第28話

 サンドワームを倒したあと、トロールたちに長の家に集まってもらう。


「トラさま、われらトロールにいうことを聞いてもらうとは......」


 トロールの長、バイエムは困惑した顔で聞いてくる。


「そのままだ。 君たちには魔王島にきてもらう」


 オレがそういうと、トロールたちはざわついている。


「しかし...... 我らは」


「バイエム、トロールは流されるまま命運に従うんだろう。 ならオレに従えばいい」


「支配なさると......」


 バイエムはため息をついた。


「......本当は迷った。 でもサンドワームに抵抗しようとしたよね」


「それは、危険が迫ってきたので......」


「そう生きるために武器をとった。 別に死にたいわけでも、生きることを諦めたわけでもない。 なら、生きるための選択としてオレについてきて欲しい。 このままどうせ滅ぶなら、それでもいいだろう」


「ふむ、みな、どうする......」


 バイエムがそうトロールたちに問うた。


「仮に行ったとして、また他のモンスターたちに憎まれ、うとまれるのではないか......」


「うむ、ここでひっそり生きたほうが...... 争わぬにこしたことはない」


「......しかし、ここでは未来なぞない。 我らはよくても、子供たちはどうする」


「そうね。 可能性のない未来なら、危険でも可能性をとるべきじゃないかしら、サンドワームには立ち向かったのだから......」


「我らは長に従いましょう。 それゆえあなたを長に選んだのですから」

 

 トロールたちの話を聞いて、エイバムはうなづく。


「......我々は争わぬことが自らを守る最良としておりました。 しかし、それはなにも選択しないこととは違うとサンドワームの件で気づきました。 いや知っていて見ようとしなかった現実をみたのです。 トラさま、我らをお連れください...... いや我らを連れていってくだされ」 

 

 そうバイエムとトロールたちは頭を下げた。


「わかった! じゃあ魔王島に帰ろうか。 必要な荷物はまとめて」


 トロールたちは自らの荷物をまとめている。


「さあ、トロールも仲間にしたから帰るか」


「でも魔王城のことどうすんのよ」


 マゼルダはあきれたようにいう。 それを聞いていたバイエムが話しかけてきた。

 

「魔王城のことはわかりませんが、この大洞窟の向こうにメシュミナの森があります。 そこは我らトロールや魔王の生まれ故郷、もしかしたらそこに何かあるやもしれません」


「魔王の生まれ故郷か......」


「ええ確実ではありませんが、我らトロールの先祖は、そこから追いたてられたといいます。 きっと幼き魔王も......」


「そうだな。 確かに魔王の心の傷がそのことに根ざしているなら、魔王城に関係するものがあるかもしれんな」


 ギュレルがそういった。


「わかった。 取り合えず行ってみよう。 まずはギュレルに空からその森へオレたちをおくってくれ。 その間トロールたちは待ってて」


「はい、わかりました」  



 オレたちはギュレルにのり、巨大な洞窟を越え森へと降り立つ。


「ギュレル、トロールたちを乗せて砂漠を越えて船まで行って欲しい。 ついでに契約したサンドワームも空から先導を、マゼルダも隠蔽の魔法を使うため、船まで一緒に行ってくれ」


「ええ!? しょーがないわね。 これは貸しよ。 貸し」


 そうぶつくさいいながらギュレルたちは飛び立った。 


 オレとクエリア、スラリーニョは森にはいった。


「さすがに三人だからな慎重にいこう。 そうだクエリア、魔王が倒されてから、その部下たちはどうなったんだ?」

  

「全て倒されたわけではないからな。 残党は世界各地に散り、その後、魔王を語るものもいたらしいが、その都度モンスターや人間に討伐されたという。 今や魔王を語るものもいない」


