第30話

「二人とも!!」 

 

 目が覚めるとオレは木造の家のベッドにいた。 となりにクエリアが寝ている。


「おい! クエリア」


 揺り動かすと息をしていた。 ほっとする。


「あっ...... ここは...... きゃあ!」


「いてぇ!!」 


「ふぎゃ」


 オレの顔をみてクエリアはビンタをし、その反動でベッドから床に落ちた。 

 

「何をする無礼者!」


「なにもしてない!」


「ちょ! ちょっと早くどきなさいよ! つぶれちゃうでしょ!」


 オレのポケットにはいっていたマゼルダが下から声をあげた。


「あっ、お前いたのか」


「いたわよ!!」


「ここは...... 私たちは確か、エルフの王国跡、城の前に......」


 その時、家のドアがあいた。 はいってきたのは美しい顔をした女性だった。


「目が覚めたか......」


「誰だ!」


 オレたちは構える。


「これエルフよ!」


 マゼルダがそういう。


「これいうな」


 マゼルダをたしなめてから、確認する。


(確かに耳が長いな。 それにめちゃめちゃ美人だ。 でもオレはミリエルの方がタイプだけど)


「ああ、私はエルフの長リディエート」


「リディエートどの、私たちはどうしてここに?」


 クエリアが聞くと机に、今とってきたであろう果実をおいた。


「まあ、話せば長いこれでも食べてくれ」


「いただきまーす!」


 マゼルダが飛んで果実にかぶりついた。

 

「リディエート、オレたちはどうしたんだ? あの城にはいろうとしたら急に眠気が」


「ああ、あれはかつてのエルフの居城、だが今はヴァンパイアの城になっている」


「ヴァンパイアの城......」


「あの霧はヴァンパイアの魔法だ。 吸うと睡魔に襲われ意識を失う」


 そういいながらリディエートは椅子に座る。


「それで...... じゃあ助けてくれたのか、どうもありがとう」


「ああ、助かった感謝する」 


 オレたちがそう感謝すると、悲しそうな笑顔で手を振る。


「かまわない...... こちらも君たちの助けが必要だからな」


 リディエートは少し目をそらしたが、こちらを向き真剣な眼差しでそういった。


「助け?」


「ヴァンパイア討伐に力を借りたい、君たちはかなりの手練れ、しかもその装備、おそらくそれはドワーフ製だろう。 少なくともヴァンパイアの仲間ではなさそうだしな」


「どうしてそう思うんだ?」


「君のつれているピクシーさ、彼女たちは善悪の見極めができる」


 マゼルダはその話を聞いて、自信満々で鼻をぴくつかせている。


「それ嘘っすよ。 こいつがどっちかというと悪よりですもん」


「それどういう意味よ!!」


 オレがマゼルダとほっぺたを引っ張りあう姿をみて、リディエートは笑う。


「他者との接触を嫌うエルフが私たちの力を借りたいなんて、普通じゃない。 魔王が暴れていた時でさえ、自分達の世界に閉じこもったと聞くけれど......」


 そう疑うようにクエリアがいうと、リディエートがため息をついた。


「......確かに、私たちは排他的だ。 自分達にしか興味がなく誇り高さゆえ他者と結び付くこともない。 ......だから魔王の軍勢がきたとき、どこも頼れず、助けてももらえず国が滅んだ......」


 そう後悔するようにリディエートはいうと、頭を下げた。


「頼む。 私と共にヴァンパイアを討ってほしい。 このままヴァンパイアが勢力を広げると、われらの森もいずれ滅ぶのだ」


「うん、まあ、いいんじゃない一緒に行けば」


「トラどの」


「そうよ。 助けてくれたんだし、仲間が多い方が勝率が上がるわ」 


「マゼルダまで、二人とも簡単すぎる」


 クエリアはあきれたようにいった。


「大抵物事は単純なんだ。 それをいろいろ難しく考えるから、わかんなくなる。 助けが欲しい、助けたい。 これでいいんだよ」


「そうよ。 考えるだけムダ、だいたい考え尽くして、いい考えなんて浮かんだことある?」


 そうマゼルダにいわれ、クエリアは少し考え込むとうなづいた。


「確かにそうかもな」


「......感謝する」


 深々とリディエートは頭を下げた。

 

