四天王ドロミオーネを、倒したい

第4話 おっさんは里帰りしたくて、3人は四天王をぶっ殺したい

 ----拝啓、故郷に残してきた妹へ。


 なんかこういう手紙には決まり文句だの、格式ばった挨拶が必要だのと、勇者様に言われているが面倒だし、妹相手にそんな格式ばった挨拶をしても、お前は気持ち悪がるだけだろうから、普通に書かせてもらう。


 そっちは、元気か?

 ゲンさんは飲んだくれてないか? アスカちゃんはあいかわらず、旦那さんと喧嘩してるんだろうか?

 ……俺は、勇者パーティーで今日も今日とて、なんとか必死に食らいつこうとしている。


 俺は今、王国の森林部にある、とある村に来ている。

 どうも、この森林に魔王軍の四天王の1人、ドロミオーネという幹部が、水面下でなにか企んでいるらしいという情報があって、勇者パーティーとしては無視できないという事で、来ているという訳だ。

 正直な所、大量のゾンビがいるってぐらいだが、四天王の気配はヒシヒシと感じてる……んだそうだ、俺には分からんが。

 

 四天王の対処も重要だが、俺にとっては自分の弱さを、このパーティーに俺は必要ないんじゃないかって、強く感じてるぜ。


 勇者パーティーの人達は、俺以外全員そろって優秀で、恐らくだがたった一人でも、魔王を倒せるんじゃないかってぐらいで、正直、俺が勝ってるのは年齢ぐらいなモノさ。

 正直、フォローするのもキツくなってきたし、ここらでパーティーから抜けて、故郷のお前の所に帰りたいと思ってるんだ。


 詳しい日程とかはまだ決めてないのだが、その辺はまた決まったら連絡する。


 それじゃあ、身体に気を付けてくれよな。



「----兄であるアルテより、っと。こんなもんで良いか?」


 宿屋の自室にて、俺は文をしたためていた。

 と言うのも、毎日のように3人に追放をくらってるから、俺の精神がかなり削られてしまったのだ。

 やはり毎日のように「追放すべき」だの、「弱い」だの言われると、精神的にキツいものがあるわな。


 それなので、この機会に里帰りもありかなと感じた訳だ。

 

「まっ、このドロミオーネなる四天王を倒したら、3人と相談すべきかもな」


 俺はそう言って、手紙を出すべく、ギルドへ向かうのであった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 【狩人】アルテがそうやって故郷へ手紙を出そうとしていた、その頃。

 隣の部屋にて、【勇者】セラトリア・ガルガンディアは小さくガッツポーズをしていた。


「よしっ、よしっ! アルテ、遂に故郷へ帰る決断をしてくれたか! 私は嬉しいぞ!」


 実はこの勇者様、王女である権限をフルに使い、アルテの隣の部屋をがっちりと確保した後、これまた権限をフルに使って壁を薄くしておいたのだ。

 おかげでアルテが隣で何をしているのかが良く聞こえて、彼女は満足げである。

 やってる事は、ただ王権を乱用するわがまま王女そのものだが。


 そして今、セラトリアは彼が故郷へ帰るために、手紙を書いている事、そして内容を口に出して書いていた事から、その内容まで完璧に理解していた。


「まぁ、手紙の最初に決まり文句や格式ばった挨拶が必要なのは、主に貴族など敬意を示さなければならない相手であり、家族である妹にまで使う必要はないし、なんなら私の名前を出す必要はあったのかと問い詰めたい気持ちはあるが」


