第30話 密会

新月の日の真夜中、ミスティアは中庭でアレス王子を待っていた。


「ミスティア」


 低く抑えた声で呼ばれ、ミスティアはあたりを見渡した。


「ここだ、ミスティア。会いたかった」

 

 木の陰からアレス王子が姿を現した。


 黒っぽい外套に身を包み、闇夜に紛れている。


「アレス王子……」


 ミスティアはアレス王子に歩み寄った。


 アレス王子はミスティアの手を取り、その指先に口づけをした。ミスティアは手を引っ込め、悲しそうな目でアレス王子を見つめた。


「アレス王子、何を考えているのですか?」


「私はミスティアと一緒にいられれば、ほかには何もいらない。この国を捨てて、どこか別の場所でともに暮らそう」


 ミスティアは唇をかみ、アレス王子を見つめ、そして首を横に振った。


「アレス王子、貴方は勘違いされています。私は王子である貴方に興味を持っただけ」


「どういうことだ?」


 アレス王子が探るように、ミスティアの目を覗き込んだ。ミスティアは視線を外し、言葉を続けた。


「王子で亡くなった貴方には興味はないし、愛人として縛られるつもりもありません。私にとって、貴方との関係はただの火遊びだった」


 ミスティアは口角を少し上げ、冷たい目でアレス王子を軽く睨んだ。


「急に何を言い出すんだ?」


 アレス王子が悲しそうな声でミスティアに問い掛ける。


「王子の心を奪えるか、楽しい試みでした」


 ミスティアはアレス王子に背を向けそう言うと、振り返った。


「遊びの時間は終わりです。私は貴方を……」


 ミスティアはあふれそうになる涙をのみこみ、静かに、しかしはっきりと言った。


「私は貴方を愛していません」


「……わかった。それがあなたの答えなのですね……」


 アレス王子は力なくうつ向いたまま、立ち去った。


ミスティアが一人残された中庭で小さくつぶやく。


「……これで、いいのです。アレス王子の人生を……国の運命を……狂わせるわけには……いきません」


 冷え切った体よりも冷たくなった心を抱え、涙さえこぼせずに、ミスティアは自室に戻って行った。

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