第18話

 オレたちは魔王島へと帰ると、みんなは浜まで迎えにきてくれていた。


「おお! マスターお帰りなさいませ」


「うわぁ! スケルトン!?」     


 わーちゃんが近づくとクエリアは剣を抜いて構える。


「ああ、それはワイトのわーちゃん、オレの仲間だよ。 あれみんな服着てる?」


「アンデッドまで仲間なのか...... それにこの数、かなりの上位モンスターまでいる! ゴーレム! あれはキマイラなのか! 信じられん!」


「はて? その者はマスター?」  


 わーちゃんは首をかしげて聞いてきた。


「うん、こちらグランディオス帝国の皇女クエリエル、いやクエリアだ」 


「な、なんてことを、皇女をさらってきたのですか! いよいよ人間をやめられるということですか!!」


「ち、ちがうわ! 人間やめるきはないわ! クエリアは逃げてきたんだよ!」


 そして事情をわーちゃんに話しながら居住地まで移動する。


「なるほど...... 帝国がそのようなことに、やはり暴走の件と関わっていましたか」


「ああ...... ってなにこれ!? すごいことになってる!!」


 前は掘っ立て小屋だった家が、立派なレンガの家が整然と並んでいる。 地面も石畳で側溝まであり、水が流れている。川の方に水車がみえた。


「ああ、みなが頑張りましてな。 このように綺麗になりました。  無論まだまだ改良の余地はありますがな」


「すごいな。 これはまるで人間の町だ」


 クエリアがキョロキョロと見回している。 ワーキャットたちもざわざわしている。


「トラすごい! すごい!」


(ラキナが一番はしゃいでいるが...... まあオレも気持ちは同じだが、畑もある農園か、あれは牧場、鶏小屋もあるな)  


「さあ、あちらにマスターの住居兼迎賓館があります!」


「ほお、ぶっ!! 城じゃないか!」


 こぶりだが完全にそれは城だった。


「はい、この魔王島の統治者であらせられますマスターはいわば王!

しかしまだ小さなものゆえ、これから大きくしていきましょうぞ」


 わーちゃんはやる気まんまんだ。


(いや、そんな張り切らなくても...... そもそも王さまになるきはないんだが......)


「あっ! トラさま! ルキナさん!」


 城からでてきたミリエルがこちらに走りよってくる。


「ああ! ミリエル!」


 ルキナは抱きついていった。


(う、うらやましい。 アホのふりしてオレもいくか)


「あの者...... 人間か?」


「いや、サキュバスだよ」


「サキュバス!?」


 そういうとクエリアはこちらをみて露骨にいやな顔をしている。


「......サキュバスは淫らなモンスター、それを側においてるなんて......」


「ちがう!! ちがう!! ちがう!! それ間違ってるから、サキュバスそんなんじゃないから!」


 オレは必死に弁明した。


 取りあえず城に入り落ち着いて現状の話を聞いた。 どうやら、綿から糸そして衣服を作り出したりしていたようだ。


「それでモンスターたちや、ミリエルがかわいい服を着ているのか」


「か、かわいいだなんて、そ、そんな」


 ミリエルは照れている。


「マスター私もほら」


「うん、すごい個性的......」


「やっだ!!」


 わーちゃんはくねくねしている。


(真っ黒な上、黒魔術を使いそうなフードのついたローブ、鎌をもたせたら完全に死神だな)


「......ふむ、現状は理解した。 で当面のやるべきことだが何かあるかな」


「そうですな。 ここの土地は広く、まだ少ししか使えていませんな。 今回ワーキャットを連れてきていただいたので、少しは補えるかと存じますが、もっと多くのモンスターが必要でしょうな」


 わーちゃんがいう。


「ふむ、仲間か...... 多いほど人間も助かり安全にはなるし、開拓にも必要か」 


「服などを作っていますが、作る量も少ないので、機械も素材も技能も足りません。 できるなら綿花などが欲しいです」


「食べ物の種類も外ほどない。 美味しいものもあんまりない」 


 ミリエルとラキナがいう。


「なるほど、綿花、食べ物、畑かそれはやはり人員が必要ということだな。 それに機械、工具、やはり鍛冶師、職人も必要か...... でも人なんてきてくんないだろうし?」


