第12話 壁ドン!
壁に身体を押し付けられたかと思うと、バンッと片手が顔の横に突き立てられた。
なに!? と、恐怖を感じ咄嗟に瞑ってしまった目を恐る恐る開けると、腕を突き立て私を見下ろしていたのはアイザックだった。ひぃぃい!!
なんでアイザックが!? これって壁ドン!? いやん! 壁ドンなんて初めての経験しちゃったじゃない! …………いやいや、ちょっと思考がパニックになったせいで、壁ドンを喜んじゃったじゃないのよ!
見下ろすアイザックの顔は無表情から徐々に人を見下すような顔付きになり、ニヤッと笑った。ぞわぁぁあ。こ、怖いぃ!! なんなのよ!!
「な、なんですか!?」
アイザックはニヤッと笑いながら、顔を近付けて来た。ひぃぃい!! キスされる!? と瞬間的に顔を逸らした。頬擦りしそうな距離で顔を逸らすと耳元にアイザックの吐息がかかりぞわりとする。
「お前、なにを企んでる?」
「え!?」
耳元で囁かれ、吐息にぞわりとしたが、それよりも「なにを企んでいる」とはどういうこと? なにも企んでないわよ! なにをどう見たら企んでいることになるわけ!?
「な、なんの話ですか!?」
相変わらず耳元にアイザックの口があり、さらには覆いかぶさるように両腕で壁ドン。身動きが出来ず固まる。
「なぜアイリーンに譲ったんだ? セルディと共に過ごせるチャンスだったんじゃないのか?」
耳元で囁かれる声がぞわぞわするー!! イケメンに壁ドンされ、さらにはこんな至近距離で囁かれ(内容はあれだけど)、なんか良い匂いもするし、声もイケボだし!
ヤンデレが怖過ぎるけど観賞用としては最高なのよね! 思わずイケメンぶりに色々思考がぶっ飛びそうになるけど、駄目よ、ここはしっかり否定しないと! 私はセルディ殿下を狙ってませんからー!
「わ、私はセルディ殿下とどうにかなりたいとか思っていません。セルディ殿下とアイリーン様には幸せになってもらいたいですし!」
これ本心!! 二人には幸せになってもらいたいのよ!!
「…………、信じられないな。女なら皆、セルディのような男をものにしたいと思うんだろうが」
「はぁ!? そんなわけないです。そりゃ、セルディ殿下は素敵ですけれど、一緒になりたいと思う女性も多いと思いますけれど、でも、お二人が嫌々婚約しているのではない限り、お二人の幸せを願うのは当然だと思います」
ふん! 誰もがみんな王子様好きと思うな! いやまあ好きだけどさ。うん……。いや、でも! 王子様は観賞用で良いのよ!
うんうん、と一人で納得していると、アイザックは耳元から顔を離し、それこそキス出来そうなくらいの距離で目を合わせると、先程の無表情から一転し不快感をあらわにした。
「嘘だ、女はずる賢いんだよ。そんなもん、表に出さないだけで、皆心の底では醜く相手を蹴落とし自分が選ばれようと必死だろうが」
うーん、まああながち全てを否定出来ないのが痛いところよね。だって実際足の引っ張り合いや好きな相手やメリットのある相手をものにしようとする人はやはりいるだろうし。
アイザックはそういった醜い部分をたくさん見て来たんだろうなぁ。それで女性を信じられなくなっちゃったんだよね……。
同情はする。同情はするんだけど、でもここで下手に諭すようなことを言っちゃうとアイザックルートに入る気がする! それは嫌!! うぅん、どうしよう。
「確かにそういう人もいます! そこは否定しません! だって実際いるでしょうし」
仕方がないので開き直った。
アイザックは予想外の答えだったのか、目を丸くしている。フフ、勝った。
その隙にシュッとしゃがみ込み、アイザックの壁ドンから脱出!!
「は!?」
アイザックはこれまた予想外だったのか驚愕の顔になった。その顔がちょっと面白くて笑いそうになってしまった。危ない危ない。
シュッとしてシャッと隙間から抜け出すと、猛ダッシュ!! いや、令嬢が走るなよ、と言われると思うけど、ここはダッシュさせていただきます! 逃げるわよ!!
「そんな人たちもいるとは思いますが、私は違いますからぁぁぁあ…………」
そう叫びながらアイザックを残し、走り去るルシア、侯爵令嬢です。はい。
背後ではアイザックが呆然としたあと、爆笑していたようだが、見なかったことにした。
慌てて走っていたせいで、角を曲がる瞬間今度は誰かにぶつかってしまった。あぁ、なんて日だ! せっかく忍者で過ごした一日が!
ぼふっとぶつかった方の胸のなかに飛び込んでしまった。その方は驚き、跳ね返りそうになった私を慌てて抱き留めてくれた。
「わ、大丈夫ですか!?」
ぎゅっと抱き締められその方の胸に顔を埋めた私の耳に響くその声は!! あぁん、良い声!! 良い匂い!! 思わず抱き締め返し、すぅぅう!! と思い切り匂いを嗅いでしまったわ!! むふぅぅう!!
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