第3話 魅惑のチ◯ルチョコ
俺はタエ子さんの家のお手伝いを終わらせた後、村に存在する小さな商店で幾つかの駄菓子を購入した。
購入したのは子供のお小遣いで買える安いもの、たった10円で買えるチ◯ルチョコのような駄菓子やふ菓子といった物だ。
それをアスフィアルの世界へ持ってきて、俺は知り合いの商人の元へと持ち運んだ。
「アレン、お前・・・・・・これ何処で手に入れた?」
手のひらサイズのシンプルなチョコレートをナイフで少し削り、知り合いの商人であるアルベルトに試食させてみた。
最初は何を食べさせられるんだと、疑わしき目で見ていたものの、チョコの溶けるような甘みと特徴のある香りに目を見開いて驚いた様子だった。
「どうだ?貴族に売れそうか?」
小さな店を構えるアルベルトのカウンターに乗り出すように聞いてみた。アルベルトの様子からして、貴族や王都で店を構える豪商相手に売り込めないかと考えた。
俺の話を聞いて、アルベルトはうーむと俯くように悩んでいた。俺が今回持ってきたチ◯ルチョコは、日本で10円で買えるほど安価ではあるものの、このアスフィアルの世界であればかなりの価値を持つ。
「このちょことやらは間違いなく貴族相手にも売れる・・・・・・だろうが、俺に伝手が無い。知り合いを通じれば出来るかもしれんが、いきなり貴族相手に商いをしようとすれば、色んなところから睨まれるぞ?」
俺と違い、家を継いで商人になったアルベルトは小さい頃から手伝いをしていたこともあり、二十歳そこらといえども生粋の商人だ。
そんなアルベルトが言うには、俺が持ってきた10円チョコは間違いなく貴族相手にも通用する程のクオリティがあるという。砂糖と違った香りの強い甘さに虜になる者も居るだろうと予想した。
しかし、そこには商人の間に存在する暗黙のルールを犯してしまうということらしい。
「そこまでか?」
「あぁ、貴族に甘味を卸している商人たちは好い目では見ないだろう、俺の店が大きかったら話も別だがな」
甘い菓子を好む貴族は多いらしい、それこそ専属で菓子職人や農家を雇うほどで、一般的にはそれらを一括で管理する商人を御用商人として雇うのだそうだ。
貴族社会において、美味しい菓子というのは、その家の豊かさを示す外交の道具でもあるという、だからこそ、甘い菓子があまり好みでない貴族もこぞって優れた美味しい菓子を欲し、それらを管理する商人を重宝するのだという。
「アルベルトの店は小さいからな・・・・・・」
「うるせぇ・・・・・・と言いたいところだが、アレンの言うとおりだな、俺のようなしがない商人では貴族相手に商いをする奴には勝てねぇよ」
俺の言葉に、アルベルトはこめかみに青筋を浮かべつつも、はぁとため息を吐くように身体から力を抜いた。
見た感じ、この一件以外にも似たような事があるのだろう。そこには悔しさを滲ませつつも、どうにもならないという諦めがあった。
「すまなかったな、この件は他を当たるよ」
「あぁ、そうしてくれ」
俺はアルベルトにそう言い残すと店を出た。
(思っていた以上に上手くいかんもんだな・・・・・・)
俺が住んでいる街――――――エラクトンは、都市と都市を繋ぐ中継地点のような役割を持っている。
街の南側には、大都市へ出荷される物資が集積される倉庫街があり、街の規模に対して多くの商人が出入りする。
その中には、遠方へ向かう商隊を護衛する冒険者も多く立ち寄り、俺が今後の計画を考えるために立ち寄った酒場には、それら商隊の護衛の為にこのエラクトンまでやって来た冒険者が多く集まっていた。
「今日の昼間にアンキア街道にゴブリンの大軍が出てよぉ、雇い主達が不安がるから、たくさんぶっ殺したら5000ゴルドも貰ったぜ!!」
「ゴブリン如きで5000ゴルドか!金払いが良いねぇ、都市の商人は」
ギャハハと野蛮な笑い声で会話するのは、この街へやって来た外部の冒険者達だった。
彼らの話を聞くに、割の良い仕事が入り実りが良かったらしい、楽しそうに話しながら酒を飲み、この後、街の西側にある娼館通りにでも行くかなんて話をしていた。
この世界における若者の遊びといえば、ギャンブル、酒、風俗が普通だ。芸術や音楽といった趣味は大都市でも上級階級の人間しかやらないので、エラクトン以外にも平民向けの娯楽施設である賭場や娼館といった物は多くある。
といいつつも、ギャンブルも風俗も基本的に通うのは荒くれ者の多い冒険者が多い、街の若者であれば若くして家庭を持つ者もいるし、知り合いも多いために酒場に集まることが多かった。
「よぉ、アレン、辛気臭い顔をしているじゃないか!!」
「グレウか」
大衆酒場で安酒を飲みながら今後の計画を考えていたら、酒場の奥から見知った顔の男がやって来た。
彼の名前はグレウ、俺よりも2~3歳程年上の男だ。
こいつは街の治安を護る警備隊に所属している。なので一般市民の俺に比べてガタイもよく、荒事にも強い。
「お前はまだ根無し草やってんのか?顔は良いんだからいい加減定職に就けよ、警備隊でもやるか?」
「やだよ、酔っぱらいの相手なんか」
「ハハハ、まぁそうだな、しかし良いもんだぞ子供たちからも尊敬されるからな!!」
グレウは大分酒が入っているのか、少し顔が赤くなっている。
他よりも一回り大きな木製のジョッキを複数手に持って歩いていたところからして、同じ仕事仲間と一緒にこの大衆酒場へやって来ているのかもしれない。
俺が少し棘のある言い方をしてもグレウは笑い飛ばし、事あるごとに俺を警備隊へ誘ってくる。
「アレンは力も強ければ顔も良いからな!街のおばさん達の対応はお前がいれば楽になる!!」
「なんだそれ」
自分の目線から見てみれば、グレウだって顔面偏差値は高い部類だと思う。
それこそ、このアスフィアルという世界は何故か美男美女が多い世界だ。まさにアニメやラノベの世界を表したかのような感じをしている。
グレウ曰く、俺は街のおばさん達から好まれるような顔をしているらしい。
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