「失礼ですが」


 ワーキャットの村長ファガーが手を上げる。


「なにファガー?」


「職人ならドワーフならばいかがでしょう?」


「ドワーフか、確かに器用で様々な物を作れましょうな。 彼らは少し前までモンスターとされていましたし、ここにきてくれるやも知れませんな」


「でもドワーフがどこにいるか知ってるの?」


「ここが魔王島なら西に行くとエンバレルという国があり、その山脈、アスラモ山脈に住んでいると聞いたことがあります」


 そうファガーがいう。


「それなら人員を補充するために、一度行ってみるか」  

 

「だったら帰ってくるとき、絶対美味しいものもってきて! 絶対だよ! 絶対!」


 ルキナがそういう。


「わかった、わかった」



 次の日、オレたちは西のエンバレルへと中型の船に乗り航海にでた。


「ミリエルとイータ、スラリーニョとあおまる...... そしてなんでクエリアもいるの!?」


「悪いか」


 クエリアは不機嫌そうに返した。


「いや危険だよ。 クエリアは帝国に追われかねないんだろ」


「そうですが、クエリアさんの方が人間世界のことを詳しく知っていますしね」


「そうミリエルどののいうとおりだ。 それに帝国の動向を常に知らねば突然行動したとき、何の手だてもうてん。 だからあの島で安穏とはしておられん。 もちろん危険が迫れば島にこもらせてもらうがな」


(大胆だな。 仲間ができて気が大きくなってるんだろうが、まあオレたちが守ればいいか)


 それから三日でエンバレルについた。


「えらいはやいな! あの大型船の三倍はでてた!」 


「スラリーニョどのが海水を噴出して船を進ませてくれたからな」


「ぴー!!」


 スラリーニョはクエリアが気に入ったらしく、常についてまわっている。


「まあ、あの大型船は帆船だから風に頼るところがあったからな」


 陸に上がると前方に巨大な山脈がみえる。 


「あれがアスラモ山脈か、でかいな」


「ええ小国並みの大きさがあるらしいです、わーちゃんさまのお話だと、この先に町があるらしいです」


「確かタタリアだ。 ドワーフと人間がすむ町と聞いたことがあるな」


「わざわざ山に入らなくてもそこで勧誘できればいいな。 あおまるは船を見張っててくれ」


「クァ」


「スラリーニョお前は小さくなってクエリアにくっついて守ってくれ」


「ぴー!!」


 そういうとスラリーニョは小さくなりクエリアの懐に入った。


「ははは、く、くすぐったい! それにしてもこのスラリーニョどのは形を自在にかえるのだな」


「ああ、グレータースライムになってから小さくもなれるようになったみたいだ」 


「ふむ、すごいな。 頼むぞ」


「ぴー」

 

「それでミリエル、ドワーフってなんなんだ。 ちっさいおっさんぐらいしかわからんが」


「ええ、器用な種族ですね。 職人が多いらしいです。 私も遠目からしかみたことはありませんが」

 

「ふーん、ということはここは加工品が産業なのか?」


「タタリアか、鉱物売買が主産業の町だ」


「鉱物売買? ドワーフなら加工品を売るんじゃないの?」


「さあ、それは、確かに昔は加工品の産地だったのに、おかしいな......」


 クエリアは首をかしげている。

 

「まあいけばいいか」


 オレたちは街道をすすむ。


 立派な石畳の街道だが、所々石が砕けている。


(補修されてないのか)