「誰も残ってないのか」


「みんな魔王の力を恐れ、恐怖で支配されていたとされるからな。 所詮集まったのは魔王に支配されたか、その力を欲っしたものだけだ」


「孤独だな...... なんかそうなるとかわいそうだな」


「まあな。 本当の仲間等はいなかったのかもしれん。 トラどのとは違うな」


「ああ、オレにはみんながいるからな」


 クエリアの持っているスラリーニョを撫でる。


「ぴー」


  

 しばらく森を歩いていると、石の建物の残骸らしきものが見えてきた。 所々に崩れ苔の生えた石が転がっている。 


「ここがトロールの故郷か」


「かなり古いな。 石の角も削られてほとんどが丸くなってる...... とはいえ建物もほとんどがない」


「だな。 ん? あそこ」


 奥を見てみると、崩れた柱のそばに他の石とは違う石床がある。 


「ここだけ、他と材質が違うのか」


「それか新しいのかも...... 崩れてもない」


 オレたちはその石床を調べる。 被ってた土を丁寧に払うと、何か石床に紋章のようなものがみえる。


「なんだこれ? 紋章」


「ああ、帝国の紋章だ。 ここに勇者がきたことの証明だ」


 クエリアがペンダントをみている。


「なら、スラリーニョ、魔法でここらを流してくれ!」


「ぴっ!」


 スラリーニョは魔法で大量の水を作ると、それを吹き出し地面をおしながした。


「おお! すごいな! スラリーニョどの!」


 クエリアは感嘆の声をもらした。


「ぴぴ!!」


 誉められてスラリーニョはとても自慢げだ。


「ほら、ここに何かある」


 さっきの紋様のあった石床か綺麗に露出する。 


「ここにくぼみがある。 これって......」


「このペンダントか」


 クエリアはペンダントをくぼみへとおし当てた。

 

