京都のマレビト
例によって図書室にやってきた。明蓮に勉強を教えることで彼女の役に立てれば少しは心を開いてくれるだろうか。
「うーん、京都京都……」
図書室にはオリンピックがいた。京都について調べているようだが、今日は土曜日だ。授業は午前中に終わり、生徒会の仕事もやってきたので、学園には運動系の部活をする生徒以外ほとんど残っていない。オリンピックのことだからアリスか天照と遊んでいるかと思っていたのだが。
私も常に周囲を警戒しているわけではないので、図書室にオリンピックがいるということには扉を開ける直前まで気づかなかった。
「修学旅行先の下調べ? ずいぶん気が早いね」
彼女に気付いた明蓮が話しかけた。さっきまで作っていたしおりに京都のことが書いてあったな。だがオリンピックが調べるものと言えば、一つしかない。
「あ、明蓮さん。河伯君も。また二人でお勉強? 私は京都にいるマレビトを調べようと思って」
「相変わらずだな」
明蓮や私の秘密を知っても彼女の振る舞いが変わることは無かった。周りに広めるような素振りもない。むしろ時々クラスメイトに怪しげな含み笑いをしている。自分だけが知っている秘密があることに優越感を覚える性質らしい。
「あっ、河伯君は京都にいるマレビト知らない?」
もちろん知っているが、沢山いすぎてどれとは言い難いな。とりあえず一番有名なところを教えておこうか。
「有名なのは
「狐の神様! 玉藻さんと仲良いのかな?」
「九尾の狐と仲が良いかは分からないが、そもそも倉稲魂命は狐ではない。狐は彼女の使いだ。神の中でも最も高い位をもつ高貴な
「女神様なんだ! どんな神様なの?」
「そこまで詳しくは知らないが、その名の通り稲の神だから農耕をするような女神なのではないか? 天照に聞けば詳しく教えてくれるかもな」
私は日本の神と知り合いではないので、知識としての情報しか語れない。それよりもそろそろ明蓮と勉強をしたいのだが。
「そういえば五輪さんは河伯と佐賀に行きたいんじゃなかった?」
佐賀? なぜそんな話になっているのだ。佐賀には人間に危害を加えるマレビトが多いから、行くなら確かに護衛が必要だろうが。
「えー、それを明蓮さんが言うの?」
何やら不満げな表情でオリンピックが抗議する。高天原で何か話したのだろうか。
「佐賀に行くなら、それなりに時間のある時にした方がいい。京都より遠いからな」
一緒に行くのは構わないが、さすがに学園が長期の休みに入っている時にでもしないとオリンピックの学業に影響が出るだろう。
「ところで、オリンピックは勉強しなくていいのか?」
彼女の成績が悪いとは聞いた覚えがないが、私の知る限り彼女が勉強している姿を見たことがない。授業も積極的に妨害していた。
「私は一夜漬け派!」
元気いっぱいにあまり自慢できないことを宣言する。まあ、本人がそれでいいのなら私がとやかく言う話でもない。
「そうか。では明蓮、今日はどの科目を勉強するのだ?」
私はオリンピックを放っておいて、明蓮に話を振った。早く勉強を始めないと時間だけが過ぎていくからな。
「今日は世界史の勉強をするわ。アイツらと話がついたから、だいぶ余裕ができてね。そんなに焦らなくてもよさそうだから分からないところだけ聞くわ」
もっと頼って欲しいところだが、自分で学んだ方が覚えやすいものだ。私は彼女が勉強するのを横で見ていることにした。
「うーん、ウカノミタマウカノミタマ……」
オリンピックは調べ物に戻った。彼女のことだから本当に修学旅行中に倉稲魂命と接触するかもしれないな、その時のために私もあの女神について調べておこう。
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