第25話 実技試験

 奏汰たちが眠りから覚める30分前。神崎さん静華さん率いる実習室に居る大人たちは驚いていた。



「ふっ、やるな」

「流石ですよね!」

「うちの学生だからな」


 静華、神崎、理事長の3人で生徒たちの実技試験を採点し、見極めていた。



 最初教室で見た時大丈夫かな? って心配したけど大丈夫そう。みんな上手!



 生徒の中では全員それなりに上手いな。

 ベッドメイキング、リネン交換、体位変換、車椅子移動は基本中の基本。今回人数が多いから、回転率をあげるために人形でやってるが対応も上手い。


「はい! ここまで全員終わったな」


『はい!』


「じゃあ最後に、採血の試験だ。これは私ら3人で見てやる」


 神崎さんが生徒たちにそう告げた瞬間実習室は静まり返り、不安の声がそこかしこに上がった。


「さっ、やりますよー」


『はーい...!』

「やる気出せー」


『はぁーい...!』


「よし、じゃあ出席番号順で3人づつ来い。見て分かる通り、今回は人じゃなく採血練習キットにやってもらう」


「模擬血管は3本あって、見つけるところから始めてねー! ...あっ! あと、採血した血液は模擬血液だからこっちの入れ物に入れといてねー」


 そう言った静華さんは生徒から見て左側にある入れ物に手を持っていき、生徒に示す。


 それを見た理事長と神崎さんも同じように生徒に見せる。


「後はマニュアル通りだ」


 そこで1人の女子生徒から手が挙がる。


「すいません、軽くおさらいとかは...?」


「ごめんねー! それは出来ないんだよ。試験内容を直前に言えって理事長が...」


「理事長ー!」

「さすがにやばいよ理事長!」

「大体は覚えてるけど細かいところまで覚えてる自信ないよ理事長ー!」


「残念だったな......見学に来た時からお前たちは私の罠にハマっていたんだよ!」


 大袈裟に放った理事長の台詞のような言葉は静寂を呼んだ。


「理事長......ウケてないです...」

「ウケは狙ってないぞ」


 そう理事長が言った瞬間実習室が一段と寒くなった。


「理事長のことはほっておいて私からのアドバイスを一つだけ教えてやろう。...自信を持ってやれ、それだけだ」



 雪希子ゆきこさんってば少しピリピリしすぎ。十二光じゅうにこうの時みたいに私がサポートしてあげないといけないのは変わらないんだから。


「はい、じゃあ採血の試験始めるよー! みんな諦めずに頑張ってねー!」

『はい!』


 こうして採血の試験が始まった。


 生徒たちは自分の思ったやり方、合っているかどうか分からない状況で試験を進めていく。


 そんな中、試験官兼採点係の3人はものすごく集中していた。



 普通の看護学校、医療大学などは授業を聞いて、勉強し、何度も練習したら3年生の頃にはだいたい出来ていると思うのだけど、ここは普通の看護学校や医療大学とは違うの。

 数々のエリートをこの医療業界に送り出している超難関校。あらゆる医療について学び、接し、対応する。時には患者さんへの対応の仕方や、話し方など細かいところに目を向けて教える。


 だからどんなに細かくてもミスはミスと判断しなきゃ。



 実習室は張り詰めた空気に包まれていた。


 続々と試験をする生徒たち。

 3年生なので細かいところまで見られ採点されることは分かっていた。




「よし、じゃあ最後の組入れー」

「「「はい」」」


「じゃ、始めてくれ」


 えーっと、最後の子は...ん?

 ...この子、どこかで会ったことあるような...



「ふぅ」

 神崎さんの目の前にいる生徒はそっと息を吐く。そして試験を進めていった。



 こいつ...上手いじゃないか。


 患者さんに確認を取りながら注射器の準備をして、利き手じゃない方の手に駆血帯くけつたいを巻く。そして患者さんに親指を中に入れて手を握るよう指示をし、消毒。乾いたことを確認して穿刺していく。


 ここまでは完璧だけど......強いて言うなら声が硬いな。...まあこれは経験を積むしかないが。


 その子は穿刺したあと強い痛みや痺れが無いか確認して、採血管をホルダーに差し込みゆっくりと血液を引いていく。採り終えたらホルダーから採血管を抜き、その後駆血帯を外した。



 おっ、いいぞ。完璧だ。次は抜針ばっしんだな。



 そして消毒綿で刺入部しにゅうぶを押さえながら針を抜き、廃棄容器に直接捨てた。


 その後患者さんに説明し、真上からの圧迫止血を

 3分から5分程度行った。


「終わりました」

「はい、戻っていいよ」


 惜しかったな。最後、押さえながら抜くのではなく、抜いて押さえた方が患者さんの痛みを抑えれたのだが。


 でもそれ以外は完璧だ。十二光じゅうにこうか?


「これにて実技試験を終了する。お疲れ様」


 そう神崎さんが言った瞬間張り詰めていた空気が一瞬にして解かれ、穏やかな雰囲気になった。


 そして理事長が話し出す。


「はい、聞いてくれー。残り15分ぐらい余ったから病院内を見学させてもらうことにした。

 じゃ、解散!」


 理事長が解散と言ったあとは生徒たちがどんどんと立ち上がり、実習室を出て見学に行った。



「どうだった? 凄い子いた?」

「あ、静華さん。一番最後の子は結構上手かったよ。多分十二光なんじゃないかな?」


「へー! どんな子? 名前は!?」


 そう聞かれ生徒名簿を開き、順に目で探していく。


「えーっと......あ、この子。咲苺わらめ...佳子かこ?」


「その子知ってる! 椿ちゃんの親友!」

「...え!?」

「どこ行ったの!?」

「多分もう館内のどこかに...」


 静華さんはその場で落胆した。


「苗字が特徴的だったから覚えてたけど顔はそこまで覚えてる自信ない......」


「じゃあ、るなちゃんと灰羽さんの所に行きましょうか」


「はい......行きましょう...」




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 あとがきです。


 どうもまどうふです。

 咲と書いてワラ、苺と書いてメ。特徴的で可愛い苗字の出来上がりです。


 ちなみに2004年ぐらいまでは苺という漢字は人名に使ってはいけない漢字だったらしいですよ。


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 以上、まどうふでした!

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