第6話 ぼっち少女と世界のルール

 フレがこの世界のことをあらためて説明してくれた。


 この世界は


 現世で死んだ人間はあの世では動物にお世話をしてもらう。その分働く。でも、とが無く死する魂、すなわち、現世で悪いことをしていない魂のみだ。


 現世で死んだ動物は人も含めて、全て一度魂が洗浄され、あの世で過ごし、現世に生まれ変わるのを待つ。


 洗浄された魂は教会の裏の神樹から生みだされる。


 各動物毎に国があり、それは浮島でにされている。例えばネコ族なら一つの浮島でネコ族と人間と魔獣しか存在しない。家畜は衣服と同じ扱いになる。だから、家畜が生まれ変わることはない。


 浮島の淵は魔の森で囲われていて魔獣がいる。


 現世で悪いことをして死んだ動物は人間も含めて魔獣になる。


 色羽いろはには、ここまではだいたい聞いた内容のだった。ここからが新しく説明してもらった内容になる。


 魔獣は死んでも魂は浄化されない。何度か苦痛を感じながら肉体を残して死んで、反省したと判断されたら、もとの種族の島に生みだされる場合がある。それは創造神様が判断している。

 

 現世で生きているA動物とB動物、この世で生活しているA族とB族の存在する比率は同じである。

 例えば、現世で猫と犬の生きている割合が一対一の場合は、この世でのネコ族とイヌ族の割合は一対一となる。現世での割合をあの世で調整している感じ。総比率は、創造神様が大まかに決めている。

 

 創造神様が一番偉くて、その次がフレ。

 各種族の長が聖獣でネコ族ではアシェラ女王がそれに当たる。

 

 まだ、説明を続けようとしているが、その説明を色羽がさえぎる。


「ちょ……ちょっと待って! もうお腹いっぱい! だいたいこの世界のことわりは理解した! っていうか一度にそんなに覚えれないよ。わからないことはまた徐々に聞かせて!」


 色羽が叫ぶように言ったもんだから、フレもアシェラ女王もびっくりした顔をしている。


「でも、今わたしが理解した限りでは、じゃあ、なんでネズミさんがネコさんを襲うことになるのよ? ってことよ。各種族浮島で独立してるんだよね?」


 色羽は我慢できず、ずっと魚の骨が喉に刺さっているような気持ち悪い感じがしている部分の質問を投げ掛けた。


 それにフレが、そうなるよね! というような顔をして説明する。


「やっぱり色羽は流石だね。まず、現世でおそらくネズミの異常繁殖、殺戮が繰り返し行われている。もともと、ネズミ族は現世で実験モルモットとして利用されるようになってから、調整が難しい種族だったんだ! そんな状況の中で、おそらく民間の組織が変な実験を何らかの目的のために始めた。わかりやすく数で説明すると、現世で百生まれるとき、あの世で百減り二百生まれる。比率は同じだからね」


 フレは険しい顔をしながら話を続ける。


「これが問題なんだ。普段なら問題ないんだけど、そのスピードが異常的になった。あの世は二倍調整が必要になる。だから、魂の洗浄が追い付かなくなり、洗浄が充分でない個体があの世で生まれてしまった。その個体の魂の残滓ざんしである悪意が伝播していってネズミ族の聖獣にまで影響を与えた」


 一度アシェラ女王を見て、そのあと視線を戻してから真剣な眼差しで話を続ける。


「そういった異常事態が生じたときは強弱種族の会合が開かれるんだ。今回はネズミ族の異常だからネコ族が選ばれた。普段ならぼくとネズミ族の長、ネコ族の長であるアシェラ女王と会談が行われる。その三人が集い、オッドアイの瞳の力と聖獣二人の力を行使したとき、現世とあの世のリンクが強まり、現世にも影響を与えられるんだ。その力を行使したあとに話し合いを行い、死の教会か生の教会の扉を閉める。そうすると現世の異常繁殖を止めたり殺戮を止めたりすることができる」


 残念そうな表情をしながら、ずっと黙っていたアシェラ女王が口を開く。


「ただ、今回はネズミ族の長まで既に影響が伝播しているのです。だから、ネズミ族の長は会談を拒否しましたの。そしてついには浮島を操作して、このゴニャー帝国に体当たりをしたのです。体当たりをした衝撃で両方の魔の森が一部島からずり落ち、今はネズミ族の島と繋がっている状態に」


「ぼくのオッドアイの瞳の力と、二人の聖獣の力が揃わないと、現世を調整できない。ぼくは焦って、創造神様に相談した。そしたら、現世でぼくみたいな真っ白なアルビノかオッドアイの人間を探すように命じられた。だから、すぐに何万もの分身を作って聖域に散らせた。聖域とは現世でいう神社、寺、教会とかだね」


 一つ納得できた部分があった。色羽は一度フレを家に連れ帰ってお昼を一緒に食べようとした。連れ帰るためにフレを抱いたまま、神社を出ようとしたときに強く拒否されたことがあった。


「聖域からは出れなかったんだね」


「厳密にいえば本体なら出れるんだけど、分身を多く作っていたから、一個体では消滅する危険性があったんだ」


「当初はアルビノなら力を与え、直接的に現世で調整してもらおうとした。オッドアイなら、こちら側あの世で頼る予定だった。でも両方を持つ色羽に出会えた。今、きみにはぼくと同じくらいの権限が与えられているんだよ」


 そう言ってフレはおもむろに腕を差し出して上に向けて、手のひらをグーからパーにした。

 次の瞬間、手の上に炎が現れた。その炎は黄色、赤、青、黒と色を変える。


「うわあ、めちゃくちゃ綺麗だね!」


 色羽は力の事より、炎の色に魅了されていた。すると、アシェラ女王がニコッと笑い、人差し指をくるっと回す。すると風が発生して炎を消した。


「でも、一つ約束というかぼくと同じで色羽にはできないことがあるんだ。それはあの世の魂に直接的に干渉できないこと。ぼくと色羽はこの世界では!」


 色羽は少し考えるような仕草を見せたが、すぐに意図を汲み取った。

「なるほど。ネコさん達に知恵を貸せば良いってことね」


 フレは『さすがだねっ』と感心して頷いた。

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