物陰も沢山ある為に潜入には好都合だ。
中には先程の車がポツンと残されており、エンジンも切られている。スモークガラスの為、車内を見ることは叶わなかったけど、恐らく誰も乗ってはいない。
一階には人の気配は感じられない。
となると、上の階層のどれか。このビルの外装から恐らくは4階建てだ、建物が崩れる事と上に上る手段が階段しかない事を考慮するならさっきの男達と少女がいるのは二階と三階のどちらか。
取り敢えずああいった輩に顔を覚えられるのは不味いだろう。そう思いながらフードを深く被り、なるべく足元を確認して足音のならないであろうルートを歩き階段を上がる。
上にあがり、二階。
全く人の気配を感じない、そう思いながら三階へと上がると微かな話し声が聞こえた。一度呼吸をする口にコートの袖を当てて息を潜め耳を澄ませる。
「あんたの所の娘は預かった、返して欲しければ……」
「さっさと決断しろ、出なければ娘の安全の保証は………」
男の声が二つに静かに呼吸する音が一つ。前者は誘拐した男で後者は誘拐された女の子だろう。
そう思いながら階段から三階の部屋への入り口前に移動する。扉のドアに窓がついていないために、中の状況が分からない。
取り敢えず最低でも相手はナイフか包丁、酷い場合は拳銃を所持している可能性がある。私の武器は大剣と短剣の二種類。男達の武器が前者ならリーチのある私が有利だ、すぐにでも鎮圧出来る自信はある。でも拳銃等を持っているなら私が不利になる。
以前に両腕がミニガンの怪物と戦った事があるが、あの時は怪物と私の間には距離があった。故に打ち出されても何処へと銃弾が向かってくるのか予測しエスペランサーの刀身を盾にして向かってくる銃弾から身を守る事が出来た。
だが、ここは室内。エスペランサーを振り回すのに向いていないし、振り回した瞬間に建物が崩れる事もあり得る。
それにこのまま向かっていって万が一に部屋に入ってすぐにでも誘拐犯がいる場合、ほぼゼロ距離に近く相手が拳銃の銃弾を外す可能性はほぼ無い。
それに長期戦になると、人質を盾にされる可能性だってある。
それらを考慮すると、突入してすぐに相手を行動不能にする短剣と格闘を用意した短期決戦が望ましいだろう。
私は片手にリュミエールを取り出して逆手で握り締め、もう片方の手で入り口のドアノブに触れる。
聞こえて来る声が大きいことから恐らくは入ってすぐにいる。ゆっくりと一度深呼吸をしてから身体強化を使い、すぐにでも駆け出せる様に構える。
「ふぅ……ッ!」
扉を勢い良く開ける。勢い良く開いたドアに驚いたのか、それとも入ってきた侵入者が子供と分かったからか驚きの声をあげながら此方を見つめて懐に手を伸ばす男性達。
見れば奥で両手を縛られ口にガムテープを貼られ転がされている少女も私の方を見て目を見開いている。
「瞬速」
まず片方の男性に瞬速で懐に入り込み、リュミエールを握った拳を腹に叩き込む。すると口から息を吐き出してお腹を押さえて倒れ込むので、即座にもう一人を探す。
もう一人は奥にいる少女を人質にしようとしているのか、少女の元へと走り出す。私は即座に瞬速で男との距離を詰める。
もしこの男が私に向けて拳銃を向けて引き金を引いていたら、恐らくは私は死んでいて彼らが勝っていただろう。だが、人質を優先したのがミスだ。
この場で一番警戒しなければならない敵にお前は背を向けたのだから。
リュミエールの側面を男の背中に叩き付ける事で男がうつぶせに倒れ込む。
そのまま男の頭を掴んで軽く地面から顔を上げさせて首もとにリュミエールを近付ける。殺意を込めながら睨み付け「動いたら殺す」と呟けば男がガクガクと震え始める。ゆっくり首へとリュミエールを近付けていくと、やがて男は突如としてガクッと気を失った。
取り敢えず、これで確認できた誘拐犯は鎮圧できた。私は寝転んでいる少女の元へと近付くと、少女はガクガクと震えた様子だった。
あぁ、そっか。
一瞬だけ感じた謎はすぐに分かった。何故なら私はこのような反応を見たことは何度もあるから。
ビーストに襲われていた人を助けたり、一人で作戦をこなしビーストを討伐した際に軍の魔法少女達から向けられた物。
それは目の前の人物、つまり私を恐れているのだ。当然だ、普通の少女にとって私は誘拐犯二人をまだ大人にすらなっていない容姿の少女が刃物を持って大人の男性二人を気絶させたのだから。
救った少女の元へと歩みよると、軈て彼女は覚悟を決めた様子でギュッと目蓋を閉じた。
………いや、なにもしないんだけど。
膝をついて座り彼女の顔に手をおいて私の方を向かせ、口を覆うように貼られたガムテープの端を剥がしてしっかりと掴んで一気に剥がす。
「痛ッタァ!?ちょっと!なんで勢い良く剥がしてるんですか!?」
先程までの怯えた様子から考えられないほどに元気で怒った様子で私に意見する彼女に思わず固まる。
「綺麗な肌が傷付いちゃうでしょ!だいたいこういうのはゆっくり剥がさないと……」
「え、えっとじゃあやり直すね?」
「へ?いや何を──────」
そう言いながら少女の口に途中まで剥がしていたテープを貼り直す。
「
改めて少女の口のテープを持ち、言われた通りにゆっくりと剥がす。
「ぷはー、そうだよこうこう……てか貼り直す必要ないでしょ!?また肌が傷付いちゃったよぉ」
お、思ったより元気なんだ。前の世界だと誘拐された人質は疲弊してたり苦しそうだったりしてたから、少し意外。
「取り敢えず縄、切るから。じっとしてて」
「あ、お願いします。てかお姉さん何者!?」
話しかけられる声に、どう答えたものかと思考しながらリュミエールで彼女の両腕を拘束していたロープを切る。
うーん、魔法少女と伝えてもこの世界じゃ分からないだろうし、通じないだろうし。
「えっと、私は………魔法、少女?」
「いやなんで自分で言っておいて疑問系なのよ」
どう答えようか考えつつ彼女の顔を見る。
何故か懐かしい……いや何処かでみたことがあるような気がした。いや、でもあの子はこんなジャージにボサボサした金髪じゃなかったはず?でも何となく雰囲気が似てる……そうだ目元を見れば分かるかも。
そう思った私は片手で彼女の前髪をずらして顔を確認する。
「ちょっと!?」
思わず目を見開きつつ、彼女の前髪を元の位置に戻す。
あ、考えてみたら私は一応初対面の人の髪を急に触ったことになる?
「えっと、その……前髪長くないかしら?」
「余計なお世話ですよ!!」
彼女の前髪を許可無しに触ってしまった事の気まずさから、思わずそんな言葉を吐く。思い出した、この子は魔法少女にいた。
戦いには不向きな魔法を持っていて、寮を管理する魔法少女の手伝いを良くしていた。そういえばその時に今のようなボサボサの金髪とジャージで生活していた気がする。
魔法少女に変身した時の姿が、ウィザーズ達やアニメに出てくる魔法少女のような姿だったからか、広報活動やオペレーターをしていたっけ。
「取り敢えず、警察を呼んだ方がいいわ。一応?貴方は誘拐された訳だし」
「うぇ、いやぁ……そのぉ、警察はちょっと」
警察の事を伝えようとした瞬間に気まずそうな、まるで嘘を隠しているような様子で目をキョロキョロさせる彼女に思わず首を傾げる。
そういえばまだ中学生だし、携帯電話は持ってないのかな?実際に私は持ってないし。
「ごめんなさい、携帯を持ってなかった?」
「え?いや持ってると言えば……その、持ってはいるんですけど」
「じゃあ先にご両親に電話……もしかして充電切れ?それなら近くの公衆電話まで送って───」
送るよと、そう言おうとしたその時だった。
部屋の入り口、正確には階段からドタドタとした足音がした。もしかしたら先程の仲間かもしれない、そう思い即座にリュミエールを構える。
「お嬢!無事ですかァ!!」
男性と思われるドスのきいた大きな声と共に部屋の入り口の扉が蹴破られ、真っ暗なスーツを着た強面の男の人がサブマシンガンを持って入ってきた。
あれ?日本って銃刀法違反……。
そんな事を考えていると、男は入ってすぐに正面に構えたサブマシンガンを引く。
部屋に銃声が響き渡る、放たれた弾丸は見事に私の胴体部分狙い、腰溜めにしては正確な射撃で私の臓器を狙ってきた。
しかも器用に私の後ろのノゾミさんを外すように斜めに射線を通している。
取り敢えず相手を観察するより、放たれた弾丸をどうにか防がないと。
エスペランサーを出して地面に突き刺して壁にしたら建物が壊れるだろうし、この部屋だと狭いから振り回せない。だとしたら、考えられるのは銃弾を受け止める事だ。それしかない。
