異世界商人~転生者アレンのお金持ち計画~

青葉

ファンタジー世界と日本

第1話 世界を渡り歩く力

 あるとき、俺はファンタジーの世界に転生した。

 最初こそ戸惑ったものの、いざ異世界へ転生したと知ったときは人目を憚らずに喜んだ。

 現代日本で生活していた頃に比べたらかなり不便ではあるものの、夢にまで見たファンタジーの世界を謳歌できるものだと思っていた。


 ――――ただ俺が持っていたスキルは決して勇者や英雄になれる類の物ではなかった。





〈異世界渡航〉


 これは様々な世界を行き来することが出来るという、かなり珍しいスキルだった。


 異世界渡航は、世界を超えて様々な場所を練り歩くことが出来る。それこそ、恐竜が地上を支配するような世界だったり、俺が知る現代社会よりも更に発展したSFチックな世界だったり。


 見つけるのに非常に苦労したが、前世の地球が存在した世界も見つけた。


 年月を掛けて地球が存在する世界を見つけた俺は、どこの県でどんな場所かは分からないが、長閑な雰囲気を感じる片田舎に降り立った。

 土地勘もない場所で呆然と立ち尽くしていた中で、ふと目に止まったのは、日本語で表記されたボロボロなバス停だった。その時には既に20年近くも異世界で暮らしていたので、久しく見ていなかった日本語を最初見たときは、思わず膝をついて泣き崩れてしまったのは記憶に新しい。


 ついでに周囲で農作業をしていた爺さんに呼び止められ、昼食を奢ってもらった際は、更に泣いてしまったことを追記しておく。


 無事に地球を見つけることに成功した俺は、そのまま日本に住み着こうと思ったけど、よくよく考えてみれば俺は前世と違い、バリバリの異世界人の身体をしていた。


 それに気がついたのは、昼食を奢ってもらった際に何気なしに会話をしていた爺さんとの一言。「お前さん、外国の方なのに日本語上手いねぇ」との言葉だった。


 その言葉を聞いた時、俺は思わずハッと気が付いた。

 何気なしに様々な世界で会話をしていたが、俺の中では全て慣れ親しんでいた日本語に変換されていた。


 それこそ、第二の生まれ故郷であるファンタジー世界でも、俺は周りの人間が日本語で話していると認識していたので、爺さんに言われるまで言語の壁について深く考えていなかった。


 これらの現象は多分翻訳スキルかなんかだと思う・・・・・・少なくとも、世界を移動できるなんていうトンデモスキルがあるので翻訳スキルがあるのだろう・・・・・・と俺は取り敢えず納得した。


 そして、もう一つが俺の顔立ちだった。


(・・・・・・思いっきり西洋人だな、これ)


 ファンタジー世界で生を受けた俺の姿は、日本人のそれではなく、主にヨーロッパ系の彫りの深い顔立ちをしていた。


 少なくとも、現在の俺の姿は日本人のソレではなく、地味な服装をした外国人だった。




 そして、俺は何度か世界を行き来する中で幾つかわかったことがある。


 一つ、俺以外の生き物は世界を渡ることが出来ない。


 これは単純に通過する物体が、生きているか死んでいるかで判断されており、スキルを使用した際に現れる世界を渡る扉〈ムーンゲート〉は、俺以外の生きた物を通さないし、死んでいれば通らなかった物も通るようになる。


 試しに田んぼに生息していたカエルをムーンゲートに通してみたら、見事にゲートから弾かれた。逆に道端に転がっている石だったり、轢かれてペッタンコになっていたカエルを放ってみると、そのまま通過して元のファンタジー世界に日本のカエル(死骸)が異世界へやって来ていた。


 これらから感じたのは、まさに無限大の可能性だった。


 俺が持つ異世界渡航には強大なモンスターを倒すための力は無いが、数ある世界を行き来して物の売買をやって利益を上げる方法が幾つも浮かび上がった。


 例えば、俺が現在生活しているファンタジー世界・・・・・・アスフィアル世界は、まさに西洋の世界観に剣と魔法の要素を足した王道的なファンタジー世界だ。


 ここは魔法の存在や、強大な力を持つモンスターがそこら中に蔓延っているので科学技術が全然進んでいない、特にひどかったのが衛生面であり、風呂も無ければ水洗のトイレも無い。


 その事実に俺は挫けそうになった。


 だけども今では異世界旅行のスキルもあって、定期的に日本に赴いて銭湯に入っている。


 正直言えば俺が得ている所持金は少ない、所詮は田舎で畑仕事をやっている爺さん達の手伝いで貰ったお小遣い程度なのでそう多く銭湯へ通うことは出来なかった。


 しかし、そこで俺はアスフィアルと日本における物の価値の違いについて気がついた。


 例えば金、黄金といえば遥か昔から多くの人々を魅了しており、金塊一つでちょっとした家が建てられるほどだ。


 しかし、ファンタジー世界であるアスフィアルにおける金の価値はそこまで高くない。


 実際には、数ある鉱物の中でも金は比較的高額な部類ではあるものの、地球に比べてべらぼうに高いわけではない、流石に露店とかでは売っていないが、買おうと思えば街の小さな鉱物商に出向いて、一ヶ月働いた分の稼ぎでそれなりの大きさの金塊が買えるレベルだ。


 逆にアスフィアルで価値が高いものは香辛料や甘味といったものだ。

 これはファンタジー世界あるあるだと思い、知り合いの商人とかから聞いて調べてみたところ、香辛料はまだしも砂糖を使った甘味は目ん玉が飛び出るほどに高かった。


 下手をすれば、スーパーで売っている100円そこらのクッキーの一箱で元気な馬が一頭買えるレベル、香辛料であっても金より厳重に管理されているぐらいだ。


 甘味を豊富に使った豪華なケーキとかだと下手すりゃ家が建てられるレベルだ。


 そんなこともあり、俺は世界を渡り歩いて物を買い漁り、転売して儲けようと思った。


 しかし、ここで大きな問題に直面する。


「どうしよう、俺、戸籍がないじゃん」









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