第28話 真実
「まずはルシア嬢、貴女を驚かせてしまい申し訳ありませんでした」
セルディ殿下が謝罪を口にした。
「あの……どういう状況なんですか? なぜ殿下方がここに……」
全くもって意味が分からない。
セルディ殿下とアイリーンは顔を見合わせ頷いた。
「この部屋には防音結界の魔法をかけております。部屋に怪しい仕掛けがないことも確認済ですわ」
アイリーンがセルディ殿下に言った。
防音結界の魔法? 怪しい仕掛け? 一体なんの話?
「まずは今回の婚約破棄についてですが……」
「それ!! 一体どういうことなんですか!! 私が口を挟むことではないですけれど……でもなんで……」
また涙が滲みそうになってしまう。駄目だ、堪えろ。
「ルシアさん」
アイリーンが私をギュッと抱き締めた。
「ア、アイリーン様!?」
私から抱きつくことはあったが、アイリーンから抱き締められたことなどない。そのことに一瞬なにが起こったのか分からずあわあわしてしまった。
「ルシアさん、貴女は本当に私の大事なお友達ですわ。心配をおかけしてごめんなさい」
皆が優しい笑顔を向けていた。
ん? 婚約破棄の話にしてはなんだか和やかね……。
「あ、あの?」
「貴女に黙っていたことはとても心苦しかったですが……でも貴女を護るためでもありました」
「?」
一体なんの話? 全く話が見えない。
アイリーンは身体を離し、申し訳なさそうな顔をしながら優しい笑顔を向けた。
「ルシア嬢、今回の婚約破棄の件は訳があり演技をしていたのです」
「演技!?」
は!? なに!? 演技!? どういうこと!?
セルディ殿下とアイリーンの顔を見る。アイリーンは頷いた。
生徒会三人組とシュリフス殿下の反応を見るに、みんな知っていたわけだ。私だけが知らなかった……むっ。
むむむむ……、理由があるんだろうことは分かるんだけど……なんだか仲間外れにされたようで……腹が立つやら、悲しいやら、複雑……。
ムスッとしてしまい膝の上に置いた手を握り締めた。
「ごめんなさい」
アイリーンはそんな私の手をそっと上から撫でた。
「……では、お二人の婚約破棄はないということですか?」
「「えぇ」」
セルディ殿下とアイリーンが二人して断言した。
「な、なんだ……それならそうと教えて欲しかったぁ……」
怒りからなのか安堵からなのか、もう自分でもよく分からなかったが、耐えきれずに涙が零れた。
「良かったぁぁ」
わぁぁあ、と泣き出してしまい、皆がオロオロと私を宥める。
アイリーンは肩を抱き、シュリフス殿下は頭を撫でてくれた。
アラサーなのに情けないわね……最近涙脆くなった気がする……歳かしら……いや! いやいや! 肉体は若いし!
泣き腫らした目をシュリフス殿下がまたしても治癒魔法で治してくれた。頬に当たる手がぁ!! 心臓に悪い!!
「それで、なぜ演技をすることに? ちゃんと説明してください」
セルディ殿下は頷き話し出す。
「黒い影の話に出てくる魔石が見つかったかもしれない、という話が出ていたことはお話しましたよね?」
「はい。なにやらどこかの貴族の方が手に入れたかもしれない、と」
「その魔石の行方が分かったのです」
「!!」
黒い影が封印されたとされる魔石。文献が残るのみで魔石もなく、実際あったことなのかすら疑わしかった黒い影の話。
その魔石が本当にあったということ!?
「その魔石はどこで発見されたのかは定かではないのですが、なにやらクラウド家が怪しげな魔石を手に入れた、と情報が入ったのです」
「クラウド家……」
クラウド家といえば、アイリーンのボルデン公爵家と並ぶ爵位の家門、クラウド公爵家。
ゲームにはたいして出てこないが、確かアイリーンの家とは犬猿の仲だ、といった簡単な説明があったような。
アイリーンが闇堕ちしてしまい、最終的にボルデン公爵家は立場が弱くなってしまい、クラウド公爵家が幅を利かせるようになるのよね。
ハッピーエンド後はちょびっと話が出るだけだったから詳しくは分からないんだけど。
そのクラウド公爵家が?
「ご存知かもしれませんが、クラウド家は王族である我々にとって少し厄介な家門なのです……」
「私たちボルデン家は王家に忠誠の誓いを立てております。しかしクラウド家は表向き忠誠を誓ってはいても、裏では王政に不満を持ち王家転覆を企てているようなのです」
アイリーンがセルディ殿下の言葉に続き説明をしてくれる。
「王家転覆って! そんなの捕まえてしまえば……」
「クラウド家は、表向きは忠誠を誓っている。しかも裏で行っているようなことは巧妙に隠されしっぽを掴めない」
ラドルフが忌々しいといったような表情でアイリーンに続いた。
「兄上も苦労しているようです……」
シュリフス殿下も溜め息を吐く。
「ルシア嬢が言っておられた黒い靄、その話を聞いてから色々調べていると、クラウド家の名が浮上してきたのです。それがどうやら魔石らしきものを手に入れた、と」
セルディ殿下は手を組み俯く。
「その魔石を手に入れたらしいという情報を掴んでからは、それに比例するように黒い靄が確実に増えていった……」
「クラウド家がなにをしようとしているのか一目瞭然だったんだよ」
アイザックですら眉間に皺を寄せ、吐き捨てるように言った。
「そこで我々は罠を仕掛けることにしたのです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます