第8話 デレデレ!
「ありがとうございます!! では今からシュリフス殿下のところへ一緒に行きませんか?」
「医務室に?」
「えぇ、どうですか?」
「そうですわね……」
アイリーンはチラリと生徒会室の扉を見たが、扉が開かれることもないため、小さく溜め息を吐いた。
「では、ご一緒しますわ」
「はい!」
アイリーンと連れ立って医務室まで。
歩きながら色々話をするとアイリーンは意外とよくお喋りをする人のようだった。普段はやはり公爵令嬢として毅然な態度で自分を律しているんだろうなぁ。十七で偉いわよね。
生徒会四人組は幼馴染。これはまあ知ってるんだけど、アイリーンから聞く話が面白かった。
彼女自身も例にもれず幼馴染なわけで、子供のころの話もよく知っているのだそうだ。
しかしあの四人はやはり女性に人気があるため、幼馴染だという話はあまりしないのだという。当然のように四人組とアイリーンが幼馴染だということは周知の事実なのだが、子供のころの話を誰彼なしに話すことを良しとしないアイリーンが口を噤んでいるため、次第に子供のころの話を聞いてはいけないものだ、という暗黙のルール的なものが出来上がったらしい。
子供のころの話は少しくらいしか聞けなかったが、いかに四人がモテるかの話が凄かった。
四人で行動しているとそれに続く行列が出来上がったり、個々に出歩いていても誰がどこにいるかすぐに分かるほど、人だかりが出来上がるそうだ。
勘違いをする女性からストーカーされたり、傍にいるための小競り合いが始まったり、と怖いことも……。
「アイザックにはお気を付けなさい」
「はい?」
唐突にアイザック? ヤンデレだからかしら?
「アイザックは普段表向きにはにこやかにしていて、女性にもとても優しいのです」
「……はい」
「でも、目は笑っていません」
アイザック!! あんたアイリーンにもバレてるわよ!! まあその辺のご令嬢ならいざ知らず、公爵令嬢、しかも四人の幼馴染だしね。そりゃバレるか。
「アイザックはその……複雑な事情があり……その、性格が少々……歪んでしまったのです」
アイリーンにしては歯切れ悪く言ったわりには「歪んでいる」って! ちょっと笑いそうになってしまった。危ない。
でも確かに歪んでるよね。ヤンデレだし。監禁なんかしちゃうし。
「だから、その……気を付けて」
私のことを心配してくれるんだなぁ。ジーン。やっぱりアイリーンってとっても良い子。
「はい、ご心配いただきありがとうございます。気を付けますね」
ニコリと笑って見せると、アイリーンはホッとしたような顔をした。
「それで! セルディ殿下とアイリーン様の馴れ初めは!?」
「はい!?」
ウキウキで聞いてみたら、アイリーンは真っ赤になった。くぅ、可愛い。
でもやっぱり二人の馴れ初めは聞いてみたいじゃない! ねぇ?
「そそそ、そんなこと言えませんわ!!」
「えー、出逢いのお話だけでも~」
食い下がってみた。ニヤニヤしそうな顔を必死に抑える。
真っ赤になったアイリーンは怒ったような顔をしながらも、恥ずかしそうに話し出した。
うふ、やっぱり好きな人の話はしたくなるよねぇ。うふふ。
「私とセルディ殿下は産まれたときから婚約が決まっていたのです」
ふんふん、と食い入るように話を聞いた。
「私が五歳のときに初めて顔合わせで公爵邸にいらしてくださったのです。そのとき初めて見たあの方はとても美しく、光り輝いておられて、とても優し気な笑顔で私の手を取って挨拶をしてくれたのです」
おぉお、さすが王子! しかもアイリーン、デレデレ!! 真っ赤になりながらもうっとりするような表情で過去のセルディ殿下を思い出してる!!
ベタ惚れじゃないのよ!! いやーん、聞いてるこっちが恥ずかしくなるー!!
初めての出逢いをこれでもかってくらい、ひたすらどれだけ殿下が素敵だったかを熱弁!
それなのに殿下の前じゃ、冷静な公爵令嬢なのよねぇ。この可愛い姿を見せたら良いのに。そしたらセルディ殿下もきっとルシアなんかに靡かなかっただろうに……って、乙女ゲームなんだから無理なんだけどね! きいぃぃ!! なんかモヤるわ!!
こんな子だったなんて、ゲームをしているときには全く分からなかったし!
ますます断罪させるわけにはいかない!! アイリーンには幸せになってもらいたい。
セルディ殿下はアイリーンのことどう思ってるんだろうなぁ。いつか聞き出してみたいわね。
可愛いアイリーンを堪能している間に医務室の扉が見えて来た。学園内、教室とは少し離れたところ、中庭に面したところにある。
本来ならシュリフス殿下と出逢うのは……って、モブだから出逢うというか、チラッと出てくるだけなんだけどさ。
本来ならもう少しお話が進んだあとにある狩り大会。学園内のスポーツ大会という感じかしらね。魔法や剣を使い、学園所有の森林のなかで狩りを行う。一番多く狩ったものが優勝し、賞品が贈られる。
しかし、ルシアの参加した狩り大会は突如魔物が現れたのだ。
予期せぬ魔物の登場でその場にいたものたちは混乱し、ルシアは魔物を倒そうとしたが、さらに魔物が増え怪我をするのだ。
魔物たちは生徒会四人組と狩り大会の警備をしていた騎士団がなんとか倒したのだが、ルシアの怪我に驚いたセルディ殿下が、ルシアを抱き上げ救護班で来ていたシュリフス殿下の元へ連れて行く、といったストーリーだった。
そのとき案の定アイリーンはお姫様抱っこされたルシアに嫉妬の炎が上がっていたんだけど……。
このイベント後からセルディ殿下との親密度が上がるんだけど、私的には一瞬出てくるイケオジに目を奪われていたのよねぇ、フフフ。
こんなに早くシュリフス殿下と出逢って良いものかしら。ちょっと心配にもなるけど……推しにはすぐ会いたい!! チラ見でもなんでも良いからとりあえずは見たい!!
だから待ちません!! 会いたいもんは会いたいのよ!! そこは我慢しません!!
「失礼致します」
アイリーンが扉をノックし声を掛けると「どうぞ」と、なかから素敵な声が聞こえてきたぁ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます