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 ティアを発見してから二週間ほど経ったある日のことだった。

 その日は珍しくデータの整理が早く終わり、アパートに戻ってきた。

 最近霧尾はティアを連れてドライブに出かける。彼女が涙を流した地域で雨を観測する為だ。その関連性について調査を続けていたが、未だにこれといったデータは集められていない。


 アパートの玄関前に、大きな黒い外国車が停まっていた。

中から金髪の男性が出てきて、霧尾の姿に気づいたのか、彼は軽く会釈をしてから「こんにちは」と綺麗な日本語で発音した。


「何か御用でしょうか」

「こちらにティアがいますね?」


 表情はにこやかだったが、霧尾は一気に警戒感を高めた。


「すみませんが、どちら様でしょうか?」

「私は彼女の保護者です」


 彼はそう言うと黒いロングコートの中から折り畳まれた一枚の書簡を取り出し、霧尾に見せた。そこには彼、エルバート・ナザルが法的にティアの正式な保護者であり、彼女自身も米国籍を保有していることが記載されていた。


「こちらもどうぞ」


 彼は名刺も取り出し、霧尾に渡す。聞いたことのある有名な会社の役員であることが分かったが、そんな男性が何故彼女の保護者を名乗り、目の前に現れたのか。霧尾の持っているデータからは何一つ解明の緒が見えなかった。


「ティアはどちらに?」

「たぶん中に。それより、一体どうしてここが」

「霧尾正則さん。あなたは警察によって逮捕される可能性がある。未成年略取、という言葉は理解できますか?」

「僕が彼女を誘拐した、というんですか」

「保護したのなら何故すぐ警察に連絡をしなかったのですか?」


 ティアと降雨との関係を調べてからにしたかった、という言葉を呑み込んでしまうと、霧尾には沈黙しか選択肢が残されていなかった。


「それでは、宜しいですね?」


 霧尾が玄関の鍵を開けると、中から満面の笑みで出てきたティアがエルバートを見てきょとんとした表情に切り替わる。


「行こうか、ティア」


 けれど彼女の側には彼に覚えがないらしく、手を引かれても霧尾の方を見て困惑しているだけだ。そのうちに抵抗を始め、エルバートが強引に車に載せようとしていたので、霧尾はティアにこう告げた。


「ティア。彼が君の保護者だ。安心してついていくといい」


 その言葉の意味を理解したのか、彼女の体からは力が抜け、うなだれて車の後部座席へと乗り込んだ。

 霧尾は何も言えないまま、ただ黙って黒い外国車が走り去るのを見ていた。

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