「オレたちの仲間もここにきたはずなんだけど、知らないか」


「おそらく人間や我らエルフたちオーガたちと共に城に拘束されているはずだ。 ヴァンパイアは魔力をドレインで奪うために、とらえているからな。 そしてそのエルフの檻は特殊な魔法で作られているため、開けるのは困難だが......」


「保存食かよ。 ......その魔法の檻は開け方はあるのか」 


「ああ、中からは無理だが、外からの鍵なら開けられる」


「なるほど......」


「それであの霧をこえる方法はあるのかリディエートどの」


 クエリアの質問にリディエートはうなづいた。


「あの霧は闇魔法だ。 われらエルフたちの魔法で一時的に抑さえられる。 だが城に入ればヴァンパイアがいる。 やつが問題なんだ。 前に入ったものたちは帰ってこなかった......」


「捕まってる仲間を解放できれば、倒せそうだけど」


「無理だろうな。 魔法で強い催眠状態にあるはずだ。 でなければ仲間たちが脱出しないわけがない。 ヴァンパイアを倒すしかなかろう」


「ならヴァンパイアを倒すしかないか、よし決まりだな」


「......ああ、では明日向かおう」


 リディエートは少しためらったあと、覚悟を決めたようにそう告げた。



 次の日、数十人のエルフと共に城へと向かう。 城は霧に包まれている。


「では魔法でこの霧をはらす。 だが、一時的だ。 いずれまた霧が充満するから、それまでにヴァンパイアを倒すしかない」


「わかった」 


「......ああ、心得た」


 クエリアは緊張しているようだ。


「クエリア」  


「わかっている。 覚悟はできている......」


「もうやけよ! ヴァンパイアなんてけちょんけちょんにしてやる!」


 マゼルダが張り切っていった。


「魔法を!」


 リディエートの掛け声でエルフたちが魔法を詠唱する。 


「おお、霧が晴れていく!」


「では行くぞ! 足を止めるな!」


 リディエートの号令で城へと走る。


 城の門を抜け、内部へと入り駆け抜ける。 大きな部屋にはいった。 そこには誰も座っていない玉座がある。


「玉座か...... 王の間か」


「フフ......」


 そう笑い声が聞こえた。 周囲に人はいない。


「上か!」


 上から人影が降りてくる。 そして玉座に足を組んで座る。 それは黒いスーツに身を包みコウモリのような翼を持つ、青白い顔の若い男だった。


「お前がヴァンパイアか!」


「いかにも、私がヴァンパイア、アゼルベード。 以後お見知りおきを、してここになんのようかな人間諸君とエルフよ」


「オレの仲間を返せ!」


「仲間...... まさか、あの高い魔力のレアモンスターたちかね」


「そうだ」


「それは興味深い...... 君たちはどうみても人間だ。 なぜモンスターを仲間と呼ぶ」


「仲間は仲間だ。 種族なんて関係ないだろ!」 


「ふむう、不可解だがまあいい...... どうせ君たちも私の農場の果実となるのだからね」


「させるか!」  


「ディープスリープ......」


 そう後ろから声が聞こえると、急に眠気がした。


「うっ、なんだ意識が......」


「フフフフ......」


 オレはその薄ら笑いを聞きながら意識を失った。


 

「ここは......」


 目が覚めると、そこは地下牢のようでマゼルダも通り抜けられないほどの細い黒い鉄格子がある。


「お目覚めかね...... ずいぶん覚醒が速いな魔法に抵抗力があるようだ」

 

