冒険者パーティーを追放された私は、ドMの変態男と一流冒険者を目指すことになりました

柊 蕾

第1話 変態と私

「何やってるんですか? あなた?」


「何とは?」


面接室に入ると、目の前でガタイのいい男が、上裸で四つん這いになってた。


「その格好ですよ! それと、なんで背中に椅子って書いてあるんですか!!」


「……? そんなの決まっているだろ。俺が椅子だからだ。さぁ、座れ!」


「はぁ? い、嫌ですよ!」


私は、あまりの気持ち悪さに男の脇腹に蹴りを入れる。

すると、


「ぁぁぁ、いい! いいぞぉ」


ヨダレを垂らしながら、その男は身悶えた。

……どうしてこんなことになっているのか


―それは遡ること1か月程前


「君、来月から来なくていいよ」


仏頂面の上司が書類を机に置き、話かけてくる。


「へ、な、何でですか?」


「理由なんてあげたら切りがないよ。ミスはするし、仕事の覚えも悪い。君、先週のクエストのこと覚えてる?」


「はい、鉱石の採種クエストでした。ノルマは10個以上で、期限は5日以内です」


「それで、結果は?」


「……、採種数0でクエスト失敗でした」


「それだけじゃない、君がこのパーティーに入ってから2年間、まともな成果を出したクエストはあったか?」


「……、いえ」


「話は以上だ」


そんなわけで、2年間籍を置いていたパーティをクビになった私は、次のパーティーを探すため、ギルドに向かった。


けれど、


「えーっと、ヒカリさんでしたっけ?」


「あ、はい!」


「すみません、あなたの経歴で紹介出来るパーティーはありませんね」


ギルドの男が資料をめくりながら答える。


「そんな……」


「冒険者パーティーを希望される方は大勢いらっしゃいますからね。求人が来てもすぐに枠が埋まっちゃうんですよ。なので、例え空きがあったとしても、ヒカリさんのキャリアだと、加入は難しいかもしれません」