 すると、石床の一部が変化し、下への階段ができた。


「......どうやら、勇者に関係あるみたいだな行くぞクエリア、スラリーニョ」


「ああ、おそらくドワーフの作ったものだろうな。 魔王側についたドワーフもいたというからな」


 先に進むと大きな部屋があり中央に巨大な扉があった。 そして左右に石の台座、その上に透明な拳大の球体がある。


「球体も気になるが、扉か...... いくか」


「ああ、罠ではないだろう。 このペンダントがないとこれないからな」


 オレたちはその扉の前にたった。 すると左右の台座の球体が輝いた。


「ここは!?」


 すると、そこは先ほどの地下ではなく、草原のような場所にいた。 湖のようなものがみえる。


「今のは転移か!! あれは転送装置なのか......」


 そして遠く正面に大きな城が見えた。


「あれが魔王城か! しかしモンスターもいるやもしれない。 一度戻るか......」


「いやそれはいいが、どうやって戻るのだ?」


 クエリアが首をかしげた。


「えっ、どうって? あれ? オレたち......」


 そのとき、ギュレルが船に帰ったことを思い出した。


「......た、たしゅけてーーー」


 オレの声が空に響いた。 



「しかたないだろう。 もう泣き止めトラどの」


「くすん、だって、こんなところに置いてかれるなんて...... 帰ろうにもあの砂漠は越えられないし......」


「帰らなければ、そのうちギュレルどのとマゼルダが気づくだろう」 


「そうだな! ギュレルとマゼルダが気づく......」


 その時浴びるように酒を飲み、人にからむギュレルと、お菓子を独り占めしようとするマゼルダの顔が浮かんだ。


「あのふたり気づくかな......」 


「............」


 クエリアの返事はなかった。



 しかたないので、ゆっくりと魔王の城へと向かった。 古いはずの城はそれを感じさせないほど多彩な装飾で彩られ、その壮麗さは神殿のようでもあった。


「すごいな! こんな高い天井始めてだ!」


「ドワーフの建造物か...... すごい装飾が施されてはいるが、ただ所々の柱に焼けたあとや斬られたようなあとなどがあるな。 やはり激しい戦いがあったんだろう」


 クエリアがその時に思いを馳せるようにいった。 


 その広い城の真ん中を歩く、大きな扉をいくつも開いて進む。


「広いな...... 掃除とかどうすんのよ」


「ああ、真っ直ぐだけで町並みの広さだな。 左右の通路をいれたら調べるのに何日かかるかわからない」


 しばらく歩くと今までで一番大きな両扉があった。 それを静かに開ける。 


「なっ!!?」


 その大きな部屋には黒いドラゴンが伏せていた。


「ドラゴン!?」


 ドラゴンがそのまぶたを開いた。 その黄色い目がこちらをギロリとにらむと立ち上がり、いきなり口から炎を吹き出した。


「シャインシールド!!」


 クエリアの光の巨大な盾が炎を防いだ。 オレはすぐに近づいて魔法を放った。


「ダークネスゲイザー!!」


「グオオオオオオ!!」


 ドラゴンはダメージをうけたようだが、体を反転ししっぽでオレは叩きつけられ地面を転がる。 


「ぐぅ!!」 


「ライトジャベリン!!」」


 クエリアの無数の光の槍が向かい当たるとドラゴンは怯んだ。


「大丈夫か! トラどの!!」


「いてて、だが大丈夫...... やれる!」


 オレは魔力を暴走させ加速した。 そして飛び上がろうとするドラゴンの真上に飛んで殴り付けた。


「ガァアアアアアア!!」


 ドラゴンは地面に落ち土煙をあげた。 そしてふらつきながらたちあがる。


「......そ、その力...... 魔力の暴走だと......」


「お前しゃべれるのか!」


「な、なんだと、その力を使って自我を保てるのか......」


 するとドラゴンはその姿をかえていく。


「な、なに!? お前は!!」  


 それは小さな少女だった。 


「ドワーフか!!」  


「ファフニール!」


 オレとクエリアは驚いた。 


「......ほう、なぜそれを知っている」  


 

 オレたちは事情をそのドワーフに話した。


「モンスターとの共存、そしてギュレルか...... それで知っていたのだな」   


「ギュレルを知ってるのか?」


「我よりあとに、禁忌としていたドラゴンとの融合を果たした愚か者だからな......」


 ドワーフは考え込むようにそう答えた。


「それでお前はなんなんだ。 なんで魔王城にいる。 魔王の手下か」


「違う。 我はマティナス。 勇者と共に魔王を倒した者だ」


「魔王を倒した......」


 マティナスはそういうクエリアをみつめる。


「そうか、お前はグランディオスに連なるものか......」


「ああ、本名はクエリエル。 勇者の末裔だ」


「あの者の...... アイディメナスに顔がにているな」


「それって魔王島に安置されてた遺体か。 ということはあれを作ったのはお前か」 


「そうだ。 あのものはアイディメナス、グランディオスの妻だ」


「そうなのか...... それでなんでトライ...... いやキマイラにあんなひどいことをした」


「ひどい...... 契約のことか」

 

「ああ、ずっとあそこを守らさせられたんだぞ」


「そうか、だが我らにとってモンスターは敵だった。 あの当時はな...... ゆえに道具として使うことはおかしくなかった。 奴らも人を襲い食らったからな。 そうだろう」


「そうだけど...... まあ納得は行かないが、昔のことを言ってもしょうがないからな。 それでここになんでいたんだ?」


「魔王に連なるものが、また復活して悪用せぬよう守っていたのだ」


「ふーん、まあいいや、でここを使わせてもらえるのか」


「......そうだな。 ここに人間に敵意のないものが来るならかまうまい。 人間との約定も果たせる」


 そうマティナスは目を閉じいった。


「どう言うことだ?」


「我らドワーフもかつてはモンスターと呼ばれていた。 勇者に与し、魔王と戦うことでドワーフを人種として認めさせるそういう約定だ」

 

(そういや昔はドワーフもモンスターだったな)


「ふぁ、まあ、まだ聞きたいことはあるけど、つかれたから...... ねむる......」


「おい、トラどの!」


 そういうクエリアの声を遠くに聴きながら、オレはそのまま眠りに落ちた。



 

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