第2話 お局様からヒロイン転生!?

 なんと前世と思われる記憶が蘇ったのだ!


 先程私とぶつかった超絶美形のイケメン! 彼は私が好きだった乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の登場人物、この国の第一王子セルディ殿下!


 彼を見た瞬間、頭のなかに私の記憶とは違う記憶が蘇った。


 私はこことは違う世界の日本という国で働くアラサー女子だった。

 アラサーで女子とか言うなって? いや、そこはサラッと流してちょうだい!

 だって仕事ばかりで彼氏もいない。好きなものは漫画やアニメ、そして最近ハマっていた乙女ゲームだけ! いわゆる喪女……いや、会社ではお局様と呼ばれていたけど……。


 前世の私は仕事熱心で曲がったことは大嫌い。仕事もサボったりすることもなく、後輩の指導も厳しく行っていた。

 だからまあお局様と呼ばれていたんだろうけど……。


 その私が仕事以外で楽しんでいたのが乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』。


 侯爵令嬢の主人公が学園に入学したところから物語は始まる。

 攻略対象のイケメンたちが次々と現れ、それぞれのイケメンとラブストーリーがあるわけだが、先程のイケメン、セルディ殿下も筆頭攻略対象なわけで……さっきの門でぶつかったくだり! あれ! 早速出逢いイベントじゃないのよー!!


 ハニーピンクの髪に琥珀色の瞳、そしてこの顔!!

 私、ヒロイン!? え、マジで!?


 な、なんてこと!! え、どういうこと!? 私、死んだってこと!? え!? えぇぇえ!?


 しかもゲームのなかに転生!? 意味分からん!! あぁぁ、あの中途半端な仕事どうなったのよ……。


 いや、今それどころじゃないわね。外にセルディ殿下を待たせるとか失礼にもほどがあるじゃないのよ!


 慌てて立ち上がり、扉を開けそっと外を見る。


「あぁ、お嬢様! 大丈夫ですか!?」


「レディ、大丈夫ですか!?」


 二人とも本当に待っていてくれたのね……アナはともかく王子まで……良い人だわ。


「ご心配おかけして申し訳ありませんでした。大丈夫です」


「それは良かった。本当に申し訳ありませんでした」


 恭しく手を取り挨拶のキスを手の甲に……ぐはっ! イケメン!! ヤバいわ!! 鼻血が出そう!! クラッとしそうなのをなんとか耐えた。


「申し遅れました。私はセルディ・ロニア・ラベルシアと申します」


 うん、知ってます。本当に私の知っている『ラベルシアの乙女』のなかなのね……。イケメン過ぎて怖いわ、これ。


「レディ? どうかされましたか?」


「え! あ、いえ、なんでも!」


 ヤバい、ガン見してしまっていた!

 心配そうな、キョトンとしたような、少し戸惑い顔でこちらを見詰めるセルディ殿下。か、可愛いわ……そして超絶イケメン……、信じられない……。


「レディ、貴女も新入生ですね?」


「あ、そうでした! 入学式!」


「私のせいで遅くなってしまいましたね、申し訳ない。私はこの学園の生徒会長を務めていますので、事情を説明させていただきます。失礼ですがお名前は……」


 あぁ、名乗るのすら忘れていたわ! なにやってんのよ! しっかし、貴族のお話に学園があってさらに生徒会ってよくよく考えたらおかしな話よね……。日本人、さすがなんでもあり!


「レディ?」


「あぁ、申し訳ございません、私はローズ侯爵家のルシア・ローズと申します。セルディ殿下には失礼を致しました。お手間を取らせてしまい申し訳ございません」


「ローズ家のルシア嬢、私のことをご存知でしたか」


「もちろんです。この国に殿下のお顔を知らぬものはございません」


 それは本当に。乙女ゲームを知っているからではなく、貴族令嬢として皇族の方のお顔を知らないなんてありえないしね。


 セルディ殿下は私が怪我などないことを確認すると私を入学式の会場までエスコートしてくれた。


 紳士よねぇ、しかも超絶イケメン、そりゃあこんなの惚れるよね……。『ラベルシアの乙女』のなかで一番人気を誇っていたのがこのセルディ殿下だったしね。


 攻略対象であるイケメンはセルディ殿下を含め四人。

 ワンコキャラの可愛いイケメン、クールで冷たいイケメン、ヤンデレでいじめまくるイケメン。


 セルディ殿下は万能イケメンだから一番人気。ワンコキャラも可愛いからとお姉さま方から人気だったわね。クール系とヤンデレ系は……マニアックなファンがいた。

 クールなイケメンは攻略出来たときのテレ顔溺愛がたまらないのよねぇ!!

 ヤンデレはちょっと怖いんだけど、これまた攻略出来たときに甘々に変わるギャップがたまらなく受けていた。


 私ももちろん全てのイケメンを攻略したのは言うまでもないんだけど……でも、私が好きなキャラはその四人ではなーい!!

 違うのよ!! 攻略対象のイケメンたちも確かにかっこいいんだけど、でもでも!! 違うのよ!! 私が好きだったのはイ・ケ・オ・ジ!!


 アラサーだからとかツッコミ入れないでもらいたい! 私はもっと若いころからイケオジが好きだったのよ!! あの渋さ!! 若者にはない落ち着き!! スマートでイケメンで渋さも加わったイケオジ最高!!


 それがこの『ラベルシアの乙女』にドンピシャなイケオジが出るのよー!!


 モブ扱いで二回しか顔が出ないんだけどさ……。


 でもでも、めちゃくちゃタイプのイケオジ!! 銀髪に瑠璃色の瞳で落ち着いていて優しいイケオジィ!! この国の王様の弟! 王弟殿下のシュリフス殿下!!

 学園で保健医をしてらっしゃるのよ!! 確かご結婚もされていなかったはず!! モブ扱いでお名前すら出ていなかったけど、転生したおかげかルシアの記憶には王弟殿下のお名前が!!


 だから私は攻略対象じゃなくシュリフス殿下とお近付きになりたい!! こんな世界に入り込んだのなら、たった二回の登場だけじゃなくもっとお姿を見たい!! あわよくば……うふ。


 セルディ殿下の横でそう鼻息荒く意気込んでいたら、よく通る高い声が聞こえた。


「セルディ殿下、ごきげんよう。生徒会長でありながら遅刻ですか? しかも見知らぬ女生徒と二人きりでなにをされてらっしゃったのかしら。第一王子という自覚をもう少しお持ちになられたほうが良いのでは?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る