 しばらく歩くと壁が見えてきた。


「石の壁か、門に人がいるな」


 門まで近づくと、武装した衛兵が複数いた。


「なんなの? このものものしさ」


 オレは衛兵に聞いた。


「今はドワーフとの関係が悪化している。 襲われないよう町警備しているんだ」


 衛兵はうんざりしたようにこたえた。


「えっ!? ドワーフはここにいないの?」


「......ああ、今はアスラモ山脈にいるよ」


 バツの悪そうな顔をしてそういうと、口をつぐんだ。


(なんだ? この感じ)


 オレたちは顔を見合わせ、町に入った。


 町は静かで、技巧を凝らした建築物が数多くあるが、人どおりもすくなく物悲しさが漂う。


「建物は立派だけど、活気があるとはいいがたいな」


「ですね。 店なんかも多くは空き店舗になっていますね」


「ふむ、ドワーフがいないことと関係がありそうだ」


「こんなときは!」


 三人で酒場にいく。


「トラさま? なぜそわそわしてるんですか?」


「い、いや、なんか緊張して......」


 中に入る。 酒場にも人はまばらだ。


「いらっしゃい......」


 女性が店主のようだ。


「あの、なんか町が閑散としてるんですけど」


「ああ、ドワーフと対立してね。 それで町の産業が壊滅的なのさ」


「ドワーフと?」


「元々多少のいざこざはあったが共生はしていたんだ。 でもドワーフが怒りだしてね」


「その理由は?」


「鉱山の採掘を巡ってドワーフと意見があわなかったし、物も作ってもくれなくなったからね」


「ヴェスターブのやろうのせいだろ!」


 丸テーブルに座る酔った客がビン片手にそういった。


「ヴェスターブ?」


「この町の領主だよ。 ドワーフに無理な要求をして怒らせた張本人さ」


「まあ、でもおれらにも責任のいったんはあらーな」


 別の酔いつぶれた男が投げやりにそういった。


(どうも、後悔してるようだな)


「そのドワーフたちはアスラモ山脈にいるの?」


「ああ、みんなこの町を出ていっちまったからね」


 そう店主はため息混じりで話した。


「私たちもでていきたいぐらいさね......」


「そんな金があればとっくにでていってるだろ」


「ああ、もう仕事もねえ。 このまま飢えるのを待つくらいだ......」


 そういって客たちは机に突っ伏した。


 オレたちは店をでる。


「アスラモ山脈にいくしかないな」


「そうですね」


「しかし、何があったんだ?」


「わからんがチャンスだ。 ここに住んでないなら、魔王島にきてくれる可能性があるからな」


 その日は宿に泊まり、次の日裏手の門からアスラモ山脈へとすすんだ。


「この先か」


「やめるよう門の衛兵さんに止められましたね」


「よほど対立が根深いんだな」


 ごつごつした岩山をオレたちはすすむ。 昼頃になっていた。


「はぁ、はぁ、かなりきついな。 ミリエル、クエリアは大丈夫か」


「な、なんとか」


「ああ、しかしかなりきつい」


「こんな水も食べものもないところでどうやって暮らしてるんだ」


 その時、何かの気配を感じる。


「なにかいる!?」


 見ると周囲を背の低い筋肉質の男たちが手に武器を構えている。


「人間め! 何のようだ!」


「ここは貴様たちが来るところではない!」


「それとも戦でもしようというか!」


 かなり殺気立っているようだ。


「い、いや、オレは......」


 その気はくに気おされる。


「やめよ! 武器を抜かぬ者に大勢で囲み威圧するなど、狭量とは思わぬか!」


 そのクエリアの声でドワーフはたじろぐ。


(さすが皇女!)


「......ではなにようか」


 ドワーフの囲みから一人の小柄な女性が現れた。


(きれい! 筋肉質だがひげ面でもない! ドワーフの女性か!)


「ああ、話をしに来た。 君たちを勧誘しようと思って」


「誘う?」


 ドワーフたちは顔をみあわせる。


「......それは無理な相談だが、一応客人、話だけは聞こう」


 そう顔色ひとつかえずに女性はいった。


(さっそく牽制されたが、なんとか説得しないとな)

 

 そしてドワーフたちから、ひとつの大きな洞窟へと招かれた。


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