そう言って男は一枚の紙を私に手渡す。


「似たような業種ですと、こんな求人がありまして……。これなら直ぐにご案内出来るのですが」


紙には、『この国の物流を支える!護衛隊募集中』と書かれていた。

どうやら、物資輸送の際に、盗賊や魔物から依頼物を守る仕事のようだ。

これはこれで魅力的ではあるのだが……。


「すみません、私は冒険者パーティー以外興味がないので……」


ギルドの男に紙を突き返す。

男はバツの悪そうな顔をしながら、


「そうですか……、では気が変わったらまた来て下さい」


そう言って席を離れた。


……、憂鬱だ。


ギルドの外で町行く人々を眺めながらそう思う。

冒険者パーティーと言えば、未知なる大地を開拓し、時に強力な魔物を倒し、時に、莫大な財宝を発見する夢のような職業だ。

そのため、多くの国民が冒険者パーティーに憧れており、1000人以上の冒険者が所属する大手パーティーに入るためには、幼少期からの並々ならぬ努力が求められている。

そんな狭き門の世界で、中小とは言え、一瞬でも冒険者パーティーに所属出来たのが、奇跡だった。

……結果は散々だったけど。


「でも、また……、やりたいなぁ」


一流の冒険者になることが小さい頃からの夢だった私にとって、今の現実は受け入れがたいものだった。

せめて、もう一度だけチャンスを貰えれば、きっと……。

何度もそう思ったが、全ては手遅れ……。


「グスッ……、グスッ……」


そんな事を考えていたら涙が出てきた。


すると、


「おい、こんな所で何を泣いている」


そう言って誰かが私にハンカチを差し出して来た。


「す、すみません、でも、でも……グスッ」


「ああ、もう泣くな。相談くらい乗ってやるから」


声の主がそっと私の隣に座る。


「あ、ありがとうございます……」


私はその言葉に頷き、ハンカチを手に取った。


「私はレイカ、お前は?」


レイカさんは私の方を向き、そっと微笑む。

背は小さいけれど、整った綺麗な顔と美しい金髪が太陽に照らされて、とても綺麗だった。


「えっと……、ヒカリです」


「そうか、よろしくな、ヒカリ」


レイカさんが私の前に手を差し出す。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


私はその手を握り返し、軽く会釈した。


「それで、お前はこんな所で何を悩んでたんだ」


「それは……」


私は、今日までの顛末をレイカさんに伝えた。


「なるほどな。つまりお前は冒険者になりたいけど、求人が無くて困ってるってことだな」


「はい」


「そっか、それならちょうど良かったかもな」


レイカさんはそう言って私に一枚の紙を手渡す。


「これは……?」


「冒険者パーティーの求人票だ。しかも、まだどこにも張り出していないな」


「え……、良いんですか?そんな紙を私に見せて」


「あぁ、なんて言うか、色々訳ありの求人でな。どうせギルドに持っていっても断られるだろうし、お前にやるよ」


……? どういう意味だろう。

レイカさんの言っていることは良く分からないけどチャンスが来たのは確か。

ここでしっかりとチャンスをものにして、もう一度、一冒険者になるんだ。

そう思い、渡された求人票に目を通す。


「パーティー名、MMT聞いたこともないパーティーですね」


「最近出来たばかりのパーティーだからな。ただ、実績は確かだぞ」


レイカさんが求人票の下を指さす。


「格付けA-って、出来たばかりのパーティーで?めちゃくちゃ凄いじゃないですか!」


パーティー格付けは毎年、ギルドがAAA~Cの21段階でパーティーを評価しているもので、BBB-以上のパーティーが優良パーティーとされている。


「まぁ、実績だけはあるパーティーだからな。もし良かったら面接でも受けに行くか?代表にアポくらいは取ってやるぞ」


「本当ですか! ぜひ!!」


優良パーティーに入れる機会は、これを逃せば早々に訪れない。

私は2つ返事でオッケーを出し、後日、レイカさんに面接の日程と会場を聞き、面接に望んだ。


―そして、今に至る。


「ああ、君は最高だ。ドSには定番のツーサイドでまとめられたピンクの美しい髪、そのゴミを見るような目、たまらない」


上裸の男が体をビクビクと痙攣させ、転がりながらこちらに近づいてくる。


そして、


「ベロッ」


私の靴を舐めた。


「キャ、キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」


私はあまりの気持ち悪さに悲鳴を上げた。

そして、


「死ね、死ね、この変態!!」


男を引き離すため、蹴りを入れた。

すると男は、


「素晴らしい、もっと、もっとだぁぁぁ」


なぜか私の蹴りが顔面のど真ん中に来るよう、器用に受け止めながら、気持ちの悪い声を上げた。


「な、なんなんですか……、あなた……」


目の前にいる人間が、同じ人種だと思えず、ドン引きしながら男に問いかけた。

すると男は立ち上がり、


「俺か、俺は……」


男が何かを言いかけたとき、顔面にドロップキックが飛んだ。


バリーーン


という窓が割れる音と共に、男が外まで吹き飛ばされる。


「大丈夫か、ヒカリ!!」


「レイカさん! 助かりました、今、変な人が」


レイカさんに事情を説明しようとした瞬間、ムクリと男が立ち上がる。


「ははは、相変わらず素晴らしい蹴りだ!レイカちゃん」


「うっさい、黙れ、死ね!」


「おっふ……」


レイカさんから罵倒され、気色の悪い声を出した男が、ガラスの上に自ら倒れ、のたうち回った。


「アンッ、アンッ、アン」


男がそんな声を出しながら、ガラスの上を往復する。

その体からは血が吹出しており、床が赤く染まり始めていた。

……なぜこの男は、自ら体を痛めつけているのだろうか?

私には理解不能だった。


「えっと……、レイカさんのお知り合い……ですか」


「知り合い……、というか」


レイカさんがため息を付ながら答える。


「こいつがこのパーティーのリーダーだ」


「へ?えええええええええええええええええええええ」


私は思わず絶叫してしまう。


これが、私と変態リーダーとの出会いだった。


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