わあるどわいど!

桜舞春音

旧商店街

 桜舞春音です!初めにここ読んでください!

このシリーズは桜舞春音が不定期に自分の作品をセルフパロしていくシリーズです。


今回は「ナイトレガシー」が元ネタ。

主人公・藤舞を誘った六所涼介ろくしょりょうすけが初めて夜に出た日の話。

地雷確認。


・涼介が子ども

・相変わらず夜遊び

・相変わらず自転車

・相変わらずカジノ

・煙草より酒。作品自体なんか酒臭い

謎の女モブ(わりと不審者)出てきます


とまあこんな感じです。ナイトレガシー読めたなら読める。けど世界観壊されたくない人はここでUターンしてください。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 夜って暇だなあ。


そんなことを思ったのは最近ではない。

覚えている限りでは二〇年ほど前、小学校入学時にはそう思っていただろう。

六所涼介は夜型だった。

親や医師も認める夜型とは赤ちゃんの頃から日付が変わっても静か~に起きていて、どんなに騒いでも二時くらいまで寝ずにいる人間の事だろう。それで五時にすっきりと目が覚めるのだから夜型と言うよりもショートスリーパーと言った方がいいかもしれない。その証拠に、この生活で人生二五年、一度も大きな病気はない。


涼介は今日も家で寝転がっていた。家と言っても建物じゃない。一・五リッターの小さなエンジンと五速MT、電飾が付いたタウンエーストラックのデコトラキャンピングカー。天窓が二つついた涼介の家は今日もコインパーキングで静かに停まっている。

家がないわけではないし戸籍もある。ただ自分が好きで実家を出てこの車で住所不定の暮らしをしているだけ。実家は静岡県御殿場市の郊外にあるが、日本一周を目指しウェブライターや動画配信者として稼ぎつつ旅をしていた。

涼介が夜に固執しだしたのは小学生の時だった。私立の中学なんて行く気はなかったが父親はいけいけと厳しく、母も古い人ゆえ父に逆らえず勉強漬けの日々。嫌気がさして逃げ出してやったのが最初。

夜の街は綺麗だった。少なくとも、涼介の目にはそう見えた。

つまんねえの。が口癖だった当時を、涼介は思い出していた。


 涼介はその日、布団の中で目を覚ました。時計を見ると午前三時前。

「おっかしいな、一時に寝たのに...。」

涼介は自分の部屋で呟き、部屋を見回した。六畳半のマンションの一室。カーテンの隙間からは、変に紫色の街灯の光が漏れてきている。


涼介は荷物をまとめて外に出た。父親はこの時間晩酌のお陰でぐっすり眠っていて、今日母親は夜勤。止める人間は居ない。

涼介は自転車にまたがり、少し涼しい夏の夜を駆ける。南御殿場駅すぐの家から御殿場線にそって北上する。市内の中心部は御殿場駅を中心に広がる駅前で、三時前には着くことが出来た。以前行ったことのある大阪や名古屋より大人しい夜の御殿場市。とはいえ、街灯は明るく、夏の星空もほぼ見えない。

今年三月に東北で起きた地震の募金が色々なところでやっているが、夜の街は眠ることを知らなかった。

街はこの時間、酒と煙草のオンパレード。警察も少なく、だれも涼介なんて気にしていない。

マフラーが弄られた、ろくに整備もされていない原付のエンジン音を聞き流しながら夜の街を徘徊する。

涼介は空を見上げた。藍色の晴れた空は暗い。本来輝いているはずの星はそこにはない。街灯で照らされて掻き消されている。


何と無く、人に似ていると子供心に感じる。

なんでも明るくすれば、見たくない場所も隠せると思っているような感じがする。あと普通に妙に明るいと前が見にくい。涼介は自転車を道端に停めて歩き出した。自転車には悪いが、ゆっくりしたかった。


「きみ...。」

その時、後ろから女の声がして、涼介は一瞬跳ねる。

振りかえると、赤い服に赤い帽子を被った長身の女。さっきの声もよく考えたら上の方から聞こえた。

「私の家に来ない?」

「ヒッ...」

その女は目が異常だった。涼介が逃げようとすると、女は涼介の腕をつかむ。

「ッ...強いたたたた!」

力が異常に強い。赤い袖から覗く血の気ない骨と皮だけの腕から繰り出される謎の握力はそれが人間じゃないものであることを示していた。

女はそのまま涼介を引き摺り、道に停めた旧いマツダカペラに向かう。

—やばい!連れてかれる

と思った瞬間——


鈍い音が三発。

響いてそれから、悲鳴もなくいつの間にか女は消えていて一人の男が立っていた。

「大丈夫か?」

男は短く切った髪を明るい赤のメッシュにしていて、ジャージのような服の下に明るい色のTシャツを着ていた。

涼介が頷くと

「何してるんだ?危ないぞ。」

と優しく言った。その微笑みは、どこか寂しげでありながら懐かしかった。


男は近くの月極駐車場に停めてある白いスズキパレットSWに涼介を乗せた。そして

「腹減ってるだろ。こんなもんしかないけど。」

とコンビニのサンドイッチを涼介に手渡す。涼介は封を開けて食べ始めた。と、男はエンジンをかけた。車が動き出し見たこともない場所まで連れていかれても不思議と怖くはなかった。

しばらくすると、山のような暗がりの麓に旧いタイプの商店街が見えた。この辺ではあまりない霧に囲まれている。

「ようこそ、我がナイトレガシーへ。」

男は言った。


「ここは疲れた人間の遊び場さ。なんだってできるし、なんにでもなれる。」

続けて、

「俺はここを管理してる、鈴木淳すずきじゅん。」

と自己紹介をした。

アーケードのついた商店街はシャッターが閉まっていて薄暗いが、中でも街灯に近い色の妖艶な光が漏れる階段に涼介は手を引かれて吸い込まれる。

そこはカジノホールだった。

大人たちが思い思いの酒を飲みながら賭けをしている。煙草の煙のせいで顔は解らないが、女の人も若い人もお年寄りも居ることは解る。


淳は缶ビールを開けた。そういえば、淳も若いが、一体幾つなんだろうか。

「少年はさ、何に疲れたんだ?」

淳から意外な質問が放たれる。涼介がきょとんとしていると、

「夜って怪奇現象が多いだろ。あれはやっぱりヒトナラザルモノが居るからなんだが、夜ってのは魂が迷いから解放されるときなんだ。」

と言った。


夜。

それは魂が解放される時間。生きた人間のファイは身体という器に縛られている。それ故自由はない。どんなことを内に秘めていようがそれを打ち明けることは出来ない。道に呼ばれるように、何でもない脇道が気になる事があるとき、魂は霊的な存在に呼ばれているという。夜がこんなにも綺麗で優しく感じられる涼介には“素質”があるらしい。

涼介は納得した。ここまでの人生は夜型だった。深夜徘徊は今日が初めてだが、窓から夜をずっと眺めている時間は幸せだった。心が満たされる感じ。心地よい感じ。物音もポルターガイストも、そしてこの突飛すぎる展開さえ怖くない。これが心地よかった。


「夜は好きだろ。」

淳は言った。

「うん。」

涼介が笑顔で答えると、周りの客がこちらを向いた。

その顔は、涼介の身近で亡くなった人間たち。

「嘘...なんで、


その瞬間、涼介は目眩がして床に倒れ込んだ。

それすら、受け入れられた。俺は夜の住人になるんだ。


最後に聞こえたのは、

「ようこそ。ずっとここにいていい」。


―END―

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わあるどわいど! 桜舞春音 @hasura

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