VRMMOでお酒が飲みたい!性別不定の酒探索〜どうしてここにはお酒がないんですか!?〜【旧題】ホルトゥス・ネクソム〜風の精霊は酒を求めて奔走する〜

猫又

000. 酒への道は果てしなく

 今度こそ、と、緊張しながら小樽を覗く。

 ホコリなんかが入らないように、慎重に器へと移していざ鑑定!!


[調味料]ミーリン【レア度:A+ 品質:C】

ラスから作成された飴色のとろりとした液体。甘みがあり、めったに手に入らない。

酒精はほどほどにあるが、調味料としての扱いが一般的。


 <アークにて初めて生成されました。ネクソムと照合……該当なし。レシピを世界に定着させますか?>


「そうだけど!そうじゃないっっっ!!!!」


 望んだ方向から斜め45度にそれた結果に、表示されたウィンドウのイエスを叩きつける。閉じたそれを追うようにして、地面へとすがりついた。


「あらぁ、これはまた、良いもの作ったわね。料理人たちが喜びそうだわ」

「もってんなホップ」

「俺が望んだものと違うんですけどぉ!?!?」


 放りだした器を器用にキャッチして鑑定を始めるステッラに、面白そうに樽の中身を覗き込むモルト。断りもなく味見を始める二人を恨めしく見ていると、そっと肩に手が添えられた。


「あの、落ち込まないでください。ほら、前と違ってアルコールは含まれてるみたいですし、もう少しですよ」

「そうだぜ!なんかふわっとするニオイがそうなんだろ?前のよりふわっとしてる!」

「レラぁ、エドぉ……」


 涙目になりかけた目をぐっと瞑って立ち上がる。

 二人の励ましに幾ばくか心を持ち直し、握りこぶしを天へと突き上げた。


「そうだな!アルコールは入ってる!!目標に一歩近づいた!!」

「ミリン、いやミーリン飲めばいいじゃん」

「どうしてそういう事言うのぉ!!!?」


 奮い立たせたわずかな芽を踏みにじるような発言をしたギャジーの、その無駄に整った長髪をひっつかむ。セーフエリアであるここではフレンドリーファイアなんて無いので心置きなく引っ張った。八つ当たりで。


「いっっだ!いた!おま!抜ける!!」

「剥げてしまえ!!!!」

「なんか単語違う気がするんだけど!?」


 丸刈りどころか中身を掻き出して剥製にしてやろうかという勢いだったが、過たず通じたらしい。いいことだ。周りも止めることなく遠巻きに見ているからこれは許された。正義は我にあり。


「ねえねえ、これ買い取らせて頂戴」

「瓶二本までな。あとは料理に使う」

「いいから手を離せえ!!使うんじゃねえか!!」

「それはそれこれはこれ」


 ステッラと価格調整をしながら喚くギャジーを放り投げる。腕力?もちろんないので風魔法に頼っています。遠くで綺麗にに着地を決めるのを確認しつつ、まとまった価格にOKを出した。


「まいどありー」

「うふふ、また未知のアイテムがコレクションに増えたわぁ」

「ミリンだけどな」

「お黙り」


 戻ってきたギャジーがまたいらん事をぬかして踏みつけられるのを眺めながら、レラとエドに一本ずつミーリンを詰めてもらう。被害を受けないよう寄ってきたモルトが差し出すビアジョッキを受け取って一息に煽った。

 なお、中身はジュースである。微量のMP回復付き。


「アルコール発生したお祝い。早くビール作って」

「使えそうな麦ください」

「ごめんな、俺の愛しかやれない」

「っぺ!」


 いつもの漫才をこなしつつ、トレードウィンドウが開いたのに小首をかしげる。相手はモルト。目の前でニヤッと笑うのにいくばくかの期待を込めてアイテムが載せられるのを待てば、未鑑定の種が数種類表示された。


「がちゃのお時間です」

「お前の愛、受け取ったわ」


 もしかしたらこの中に麦があるかもしれない……期待とともに鑑定を発動し、結果惨敗して再び地面とお友達になった。


 ――これはVRMMO、そのゲーム世界の中で、酒を求めて奮闘する一人の青年の話である。


「私は、酒を作り出すまで諦めない!!」


 なお、酒以外のレアアイテムはばんばか作っている模様。



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