⚔時代錯誤⚔
天王寺 楓乃
プロローグ
少女とバイクの出会い
西暦2026年。
少女は道に迷ってしまった。
静岡県沼津市に暮らす少女は、同県の静岡市に住む祖父母の家に遊びに行くために1人で出掛けていた。
しかし、母から地図と公共交通機関の乗り継ぎが書かれたメモを渡されていたが6歳の少女には少し難しかったかもしれない。
少女の名は「西園寺 リナ」、途方に暮れてしまったリナは車通りの少ない路肩の縁石に座り込んでしまった。
母に1人で祖父母の家に行きたいと意気込んでいたのはいいが、リナは自分にはまだ無謀だったのかと落ち込んでしまった。
こんなことなら母に一緒に来てもらえばよかった…
リナは半べそ状態で俯いていると、1台のバイクが近づいてきてリナの前で停車した。
リナは顔を上げると、フルフェイスヘルメットのシールトを開けて大型バイクに跨る女性ライダーがこちらを見てきた。
女性ライダーはバイクのエンジンを切ると、バイクから降りて安全な歩道の方へバイクを押して移動させた。
「お嬢ちゃん、そんなところで座り込んでどうしたんだい?もしかして道に迷ったとか?」
女性ライダーはそう言いながらヘルメットを脱いで、リナの元へ近づいてきて横に座った。
ライダースジャケットを着て背が高くスラッとしていて女優の松嶋菜々子似の女性ライダーは続けて名前を聞いてきた。
「お嬢ちゃん、名前は?そんなに詰まったリュックを見る限り何処か行こうとしてた途中かい?」
女性ライダーの口調と雰囲気で、悪い人ではないと感じ取ったリナはようやく口を開いて現状を話した。
「名前は西園寺リナ6歳です。おじいちゃん家に行こうと思って、迷子になっちゃった……」
リナは声を振り絞ってそう言うと、女性ライダーは6歳の女の子1人で行かせるならば地図やメモ書きを親が渡しているはずと察したようで、リナに母親から祖父母の家までの地図を渡されてないか聞いてみたらリナはリュックの中から地図と小さいメモ帳を女性ライダーに見せた。
女性ライダーは地図を確認するとリナが全然違う方向に来てしまっていることがわかった。
さらにリナのメモ帳を確認すると、道に迷って困ったら人に聞くことや信号をしっかり守るなど書かれていて、しっかりした親であることはこれだけでわかった。
メモ帳には、リナの祖父母の家の住所も記載されていたので女性ライダーはスマホのマップで住所を入力するとバイクで20分といったところだった。
「リナちゃん、お姉さんがバイクでおじいちゃん家まで送ってあげるよ」
女性ライダーがそう言うと、半べそだったリナは送ってもらえる安心感と初めて乗る大型バイクになんだかワクワクしている。
女性ライダーは予備で持っていたハーフヘルメットをリナに被せると、バイクを縁石に寄せてリナのことを抱き上げてシートの後部に乗せる。
女性ライダーもバイクに跨るとエンジンを始動した。
初爆の太い圧の排気音で圧倒されたリナはびっくりしたがアイドリングが落ち着いてしまうとなんだか心地良い音だった。
「このバイクのお名前はなんていうの?」
リナは女性ライダーにバイクの車名を聞くと「カタナ」というSUZUKIのバイクらしい。
バイクには漢字の刀と刀のロゴが入ったステッカーが貼られている。
6歳のリナに説明されてもよくわからないが、このカタナは地球上で5台だけ存在する伝説のカタナと女性ライダーは言った。
「それじゃ、リナちゃん出発するぞ。しっかり私の身体につかまってるんだ」
女性ライダーはそう言うと、ゆっくりカタナを発進させた。
今日は8月の猛暑日でバイクの熱も相まってとても暑い。
女性ライダーはリナが大量の汗をかいていることに気づいていたので、道中のコンビニに寄ってポカリスエットを買ってくれた。
「初めて乗るバイクはどうだい?」
コンビニで休憩中に女性ライダーに聞かれたリナは、「すっごく気持ちいい!」と楽しそうだった。
15分程休憩すると、再び出発しようと女性ライダーがエンジンを始動すると駐車場に停まってる1台のバイクにリナは釘付けになっていた。
女性ライダーはリナに近づきこう言った。
「そのバイクはKAWASAKIのZ2という名車の1台だ」
リナは女性ライダーの方を振り向くと「大きくなったらこれに乗りたい」と笑いながら言った。
若者の車やバイク離れが騒がれている今の時代で、リナのような子はバイク好きからしたら嬉しいものだ。
女性ライダーは「将来が楽しみだ」と優しく微笑みながら言うとハーフヘルメットをリナに被らせた。
あまり遅くなるといけないので、祖父母の家に向かって再び出発した。
流石に猛暑日ではバイクの走行風も生温いが、リナは初めてのバイクが楽しくて仕方なかった。
そんな楽しい時間もあっという間に過ぎて、無事に祖父母の家に到着した。
リナの到着が遅いことに心配していた祖母に女性ライダーが事情を説明すると、無事に送り届けてくれたことにとても感謝していた。
お昼ごはんをご馳走するので是非食べて行って欲しいと祖母は言ったが、女性ライダーはこれから行く所があるらしいのでお気持ちだけ頂くことにした。
リナは早く祖父母達にここまでのバイク旅について話したくて仕方ない様子。
「それでは私はこれで失礼します。リナちゃん?大きくなってバイクに乗る時はくれぐれも安全運転で頼むよ。それじゃ!」
女性ライダーはそう言うと、カタナに跨るとエンジンを始動した。
リナは「お姉さん、ありがとー!」と笑顔で両手を振ると女性ライダーは左手を上げてリナと祖母に挨拶し、ギアをローに入れて颯爽と走り去っていった。
「リナちゃん、カッコ良いお姉さんのバイクに乗れてよかったねぇ」
祖母がしゃがみ込みリナと同じ目線でそう言うと、リナは笑顔で祖母に抱きつき「うん!お姉さんカッコ良かった!」と嬉しそうだった。
そういえば名前を聞くことをすっかり忘れてしまったが…
もう行ってしまったし、仕方ない(笑)
この出来事以来、リナはバイクが好きになり小学生になると車種や種類をいろいろ調べるようになっていく。
そして女性ライダーと出会ってから10年の月日が流れた………
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