「身体強化、瞬速」
魔力が腕を伝ったのを確認して瞬速を唱える、周りの動きがゆっくりとしたのを確認して、此方へと飛んできた銃弾を全て掴み取る。
でもこのまま手にある銃弾を捨てたらダメだ。瞬速の効果が切れて周りの動きがいつも通りに戻ったのを確認する。
そしてサブマシンガンを撃ってきた男に見えるようにリュミエールを握っていない方の手を付き出して掌を下に向けて掴んでいた銃弾達を捨てる。
以前に軍の人が教えてくれた方法で相手に自身が強者だと伝えるときのテンプレ?らしく、この行動をするだけで相手はこいつには銃が効かないと認識して絶望するらしい。
「なッ銃弾を!?」
「そんな漫画みたいな事ある!?」
カランカランと地面に落ちて音をたてる銃弾を見て驚きの声を上げるサブマシンガンを持った強面の男とノゾミさん。取り敢えずこれで相手の戦意を削げれば良いのだが。
「
ノゾミさんの叫びに神永と呼ばれた男が驚いた様子で近くに転がっている気絶した二人の男性を見てから、改めて私と手に持ったリュミエールを見て目を見開いた。
「へ?そうだったんですか?!す、すいません!お嬢を助けてくれたとは知らずにあんな真似を……」
「へ?あぁ、いえ当たっても死なないので大丈夫です」
そう言いながら慌てた様子で武装を解除して頭を下げる男の人に思わずそう答える。
経験談ですから、とは流石に言えない。
あれは痛かった、何より嫌なのが銃弾を貫通してないと自然回復で傷が治らなくて銃弾が体内に残ってたりしたら摘出しなきゃならないから。
そう思いながらリュミエールを消して武装を解除しておく。取り敢えずあの様子から私への戦意は無いだろうし。
「取り敢えず、詳しい話も聞きたいんでお嬢と来てくれます?」
さっきから神永さんはノゾミさんの事をお嬢と呼ぶけど、もしかしてノゾミさんは凄くお嬢様だったりするのかな。
というか、完全に帰るタイミングを逃してしまった。
「分かりました、誘拐された時の状況とか説明しないといけませんよね」
取り敢えず彼女の両親に誘拐について説明したらすぐに帰るよう交渉するか窓から逃げるかすれば良いかな。
そう思いながら私は彼女達に続いて廃ビルを出ると、真っ黒でスモークガラスの凄く高そうな車があった。
…………あれ?
「取り敢えず、乗って下さい」
そう言いながら神永さんが車のドアを開けると、何処か諦めた様子のノゾミさんが入り奥に座る。
「……取り敢えず貴方は何と呼べば?」
神永さんの声にそういえば、ノゾミさんにも何と名乗れば良いか聞かれて答えてなかった事を思い出した。
「セルリアン」
取り敢えず、そう答えてから「失礼します」と車の中に乗ると廃ビルを出発して街道を走る。
「いやぁ、お嬢が無事で良かった。お嬢に何かあったらなんと言われるか……」
「この人が助けてくれたからね?もしセルリアンさんが居なかったらどうなったことか」
うーん、ノゾミさんはお嬢様でこの男の人は護衛とか?だとしたらサブマシンガンは流石にないよね?普通なら拳銃とかじゃないの?
そもそも護衛だとしたらお嬢様と呼ぶんじゃ?
そんな疑問が頭のなかを巡るなか、そろそろ「着きますよ」という声に窓ガラスから外を見る。
外には和風の大きな屋敷が立っており、入り口の大きな門からして高級そうな感じがした。神永さんが門に入ってから車を止めると黒いスーツを着た男の人達が立って並び始める。
………え?
男の人達はノゾミさんが出るドアから見て左右に並んでおり、ノゾミさんは慣れた様子で車から外に出る。
「お帰りなさいませ!!」
うん、お腹のそこから良い挨拶……。
「ただいまみんな、いつもご苦労様」
ノゾミさんは少し疲れた、いや気まずそうな様子でそう返して数歩歩くと、私の方を振り返って見てきた。
え、私のこの人達の間を行くの?
というか、ここって明らかにヤがつく方々のお家だよね?
え?あんなに普通のハーフの少女っぽくて魔法少女の時の姿も普通の魔法少女っぽいのに?ノゾミさんってヤがつく人の娘だった?
この世界で平和に生きたいと思っていたのに、ヤがつく人達と関わってしまったという現実に私は気が遠くなる気がした。
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