第5話:超大物商人が来ちゃったよ!🎩

「稼げども稼げども、この国は豊かにならず。じっとおててを見る」


 思わず有名な文豪の短歌をもじってしまいました。

 パクリ幼女ではなく、文学幼女ユーリア六歳です。


 稼ぎました。

 クレイパックの売れ行きはすさまじく、毎月金貨にしてだいたい100枚は純益で入ってきます。その7割は貯蓄しているんだ。

 残りは再投資。


 知的財産権は、各商人に金貨300枚で売り、900枚分の原資を作りましたよ。


 その内100枚を使って人足さんを雇って、国中の土を掘り起こしてミネラル分の多い土を探し。


 この国には使いきれない程の粘土があることがわかり。

 ついでに岩塩も鉱脈が出て来て、今後掘り出すめどがつけばウハウハですね。


 そのお金の半分を3商会に仲介してもらって、債券や株式に変えてあります。


 商人さんたちに教えてもらって、最近商品先物や金と銀の通貨取引という、21世紀で言えばFXみたいなものもあることが分かったよ。


 で、8分散投資にしている。

 3か国の株式と債券投資、それと民間銀行にお任せしての先物取引と金銀交換の差額狙い投機。


 これって、そのうちスイスの銀行がやり始めるんだろうから、なんとかうちでやれないかな。


 でもスイスは永世中立国になったからできたのであって。


 その永世中立も「ヘイ。来るなら来てみろよ。兵力の無駄遣いさせてやるぜぃ!」というくらい、針ネズミのように武装しているからなんだよね。


 人口1000人の大公国でできるはずないです、はい。


 4万人いるルクセンフルト王国でも、地下資源をめぐって大国間で奪い合いになる状況。

 だめだこりゃ。


 だからまだ大公国の軍備増強へ回すお金や、国民の皆様へ還元できるようなことができていない。もっともっと増やさねば。


 でも……なんで私、この国にこだわっているんだろう?

 なんか離れたくないんだよね。

 ユーリアちゃんの意識かな?


 よく分からないけど、いつでもすたこらさっさ逃げ出せる準備はしておこう!



 で、国はまだぜんぜん豊かになっていない。


 現在、資産はあるんだよ。

 金利収入も、総資産の半分、金貨700枚分からのもので年利50パーセント、350枚。ウシ〇マ君並みの高利だけどこの時代では普通。

 毎月30枚以上入って来る。1900万円。


 こいつは孤児院の資産だぞ。美クールのじゃないぞ!

 ちょっと猫ばばしているけどね、ユーリアが。


 でも資産は取っておかないと、3年後には戦争になるんだ。

 安全な所に置かないと。


 ここは思案が大事。




「お嬢さんがた、わしもドロ遊びにまぜてくれんかな?」


 急に私に降り注ぐお日様の光がさえぎられた。

 大きな人影だ。


 上を見上げると、ニコニコした初老の男の人が腰をかがめてドロ遊びをのぞき込んでいた。


「あなただぁれ?」


 アリアちゃんの真似をして、思いっきり幼児っぽく質問する。

 なんだかヤヴァい人の予感がする。


 第一印象は大事。

 直感はそれ以外の全てを凌駕する。


 人の印象は最初の2~8秒で決まるという。

 ヒューリスティックなデータ分析も大事だと思うけど、私はどちらかというとゲルト・ギゲレンツァー派だ。


 直感は素粒子コンピュータよりも速く判断することができると思っている。


『人間の直感はAIを超越していると思うよ』


 心理学の高杉先生の脳内指導が入る。

 感謝です!


「わしはな、お外から来た商人じゃよ。商売が終わったので遊ぼうと思ってな」


 これは……私を探りに来た人だ。

 シュピーゲルさんの演技が見抜かれた?


「そうなの? じゃあ、おじちゃんはドロをこねてくれる?」


「わかったよ。……きみがユーリアちゃんかな?」


 やばっ。

 引っかかった。

 指示を出す者をあぶりだす問いかけだったか。


「うん。そうだよ~。おじさんは?」

「アントンというんじゃ」


 う~ん。

 どこかで聞いた気もするけど、さすがにファーストネームを言われても心当たりはないなぁ。


「どこのくにのひと~?」


「ローゼンフルトで商売をしているんじゃよ」


 ドイツの商人か。

 ベニスの商人とかはフィクションで実在しないし。

 こいつ、どいつだ?


「ん~と、ユーリアはこのドロをここにつめるとね、おかねをもらえるんだ。シュピーゲルさんというおひげがかっこいいおじさんがくれるの」


 初老の商人は高価そうな服に泥がつくのも構わず、座り込んでこね回している。

 人の心にス~っと入り込んでくるやり手の商売人だよ。


「そうか。お駄賃は銅貨かね? それとも銀貨? いや金貨かな?」


 探りを入れて来たね。


「どうかだよ~。でもね、こじいんには、きんかがはいるんだって。よくわかんないや~」


 こっちも探りを入れるかな。


「おじさんは、きんと、ぎんと、どう。どれがいいの? それともべつのがいい?」


 男の目がギラリと光った。

 や、やっぱりやめておいた方がよかったかも。


「銀じゃな。じゃが最近は銀の価値が下落しての。ワシも大損したわい」


 ヨーロッパ+銀+没落?


 まさか。


「ユーリアちゃんは、複式簿記ってわかるかな? シュピーゲルさんが使っている」


 !!

 この人、フッガーの人だ!


 15~16世紀の大航海時代を陰から支えていた商会。

 複式簿記も発明している。


 とんでもない奴が来ちゃったよ。


「ユーリアちゃん。君のことはシュピーゲルから聞いているんだ。ちょっと詳しい話を聞かせていただけないものかな?」


 フッガール商会から抜擢したシュピーゲルさん。

 商会長にチクったな~~!


 しかたない。


 フッガーの総帥とタイマンかぁ。

 さすがのハイパーハケンでも危機一髪です。


 きっと手のひらの上で転がされる。


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