第14話 モテワンコ

 いやぁぁあ、大口開けて食べてたのを見られたぁ……ショック。

 あぁ、もう! 今さらおしとやかにしても意味ないし、こうなりゃサンドウィッチを満喫してやる!


 あーん、とさらに大口を開けサンドウィッチを頬張る。やけくそだ。美味しいからもういいわよ! シュリフス殿下のほうは見ずに黙々と食べる! 食べる! 食べる!

 うん、美味しい! お上品に食べていたらきっとこの美味しさは分からないはず! きっと! うん……ね……アハハ。


 しっかりがっつりと食べ終わると不意にシュリフス殿下の手が私の頬へと伸びる。

 そして頬に手を添えると親指が口の端を撫でた。


 ぎゃぁぁあ!! な、なに!? なにごと!? 顔が火照るのが分かるー!!


「フフ、口元にソースが付いていますよ? 美味しく食べてもらえたようで良かった」


 ふにゃりと柔らかい笑顔で笑ったシュリフス殿下。

 あかん、血管が切れそうだ……。クラッと倒れそうなのを必死に堪え、シュリフス殿下をガン見!


「あぁ! すみません! 女性に断りもなく触れるだなんて! 治療でもないのに申し訳ない!」


 ハッとしたシュリフス殿下はあわあわしながら謝罪している。いや、謝罪など必要ない! むしろ私にはご褒美です! ごちそうさまでした! 合掌。


「ルシアさん?」


 シュリフス殿下は私の謎行動が不思議だったらしく、キョトンとした顔をしていた。そりゃそうか、「合掌」なんて意味分からないよね。

 このキョトンとした顔も可愛いわぁ。撫で回したいぃ!



「あ!! ルシア、いた!!」



 ドキィィイイ!!


 な、な、な、なんなの!? シュリフス殿下に邪な考えをしていたのがバレたのか!


「探したよ! ちょっと来て!」


 振り向くとロナルドがいた。なんでロナルドが……せっかく忍者でまいてきたのに……私の必死の努力を返して……。


 ほら早くと、腕を掴まれ引っ張られる。えぇ、せっかくシュリフス殿下と二人きりだったのに!


「ちょ、ちょっと待ってよ! シュリフス殿下……じゃなかった、先生、今日はありがとうございました! すみません、失礼します!」


 引っ張られるまま、シュリフス殿下に別れを告げると、シュリフス殿下はニコニコと手を振ってくれていた。可愛いわぁ。


 くそぉ! せっかくの二人きりの時間を!!


 ずりずりとロナルドに引っ張られながらムスッとする。


「で、なにかあったの?」


 同級生であるロナルドは今やため口で話す仲になった。まあなるべく話しているところを見られないように、ことごとく逃げてるんだけどね。


「ちょっと困ってんの、助けてくれない?」

「なにが?」


 全く話が見えない。


「なにが、って……さっきの授業で、次の授業には二人一組で魔法訓練するから相手を決めておけって言われたじゃないか」

「え、あ……あぁ、そういえば……」

「忘れてたわけ?」


 ロナルドが苦笑する。うん、すっかり忘れてた。というか、あの場から離れることに必死だったから、完全に頭から抜けてたわ。


「で、なにに困ってるの?」


 やれやれ、みたいな顔をされるのは納得いかないが、まあ忘れていたのは私だから仕方ない。今から相手を探して見付かるかなぁ。なんせ私ってあんまりお友達いないから……シクシク。


「相手だよ」

「相手? 誰か苦手な人が相手になったの?」

「そうじゃなく……」

「?」


 はぁぁ、と溜め息を吐かれた。なんなのよ。


「クラスの女の子たちが俺と組みたいって喧嘩を始めちゃって……」

「…………ブッ」


 思わず笑ってしまった。


「ちょっと、なんで笑うのさ。俺、本気で困ってんだけど」

「あぁ、いや、ごめん。フフ、さすがロナルド、モテモテなのねぇ」

「笑いながら言わないでくれる?」


 ムスッとしてしまった。フフ、駄目だ、笑ってしまう。

 いやぁ、モテ男って大変ねぇ。ブフフ。


「全くモテない人からしたら贅沢な悩みじゃない。なにをそんなに困ることがあるのよ、フフ」

「他人事だと思って……」


 ジトッとした目で見られた。いや、だってねぇ。モテて嬉しい人はいても困ったとか言われても嫌味か! って怒られそうだけどね。まあでも、生徒会四人組はモテ過ぎて大変なんだろうねぇ。


「女の子たちが喧嘩してると怖い……じゃなくて、男には恨まれるし、いつまでも決まらないし、どうしようもない状態でさ」


 ふんふん、ととりあえず聞いているが、何か嫌な予感が……。


「だからルシアが相手になってくれないかな、と」

「嫌!!」

「即答!! いや、ちょっとは考えてよ!!」


 出来る限り四人組とは関わらないようにしているのに、こんなところでコンビなんか組んじゃってロナルドルートに入っちゃったら嫌じゃないのよ!


「本当に困ってるんだよ、助けてよ」


「うぅぅ……」


 い、嫌だ…………嫌だけど…………くそぉ、こんなイベントなかったのにぃ!


「もう! 分かったわよ!」

「やった! ありがとう、ルシア!」


 ギュッと抱き締められた。


「ちょ、ちょっと!!」

「あぁ、ごめん! 無意識だった!」


 いやいやいや!! ワンコキャラだからって無意識に女子を抱き締めるなー!! イケメンじゃなければ許されない行為だぞ!! イケメンて得よね……。


 あぁぁ、それにしてもこの後の女子の反応が怖い…………。

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