本当の思いやりを知りなさい。

第1話 茉白さんと新くん

「どうして、そうなるの?貴方、馬鹿なの?因数分解、次のテストで出るのよ?それに、この面積を求める問題、さすがに、普通コースでやって行くなら、必要よ」


「茉白さーん…、この車線部の面積を求めろってどうやんの?わっかんないよー…」


「可愛子ぶってもダメ!!それに、車ではなく、斜めのほうよ」


「相変わらず茉白さんは俺の頭を読むのね…」


「まぁ、どんな問題より簡単だから。それより、新くん。君は、自ら望んで普通コースを選んだんでしょ?補習コースだってよかったのに…」


「う~ん…難しいけど、茉白さんと勉強してるの、楽しいから」


「…」


茉白さん、まんざらでもない。ふたりの会話を気付いただろうか?ふたりは、2年生になって、お互いを、『茉白さん。新くん。』と呼ぶようになった。そのふたりのやりとりは、もはや学校中の公認状態だった。山本も、もうふたりにちょっかいを出す気はないらしかった。



しかし、たった一人、ふたりの前に立ちはだかる人物が登場したのだ。




「新くん!そろそろ、図書室での勉強会、終わらせてもらって、サッカー部、来てもらえない?」


「…鳴瀬…一応先輩なんだから、くん付けで呼ぶなよ。ごめんね、茉白さん」


「私に謝ることない。でも、新くんも2年生キャプテンでしょ?そろそろ行って良いよ。因数分解は、また明日」


「わりぃ…。またな、茉白さん」


「すみません、茉白さん」


まるで、自分のものの様に、帆積は言った。


「いいえ」


「じゃ、行こう!!新くん!!」


「だから、先輩付けろって!茉白さんにも!!じゃなくて、!!」


「私は構わないよ。新くん。頑張って。私はもう少し、勉強していくから」


「あ、あぁ。頑張ってな」


「うん」


「…………」


帆積は、気分悪そうに茉白を睨みつけ、出て行った。


この鳴瀬帆積は、今年入った1年生で、サッカー部のマネージャーだ。明らかに、新のことを狙っている。茉白へのライバル心もメラメラだ。しかし、茉白は美人で、頭が良くて、美術部でも、何回もコンクールで賞を取っている。2年生…イヤ、この学校で、1番、将来有望な生徒に違いない。そんな茉白から、どう、新を奪うか、穂積は毎日考えていた。




「ねぇ、新くん、なんで茉白さんなの?あんなツンケンした人…」


「お前は…茉白さんのこと、なーんもしらんくせに生言うな!先グラウンド行ってろ!俺は着替えてから行く」


「…はーい…」




―次の日―



「おはようございまーす!新くん!」


「…」


「ねぇ、新くん、今日から一週間、勉強教えてくれません?」


「くれません」


「えー!!??」


「いきなり何なんだよ…」


「だって、1年生の時のテスト問題なら新くん解るでしょ?」


「そりゃ…茉白さんにとことん教え込まれたからな…」


「じゃあ、いいじゃないですか!!お願い!!2年生の前に、1年生の小テストがあるからさー」


「仕方ねーなぁ…3日間だけだぞ?」


「ありがとー!!」


(これで、一気に新くんに近づける!!)

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