 前にはアゼルベードとリディエートがたっていた。 そこにはわーちゃんやミリエル、ルキナ、ギュレルもいる。


「わーちゃん! ミリエル! みんな!」


「あんた! 騙したのね!」


 マゼルダが吠えた。


「すまぬ...... アゼルベード約束だ。 我がエルフたちを返してもらおう!」


「フフ、断る」


「なんだと! 返すと約束し、ここにあのものたちを呼び寄せたのだぞ!」


「フフ...... 君は自分が裏切るのに裏切られたことを責めるのかね」


 その瞬間、リディエートは見事な剣でアゼルベードを切り裂いたが、斬ったそれは霧となってきえた。


「フフフ、それで私を倒せるなら、わざわざ従ったりはしないでしょう」


 後ろにいたアゼルベードに触られ、膝から崩れ落ちる。


「フフフ...... お前たちこの者を牢に閉じ込めよ」


 そう命じられわーちゃんたちがリディエートを前の牢に放り込んだ。


「ではごきげんよう...... フフフ」


 そう笑うとアゼルベードは上の階へのぼっていった。


「ぐっ......」


 牢にいれられたリディエートは苦しそうにうめいた。


「大丈夫か」


「どうせ! マジックドレインを受けたんでしょ! ほっときなさいよ! そんな裏切り者」


 マゼルダはほほを膨らませ怒っていた。


「す、すまぬ」


「お前も仲間を捕らえられてたのか」


「......ああ、異変に気づいて偵察にいかせたものたちがな。 それを探しにでたものたちも次々に捕らえられた。 正直まともにやりあって勝てる者ではない......」


「だから取引したと」


 クエリアがそういった。


「......そうだ」


「全くあんたたち前から何にも反省してないじゃない。 国を滅ぼしたときと同じ! 私たちを信じて一緒に戦えば正気もあったかもしれないのに! バカ!」


 マゼルダがいうとリディエートは目を伏せた。


「......そうだな。 全くその通りだ。 君たちの力を信じてなかった。 裏切って裏切られた...... 本当にバカだ」


 リディエートは拳を握り地面を叩く。


「......それで前は何で眠らなかった」


「私は睡眠耐性魔法で自らを守っている」


「それでか、あいつの弱点とか、仲間を催眠からとく方法とか知らないのか」


「......催眠ならやつの力が弱まればとける。 やつの弱点は日の光、だから霧を常に出して日光を弱めているのだ。 だがこの檻は......」


「ああ、それなら大丈夫、 スラリーニョ!」


「きゃあ!」


 シュポンとスラリーニョがクエリアの服から飛び出した。


「スラリーニョどの! いつの間に」


 クエリアが驚いている。


「ピー!」


「オレがクエリアの服に隠れてるように言ったんだ」


「そのようなスライムで、何をしようというのだ」


 リディエートはそういうと、スラリーニョが膨らんだ。


「ぴーぴー!」


「ただのスライムと思うなよ。 よしスラリーニョ、この細い鉄格子を抜けて鍵を開けてくれ」 


「ぴ!」


 スラリーニョは体を細くすると鉄格子をするりと抜け、鍵穴に入りがチャリと鍵を開けた。


「なんだ!? スライムは体を変化させても柔らかいはずなのに!?」


「みたか! スラリーニョはグレータースライムで、大きさを変えたり体を鉄のようにもできんのよ!」


 スラリーニョに乗っかり自分のことのようにマゼルダが自慢した。


「グレータースライム、高位のスライムか...... モンスターを使役する人間...... 君は何者だ?」


「それはいい、スラリーニョあっちの鍵も頼む」


「ピー!!」


「裏切った私を助けるのか」


「まあ、裏切ったってのは少し違うな。 人嫌いのエルフがいきなり現れた人間と協力しようなんて変だと思ったからな。 ここに入れなかったらどうしようもないから誘いに乗らせてもらっただけだ」


「えー!? なんで私にいわなかったのよ!」


 マゼルダがポカポカとなぐってくる。 


「マゼルダは顔に出るからだ」


「なによ!!」


 クエリアがいうと、マゼルダはふてくされた。


「利用されたのは私の方だったのか...... やはりエルフは疑われてたのか」


「エルフだからとかじゃないよ。 人はそんな簡単に信用できないだろ。 そういうのは関係性をつくっていってだからだ。 オレとこいつらは死線をくぐってきたから信頼できるがな」


「確かにそうだな...... しかし、アゼルベードは強い上、仲間を盾にするぞ。 戦う手だてはあるのか」


「まあな...... 弱点も知れたしきっとやれるさ。 だがお前が力をかしてくれないと一か八か、クエリアの魔法防御にかけるしかない。 騙したオレをお前は信じられるか」


「少なくともアゼルベードよりはな...... そのあとは共に死線をくぐってからだ」


「充分だよ。 お前たちは操られた仲間の気をそらしてくれればいい」

  

 そういうとリディエート黙ってうなづいた。


 

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