第21話 お姫様抱っこ!

 握った拳にさらに意識を集中させる。そしてさらにグッと拳に力を込めると……


『パアアァァァアアアン!!!!』


 激しい音を上げながら雷の矢は大きく弾けた。爆発といっていいかもしれない。魔物の身体とともに……。



「あ……ル、ルシア……凄い……」


 四人が呆然としながらも近付いてきた。


「来ないで!!」


「「「「!?」」」」


 まだだ! きっとまだ現れるはずなのよ!

 そう思った瞬間、頭上から影が落ちた。


「!?」


 慌てて上を見上げると空から先程とは違う魔物が襲い掛かる!


「「「「ルシア!!」」」」


 四人が一斉に魔法を放った! 私も空に向けて炎を放つ。空から現れた魔物は一斉攻撃に一瞬怯み、動きが止まった。

 翼を持つ魔物は大きく舞い上がり、再び体勢を整え舞い降りて来る。物凄いスピードだわ。


 私たち五人の元へ攻撃してくるのかと思いきや、急に方向を変えた!!

 その魔物の目線の先には……


「アイリーン!!!!」


 気付いたときには走り出していた。四人は私よりアイリーンから離れている。間に合わない!


 アイリーンも少し遅れて気付いた。恐怖の顔にはなっていたが、さすがアイリーン! 攻撃の姿勢を見せている!

 アイリーンが炎の魔法を放った。しかし一人だけの炎では鳥型の魔物を止めることが出来ない!

 駄目よ!! アイリーンを傷付けるやつは許さない!!


「氷よ!!」


 走りながら魔力を放つ。地面から突き出た氷の塊は勢い良く上に伸び、飛んで来た魔物を下から弾き飛ばした!


「あ……あ……」


 アイリーンは目前まで迫っていた魔物に驚愕の表情だ。


「アイリーン!! 逃げて!!」


 力の限り叫んだ! それを聞いたアイリーンはハッとし、逃げようと動き始めた瞬間……


「ルシアさん!! 後ろ!!」


「「「「ルシア!!!!」」」」


 振り向いたと同時に鳥型の魔物の鋭い爪が、私の背を切り裂いた。


「うぐっ」


 痛い!! 痛いよぉ!! で、でもここで倒れるわけには……。


 なんとか倒れず踏みとどまり、背中の激痛に耐えながら手に魔力を込めた。痛みでなかなか集中出来ない。脂汗が流れる。呼吸も荒くなる。必死に集中する。


 空中で回転した魔物は再び私目掛けて突っ込んでくる。


 そのとき騎士団が現れ一斉攻撃を仕掛けた! 四人も魔法で攻撃する。

 魔物はそれらを避けながらも進む。激しい風を巻き起こし皆を翻弄する。素早過ぎて狙いが定まらない。


 こうなりゃ広範囲に竜巻を起こして絡め取ってやる!!


「み、皆さん、離れて!!」


 大声を上げると背中が痛む。

 巨大な竜巻で魔物を抑え込む。必死に逃れようとするが、負けるもんですか! 痛みで倒れそうなのを必死に耐え、竜巻を徐々に細くしていき魔物を閉じ込める。

 さらに炎をまとわせ炎竜巻に!! 魔物はもがき苦しんでいる。いまだに暴れている。は、早く……傷のせいで集中が途切れてしまう、早く!!



 私の集中が途切れてしまうのと、魔物が動かなくなるのが同時だった……。

 炎竜巻が消え失せ、魔物が落下したのと同時に私は倒れ込んだ……。



「「「「「ルシア!!!!」」」」」



 四人とアイリーンの声が聞こえた。意識が遠のきそうになる……ハッ!! 駄目よ!! ここで気を失っちゃ駄目!! セルディ殿下にお姫様抱っこされてしまう!!

 んぎぎぎ!! と必死で意識を保った。


「大丈夫か!?」

「なんて無茶を!!」

「怪我は!?」

「早く救護室に!!」


「ルシアさん……」


 横には涙をボロボロと零すアイリーンがいた。良かった無事で……。


「私を助けるために貴女がこんな酷い怪我を……」


 涙が止まらないアイリーン。


「アイリーン様、大丈夫です。アイリーン様を護れて良かった」


 ニコリと笑って見せたがさらに一層泣いてしまった。


「ルシア嬢! それよりも救護室に!」


 セルディ殿下が慌てて私を抱き上げようとした。


「だ、大丈夫です!! 自分で歩けますから!! 殿下はアイリーン様の傍にいてあげてください」


 そう言いながら差し出された手を断り、ふらつきそうになるのを必死に抑え立ち上がった。い、痛い……で、でも我慢よ……ここで負けちゃ駄目よ……せっかくお姫様抱っこイベントを回避出来たんだから……耐えるのよ、ルシア!!


 立ち上がりなんとか一歩踏み出すと、クラッとしてしまい倒れそうに! 踏ん張れ! 私!


 そう、必死に踏ん張っているとヒョイと抱え上げられてしまった! えっ!?


「君たちは何をやっているんだ!! ルシアさんが酷い怪我じゃないか!! 本人が断ったにしてもそこは男としてしっかり支えなさい!!」


 ぎゃゃぁぁぁああああ!!!! シュリフス殿下ぁぁあ!!!! え!? な、なんで!? なんでシュリフス殿下がここに!? 救護室にいるんじゃないの!? なんでシュリフス殿下にお姫様抱っこされてんの!? は、鼻血出るー!! 怒ってるシュリフス殿下も素敵すぎるぅ!!


 シュリフス殿下は抱き上げたかと思うと颯爽と歩き出し、救護室へと連れて行かれた。はわわわ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る