第88話 メンタルつよつよ

合唱に衝突はつきものだ。

『ちょっと男子〜』

はもはやネタになりつつある。

しかし三年生にとなった現在、起こりやすいのは全員の熱が上がっていくからこそのものだ。

みんな上手くやりたい。一所懸命やりたい。最優秀賞を取りたい。


ソプラノ、アルト、テナーそれぞれに2名づつパートリーダーがおり、それをまとめるパートリーダー長を小麦が務めている。

私は役職のないアルトだ。


パートリーダーは各パートをまとめ、練習内容も考える。部長みたいなものだ。


当然、仕切り方にガイドブックはない。


「どうしよっか…うん、もっと声を出したいからぁ…」


練習時間の中で何もしない時間が長い。パートリーダー2人がずっと不安そうに会議をしているのだ。

私含め役職なしの人間にもその不安は伝染する、士気は低下する。


「どんなことでもいいんだよ。早く判断したらこっちも納得しちゃうから。堂々と!!」


そう言った日の帰り学活、パートリーダーの1人が泣いてた。


私は全然予測出来なかった。

たぶんクラス全員が私だったらあのアドバイスは正しかったんだろう。


歯車を回そうと、自分が入ったら、隣の歯車をへし折っていた。思い返せば私はよくこれをやっている。メンタルが強いってのは全く長所じゃないな。


「笑えばいいと思うよ」


「雪、表情硬いもん。雪だけに冷たい、なんちゃって」


「…笑ってよ」


「いや面白くなかったから」


「そゆとこだよ。笑えなくても笑うんだよ」


「え?」


「雰囲気をよくするためなら笑う。雪は周りの人が笑ってなくてもスムーズにことが運んでいれば落ち着けるのかもだけど、笑ってないと不安になる人もいるんだよ」


「そんなの楽しくなくない?」


「笑ったら、雰囲気がよくなったら、楽しくなるよ」


「雪は強いから笑えるでしょ」


ふにゃふにゃして、頭はいいけどコミュニケーションが下手、友だちが少ない。


いつからかそんな印象を抱くようになったのは、私の劣等感の産物だろうか。


奈恵は強かな、うちの学校の生徒会長だ。



『今日かいと(奈恵のクラスメイト)に駅であったんだけど改めてイケメンすぎて感動したからLINEした』

『挨拶した?』

『してない』

『学校では話してるの?』

『眺めてる』


今日かいとと帰り道一緒になったから話しといたぜ会長。

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