 ともかく、故郷へ帰るという情報が、セラトリアには一番重要なのだ。


 故郷へ帰るという事は、勇者パーティーからの追放、つまりは自分と2人で暮らす決心をしたということなのだから。

 勿論、それはセラトリアの脳内だけの話であり、そんな事は決してないのだが。


「しかし、時期が定かではないな。ドロミオーネを倒してから、とは」


 彼女には色々と準備することがあった。

 主に、【賢者】と【聖女】の2人をどう撒くかとか、ご両親にはなにを持って行けばいいのか、とか。

 日にちが確定していればそれに沿って、色々と計画、行動すべきなのだが、正確な日程が決まらないとどうしようもない。


「よしっ、ならばドロミオーネとやらをさっさと倒すとしよう」


 本来は1か月くらいかけて、この王国の良さを知って貰ってから倒すつもりであったが、善は急げ、である。


「覚悟するが良い、ドロミオーネ。私とアルテとの、楽しい旅のために、貴様には首を差し出す義務があるのだ」



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 

 一方、セラトリアがガッツポーズをしていた頃、【賢者】ナウン・ガロは宿屋の外で万歳していた。


「イェーイ、ナウンちゃん大勝利ぃ~!!」


 もはやキャラが良く分からない感じになるくらい、彼女は興奮していた。


 ちなみに、彼女は魔術を用いて、彼の部屋の中の映像を別の場所に投影、音を再現する魔術を使って、彼の様子を観察していたのだ。

 立派な犯罪行為ではあるのだが、捕まえようにも彼女のオリジナル魔術であるため立証できないという問題があるので、彼女の行為が犯罪かどうかは、一旦置いておこう。


「ようやく、ボクと共に生活する決心をしてくれたんだね。アルテよ、ボクはあまりに嬉しすぎて、新型魔術で花火でもあげたいくらいだよ!」


 ウキウキ気分なナウンは、すぐさま状況を整理する。


「しかし、問題は2つありますね。1つはパーティーを去る時期が不明瞭な事」


 ドロミオーネ、それはナウン達勇者パーティーが倒そうとしている四天王幹部。

 姿は不明だが、各地にゾンビを生み出し、そのゾンビ達が人間を襲ってさらにゾンビ達を増やして、力を強める者----つまりは、ゾンビ達の王。

 かの王を倒せば、ゾンビ達は全員消えるらしいので、勇者パーティーはその退治のために、この村に来たという訳である。


 つまりは、どうにか名前を突き止めたくらいで、ここの森に居るのかどうかも分からない相手。

 そんな相手を倒さない限り、かのアルテは里帰りをしないというのが、ナウンには厄介さを感じる理由だった。


「パーティーを止める前に仕事を終わらせておこうとするその精神は立派だし、尊敬すべき行為ではあるが、いかんせんドロミオーネをなんとかしようってのは難しい」


 そしてもう1つの問題、それは----


「いっ、妹がいるだなんて聞いてないぞ、アルテ! どういうのを渡すと、妹さんに気に入られるんだ?」


 ----彼女にとっては重要な問題であり、さしてどうでも良い問題だった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 【勇者】と【賢者】の2人が、アルテを覗いていたその頃。


 もう1人のパーティーメンバー、【聖女】シャルもまた、彼の部屋を覗いていた。


 覗き魔、スリーコンボである。


「ふむ、そういう事情なのですね。神様」


 しかもこの聖女、神様から頂いた神聖術を用いて、特定の相手の行動を監視する新たな神聖術を作りだして、覗いていたのである。

 新たな神聖術を作るのは凄い事だが、やっている事は神様を巻き込んでの覗きである。


「神様、私は感謝しています。

 今回の相手、ゾンビは私の用いる神聖術に弱い」


 正確に言えば、ゾンビとは炎などに燃やされたり、神聖術で汚れを清められたりすると消滅する魔物。

 そのため【聖女】のシャルに弱いというよりかは、ぶっちゃけるとアルテ以外の3人ともに弱い、という感じである。


「ドロミオーネ、どのような相手かは分かりませんが、神のご加護マシマシな私がすぐさま見つけてごらんに入れましょう」


 ちなみに言うと、神は若干引き気味で見守っているため、ご加護が増しているように感じているのは、シャルの気のせいである。

 もしくは、兄さんと慕うアルテと暮らせるのを夢見る思い込みで得た強さである。


「さぁ、そうと分かれば、兄さんと暮らす未来のために、ドロミオーネ捜索に打ち込みましょう!」




 こうして、ドロミオーネは、勇者パーティーの3人から狙われる、今この世界でもっとも不憫な人になったのであった。

 ご愁傷様、としか言いようがない。

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