第32話

「さ、さむぅ、こんな所に本当に人なんかすんでんの...... 生き物なんて生きていけないでしょ......」


 吹雪のなかオレは凍えながら聞いた。 港町から雪原についてモンスターを捜索する。 ミリエル、わーちゃん、マゼルダ、クエリア、スラリーニョ、イータだ。 


「ええ、過酷な環境ですが、モンスターも人も生活しているらしいです」


 ミリエルが真っ白な息をはいて答える。


「ここの人々は昔から害意のない弱いモンスターと共存しているそうですが、今はどうだかわかりませんな......」


 わーちゃんがそういった。


「そんなところなのにモンスターを排除っておかしくない?」


 マゼルダがポケットから顔を出した。


「いままでの法王たちは、この環境ゆえそこまで排他的ではなかったらしいのですが、現法王が神の敵と命じたため、信奉騎士団がモンスター討伐にあたってると聞いたことがある」


 クエリアはそういう。


「なあ、ミリエルもクエリア、二人ともそんな寒そうじゃないな」


「ええ、イータさんが熱を放出してくれてるので平気です」


「ああ、スラリーニョどのも熱を出してくれている」


「ええ!!? そうなの! そんな力あったっけ!」


「アゼルベード討伐の魔力により、イータどのは大きくなり、スラリーニョどのはグレータージェムスライムになりましたからな。 さまざまな特性を持ったのでしょう」


「くぅ、うらやましい、マゼルダも進化したんだろ。 なんかないのかよ」


「ブリリアントピクシーになったけど、特にそんな能力はないわ。 それより、風が入らないようにポケットを手で押さえといてよ。 あーおいし」 


 オレのポケットの中で、ブルルに作ってもらったスイーツを食べている。


「くぅ、こいつめ! うう、寒っ!」

 

 

 それから、しばらく歩くと町が見えてきた。


「やっと町だ。 早く宿にいこう!」


 オレたちは宿へと向かった。 


「ふぅ、落ち着いた」


「ふむ、それほど厚い壁でもないのに暖かいですな」


 わーちゃんがそういう。


(骨なのに感じられるのかな?)


「そうだよ。 この子のおかげだよ」


 そう宿にいた幼い女の子が、モコモコの綿毛のようなものを抱き抱えて持ってきた。


「ん? それモンスター」


「うん、コットンモール。 この中に魔法で暖かい空気を貯めてくれて、それをお部屋に流してくれるのよ」


 コットンモールは綿の中から少しだけ顔を見せている。 確かに暖かい風が吹いてくる。


「モンスターは禁止されてるのではなかったのですか?」


 ミリエルが聞くと、宿の店主が困った顔をしている。


「ええ...... ですが、私たちは昔から、この過酷な環境を生き抜くため、益となるモンスターたちと共存してまして、この子だけは見逃してもらっているのです」


「それを現法王が禁止しているのか」


「ああ、そうだ。 本当に迷惑してるんだ...... 人に友好的で役に立つモンスターが禁止されて、こんな所で生きて行けるわけないのに、アヴァイン法王さまの時代ならばこんなことはなかったはず......」


 宿に食材を運んでいた男が吐き捨てるようにそういった。


「アヴァイン法王? 他に法王っているの?」


「いえ、今のゼフトワイニ法王は二十四代ですが、アヴァイン法王は八代目です...... モンスターとの共存を願い、弱きモンスターの保護をしていたといわれる聖人でした」


「へえ、ましなやつもいんのね」


 マゼルダがポケットの中からいう。


「えっ? いまの声?」


「いえ、はははっ、それでモンスターたちはどこに?」


「そうですね。 おそらく人がいない場所、氷結洞窟というずっと凍りついた洞窟へ隠れているのではないでしょうか」


「氷結洞窟か......」


 わーちゃんは吹雪く窓の外を見ながらそう呟いた。



 二日後、吹雪がやみオレたちは、氷結洞窟へ向かった。 そこは凍りついた洞窟だが、思ったほど寒くはなかった。 こけや草花なども生えている。


「こんなところにいるのか...... でも寒くはないな」


「ええ、魔法で寒さを抑えているようですね」


 ミリエルがそういうとクエリアが少し白い息をはいてこたえた。


「ということはやはりここにモンスターがいるということか......」


「............」  


 わーちゃんが周囲を見回している。


「どうした?」


「いえ、この光景」


 日の光が氷に反射して洞窟を照らしている。


「確かに神秘的な光景だな。 なんだわーちゃんそういう繊細なところもあるんだな」


「いえ、いえ、そういうわけでは......」


 そう両手をふっている。


「まあ、照れずともよかろう」


「そうですね。 とても素敵な感性だと思います」


「ははっ」


 そうミリエルとクエリアに言われて頭をかいている。


「そういえば、静かだな」


「マゼルダどのでしょうな」   


「ああこいつか......」 


 ポケットの中をのぞくと、眠っているようだ」


「寝てやがる。 こいつなんのために来たんだ?」


「そういわないでください。 魔法で我々に精神耐性や、物理耐性、魔法耐性の魔法をはっているのですよ」


 ミリエルがそういう。


「まじで!?」 

 

(こいつそんなこと一切いわないのな)


 その寝顔をみながら、取りあえずポケットを静かに閉めた。


 奥深く進むと、大型の熊のようなモンスターが複数現れ、威嚇してくる。


「グルルルル!!」


「フロストベアですな......」


 そして吹雪の息を吐き出した。 それをかわすと当たった壁が凍りついた。


「さっ、さむ!! 取りあえず静かにさせないと、倒すか!」


「マスター...... ここは私におまかせを」


「おいわーちゃん!! 危ないぞ! そいつかなりの強い!」


 オレが止めるのを聞かず進んでいく。


 フロストベアは威嚇しているが、わーちゃんはその鼻先まで近づいていく。 フロストベアーは匂いを嗅ぐような仕草をすると、その威嚇をやめた。


「どうやら、わかってくれたようだな......」


「すごいな! わーちゃん!」


「ええ、あのものたちを守ろうとしていたようでしたので...... 攻撃性はないと判断しました」


 そうフロストベアの後ろを指差すと、そこには震える小さなモンスターたちがかなりの数、隠れていた。


「この子たちは守っていたのですね......」


 ミリエルはうなづいた。


「このフロストベアーはとても長命で賢く穏やかな性格で、他のモンスターの守護をするのです」


「なるほど...... わーちゃんどのはそれを知っていたのだな」


 クエリアは感心している。


「他にいないか聞けるかな......」


「聞いてみましょう」


 わーちゃんが何とか意思疎通し、何ヵ所かのモンスターが隠れている場所をフロストベアーに連れていってもらう。


「よし、これで全部かな」 


「人と共生できるモンスター以外はほとんどでしょう」


「そうか、ならマゼルダに隠蔽の魔法を使ってもらって早く船まで連れていこう」


「いえ、マスター私も隠蔽の魔法は会得しましたので使います」

 

「さすが、わーちゃん! たよりになる!」


「......いえ、それほどでも...... ですが、もう今日は暗い、遭難しかねないので帰るのは明日にしましょう」


 モンスターを一時的に一ヶ所に集まっていてもらい、オレたちは宿に向かった。

 


 次の日、マゼルダに朝早く起こされる。


「大変!! トラ早く起きて!」


「う、なんだよ...... まだ早すぎるだろ日ものぼってない......」


「わーちゃんがいないのよ!!」


「はぁ!?」


 部屋を出ると、ミリエルとクエリアがいた。


「ああ、トラさま!」


 そういうと手紙を差し出した。


「これが宿の方に預けられて、昨日夜遅くわーちゃんさまは出ていかれたそうです」


 手紙を読んでみる。


『マスター、勝手をして申し訳こざいません。 今一度モンスターがいないか不安なので確認をして参ります。 すぐに戻るので先に帰っていてください』


「ふーん、まあいいんじゃない隠蔽の魔法も使えるんだから、さきに帰ってよーよ」


 マゼルダがいう。


「いや、おかしい...... オレに直接話さずわーちゃんが勝手をするなんて...... いまわーちゃんがどこにいるかわかるものはいるか」 


「確かに...... 少し様子がおかしかったように感じました」


「私も不自然な感じはするな」


「なによ二人までそんな真剣な顔して、知ってる魔力なら探知できるけど...... 今は」


「マゼルダ...... 頼む」


「もう! わかったわよ!」


 ーー彼方の果てまで、たなびく尾をおい、わが手につかみとれーー


「マジックサーチ」


 マゼルダが目をつぶる。


「......この町から、北の方向に真っ直ぐすすんでいるわ」


「北...... この町から北に洞窟やモンスターがいる場所なんてない」  


 オレがいうと、クエリアが腕をくむ。


「この先にあるのは、メイギス法王国の大神殿があるアギナムアだぞ......」


「それって...... トラさま」


「わからん。 だが明らかにおかしい、みんな先にモンスターたちと船に帰っておいてくれ、オレはわーちゃんを連れていく」


「はぁ? なにいってんの一人で行くつもり!?」


 マゼンダが怒ったようにいう。


「ああ、他のモンスターを連れて船までいってくれ」


「私も行くわ!」


「ダメだ。 わーちゃんのかけた隠蔽の魔法が解けないとも限らん。 おまえはついていってくれ」


「なにいってんの私がいないと! それに魔力が......」


「オレへの耐性の魔法はいい...... みんなのために使ってくれ」


「なんでそれを!?」 


 マゼルダは驚いている。


「いつもかけてくれてたんだろ。 もう知ってる。 マゼンダは他のみんなを守ってやってくれ」


「で、でも」


「......わかりました。 では私たちは先にモンスターと帰っておきます」


 ミリエルはそう静かにいう。


「本当にいいのかミリエルどの」


「ええ、クエリアさま。 トラさまがもう決められたこと、私たちはそれに従いましょう」


「ふう、仕方ない......」


「もう!! 知らないんだからね!」


「ありがとうみんな......」


 オレはわーちゃんを追いメイギス法王国、大神殿へと向かうことになった。


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