第35話 やっぱり好き!!

 輝く光が消えると視界が戻って来る。目の前にはぐったりとしているアイリーン。


「アイリーン様!!」


 アイリーンの顔に手を当てると温かさを感じた。呼吸も落ち着いている。


「良かった……」


 一気に力が抜けアイリーンを支えていた腕が緩みそうになった。そのときぎゅっと抱き締められる。


「二人共無事で良かった……」


 シュリフス殿下の安堵の溜め息が耳をくすぐる。シュリフス殿下は私の肩にコテンと頭を置いた。

 あぁぁあ、シュリフス殿下の綺麗な銀髪が頬をくすぐる!! あぁ、好きだ……やっぱり私はシュリフス殿下が好き。ゲームをしていたときより、もっと好き。実際のシュリフス殿下は顔だけじゃない……生身の人間で、怒ったり、拗ねたり……そして凄く優しい。


 私の気持ちを言っても良いかな……今のルシアは子供だし、望みはなさげだけれど……でも言わずに後悔したくない……言いたいな……困らせるだけかな……言っちゃ駄目かな……


「シュリフス殿下……」


 そっと名前を口にすると、ピクリと動いたシュリフス殿下はそっと顔を上げた。あまりの近さに思わずバッと前を向く。


「ルシアさん?」


 ドキドキドキドキドキドキ……言っても良い? 良いかな?


「あ、あの、シュリフス殿下!!」


 勢い良く振り向き言葉にしようとした瞬間……



「離せ!!」



 おっさんの声に阻まれました……イラッ。


 あ、イラついて思わずおっさんって言っちゃった。クラウド公爵の声ね。


 振り向くとクラウド公爵が騎士団に取り押さえられている。セルディ殿下がこちらに駆け寄ってきた。


「アイリーン!!」


 セルディ殿下は膝を付き、私の腕からアイリーンを抱き上げた。無事を確認すると安堵の溜め息を吐き、アイリーンを抱き締める。あぁ、良かった。本当に良かった。


「あの、セルディ殿下、魔石は……?」


 クラウド公爵が捕まったのは良いけど魔石はどうなったの?


「あぁ、魔石はルシア嬢の浄化魔法で浄化され消し飛んだようです」

「え、お、おぉ……そうなんですか、良かった」


 これは予想していなかった。アイリーンを助けるために発動させた浄化魔法。元に戻すために必死で持てる力の全てを注いで浄化魔法を発動させた。シュリフス殿下が力をくれたしね……。チラリとシュリフス殿下を見た。

 シュリフス殿下は「?」といった顔だが、目が合うとニコリと笑った。


 あのとき……シュリフス殿下が力をくれた。私の手を握り締めて力をくれた。特別なにか魔力をもらったとかではない。でも……私には大きな力になったのよ。


 それが爆発的に広がって魔石をも浄化したのね……。


 力を失くしたクラウド公爵はあっという間に騎士団に捕縛された。




 魔石がなくなり、王都に広がっていた黒い靄は急速に減っていった。力を失くした魔物たちは騎士団に討伐されていき、事件は収束に向かっていった。


 捕縛されたクラウド公爵は自身がやったことをほとんど覚えていなかったらしい。どうやら公爵自身も魔石の力でおかしくなっていたのではないか、という結論になった。

 しかし元来王家転覆を企てているような相手だというため、厳しい処罰を課せられたのだった。


 アイリーンは事件後、セルディ殿下にお姫様抱っこで運ばれている最中に目を覚まし、予想通りというか案の定というか、真っ赤になりあわあわしておりました。フフ。そしてセルディ殿下と共にイチャイチャ……いやいや、看病のためにね、王宮の一室でしばらく過ごすことになった。

 事件後しばらくしてから婚約破棄の話は撤回する、と公式に発表。無事世間的にも婚約者として戻り、さらには!! アイリーンが学園卒業と同時に結婚式を挙げることになったのよ!! あぁぁ、良かったぁ!! これで本当にアイリーンは幸せになれるのよね、本当に良かった……。



 そして私はというと……、あの事件からまだ残っていた黒い靄の浄化や、シュリフス殿下も王宮や王都の復興に忙しく、会えない日々が続いていた。

 生徒会四人組とは良いお友達関係が続いている。それは良かった……良かったんだけど、肝心のシュリフス殿下に会えないなんて!! そんな悶々とした日々を過ごしていると、今回の事件での褒章として聖女の位を授ける、と国王から呼び出された。い、いらん。


 そんなものいらないし!! それよりシュリフス殿下に会わせてよ!!


 そう思って王宮に出向いたらシュリフス殿下が!!



「ルシアさん、お久しぶりです」


 はぅ! 久しぶりの生シュリフス殿下!! 久しぶり過ぎて緊張する!!


「お、お久しぶりです、お元気でしたか」


「えぇ、事後処理に忙しくしておりましたが元気でしたよ。ルシアさんもお元気そうでなによりです」


 ニコリと微笑んだシュリフス殿下。そしてもう定番になった頭をポンと……。


 あ、駄目だ。


「好きです」


「え?」


「好きなんです!!」


 あぁぁああ!! 言ってしまったぁぁ!! シュリフス殿下がキョトンとしているぅ!! だ、だって、あの笑顔を見た瞬間、頭をポンとされた瞬間、もう駄目だったのよ!! もう言わずにいられなかった!!


「私はシュリフス殿下が好きなんです!!」


 シュリフス殿下とどうにかなりたいわけじゃない。ただ……ただ、伝えたかっただけ。私の気持ちを知って欲しかっただけ。迷惑かもしれないけれど……。あ、ヤバい、ちょっと泣きそうになってきた。


「あ、ハハ……すみません、いきなりこんなこと言って……すみません、私を想って欲しいなんて言いません。ただ……私の気持ちを知って欲しかっただけなんです……ごめんなさい」


 シュリフス殿下の顔を見ることが出来ずに俯いてしまった。そのとき俯いた私の頭を再び優しくポンと撫でられる。


「ありがとうございます」


 ガバッと顔を上げると、顔を赤らめながら優しく微笑むシュリフス殿下。

 シュリフス殿下はそっと手を伸ばし私の頬に触れた。ドキリと心臓が跳ねる。


「ありがとうございます……ルシアさんのお気持ちはとても嬉しいです……しかし、貴女と私は生徒と教師です」


 ふ、振られちゃう……駄目だ、泣きそう……。涙が滲む。


 しかしそれとは対照的にシュリフス殿下はさらに一層優しい笑顔になる。涙が落ちそうになる私の目にそっと親指を這わせた。


「ですから、貴女が学園を卒業し大人になったとき……そのときにまだ私のことを好きだと思ってくださるのなら……そのとき私の気持ちをお返事致します」


「!!」


 こ、これは期待しても良いってこと!? このまま好きでいて良いの!? 卒業までなんてすぐよ!! ずっと好きよ!! 良いの!? 本当に!?


 クスッと微笑んだシュリフス殿下はそっと顔を近付け、私の耳元に口を寄せた。シュリフス殿下の吐息が耳をくすぐる。


「貴女が大人になるのを待っていますね。そのときは……もう逃げられませんよ?」


 ドキィィイ!!!! 耳元で囁かれた台詞が心臓に悪い!!


 咄嗟に耳を抑え、ガバッと振り向くと、シュリフス殿下はいたずらっ子のような顔でクスッと笑い去って行った……。



「あぁぁぁああああ!!!! 尊いぃぃぃぃいいい!!!!」




 自分の叫び声で目が覚めた。


 え?


「ここは……私の、部屋……?」



*************

次回最終話です!

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