受付もした

 キャンプ場の目の前、言うなれば第一駐車場に着いたタクシーとポピコは車から降りて伸びをした。運転はする方も乗る方も疲れるものである。


「確かにこれは事前連絡がいるわ」

 到着してから初めに口を開いたのはポピコだった。伸びを継続しながら、自分たちが通ってきた道の方に振り返る。


「そうだな。それにちょっと緊張した」

 タクシーが同意した。


 無理もない話だ。マッシュと分かれたところからここに来るまで、道の幅がとてつもなく狭かったのである。ファミリーカーを運転するタクシーにとっては気を張る場面だったはずだ。


 しかもその道、一方通行ではなくキャンプ場に行く人も来る人も使うのだ。途中ですれ違うことが出来ないので、かち合ったりしたらとても面倒が臭い。


 というわけで、先ほどまでいた駐車場でキャンプ場に連絡し、管理員さんに誘導してもらう必要があったのである。


「加藤様、でお間違えないでしょうか?」

 そんな二人に声をかける男性が一人。


「はい、加藤です」

 タクシーが答えた。しかも愛想がいい。


「では手続きを致しますので、管理所までお越しください」

 管理人はそう言うと、二人を誘導するように手で方向を示して歩き出した。




「こちらにおかけになって、少々お待ちください」

 管理人は二人を席に座らせると、奥に消えていった。


「……雰囲気あるな」

 とタクシー。


「だな。なんかワクワクしてきた」

 とポピコ。

 

 ――それからしばらくは座っていた二人だったが、ポピコが立ち上がって一言。


「散策だ」


「ノッた」

 ポピコがすぐに同意して続いた。


 実際は散策と言えるほど管理所の待合室は広くはなかった。しかし、年季が入って雰囲気のある壁面や天上、ご当地のグッズに周辺マップと飽きなさそうなコンテンツが揃っていた。


「ゆるキャン△あるぞ」


「見てないからわからん」

 ポピコの言葉にそう返すタクシー。ポピコは信じられないという目つきで見返した。


「マジか。じゃあ今日の夜見ようぜ。アマプラで保存してきたから」


「いや、あんまり興味ない――ほら、ここで日用品とかも買えるらしいぞ」

 

「あ、ホントだ。便利すぎる」


「盲点だった。絆創膏とか買っておいた方がいいか?」


「別に大丈夫な気もするが――」


「お待たせしましてすいません」

 管理人が何やら資料を持って戻ってきた。


「いえいえ、見て回ってたらあっという間でした」

 タクシーは管理所内を示して言った。それに対して管理人が愛想よく返してくれた。続けて口を開く。


「では、キャンプ場の利用に際しまして注意事項を――」


「――はい、そうです。そこにお名前とお電話番号を書いていただいて……はい! ありがとうございます」


 これで受け付けは終了かな、とポピコが腰を浮かした直後、管理人がさらに一言。


「お客様、スノーピークのアカウントをお持ちでしょうか? もしお持ちであればポイントを付けることが可能ですよ」


 スノーピークとは有名なキャンプギアのメーカーだ。質の高いギアを多数展開しているが、タクシーたち三人は大学生。価格帯の高いスノーピークはバイト勢では手を出しずらかった。


「持ってないです」


「大丈夫です」


 よって、タクシーとポピコはその申し出を断った。


 ことタクシーはよく家族でキャンプを嗜んでいるので歯がゆい思いをしていた。スノーピークのキャンプギアが欲しくても買えない、そんな毎日を送っているのである。


 同様にキャンプを嗜むマッシュもそうだろう。ちなみに、マッシュはソロキャンが主だ。


「分かりました。受付はこれにて終了です。次にキャンプ施設について説明を致しますので、外までお願いします」

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