第83話 今日のヒロイン やまね

思えば不思議な点はいくつもあったのだ。


9月6日の夜、メダル作ってとLINEした時、今塾だから帰ったらやると返信が来た。私は帯(紐?)との組み合わせも見たかったから作り終わったら写真送れと返した。青からその後連絡は来なかった。まあいいかと帯(紐?)を上手く作れた満足感に包まれて眠った。


9月7日の朝、アラームよりも先に目覚め、意気揚々と門が開く5分前に学校についた。青はいなかった。まあ時間は指定していなかったし、私が早く来すぎただけだと階段を一段一段踏み鳴らした。


10分休憩、私は教室で待っていた。青は来なかった。バカなのかなと、あんたは奈恵と同じクラスでしょうと、私からは行けないでしょうと、相手の方から来てくれることに慣れすぎではありませんかね?とムカついた。と同時に私にも非があるのではないかとモヤモヤした気持ちがあった。そしてそれにムカついた。なんだよこれ、恋する乙女のホワイトデーかよ。


2日目のテストが終わり、ついに放課後になった、計画だとここで渡すはずである。そうだ。青の性格的にない気がするが、テスト前は集中したかったのかもしれない。精神統一でもしていたのかもしれない。大丈夫だ。速攻でくっつければ渡せる。私はアラビックヤマトを信じてる。


来ない。


…仕方があるまい、出向いてやろうではないか。


「青ー?早くちょうだいよ」


瞬きを2回した後、大きく開いた目で私は悟った。いや、信じたくない!!


「えっ?あーそっか、今日か」

「うわー、やっべ。すまん!!」


両手を合わせて頭を下げられた時の感情は失望約1%、怒り約21%、困惑78%と言ったところだろうか。


「は?」


あんな空気を吸い込んだ人間の第一声はこれ一択だろう。


「ほらぁ?昨日忘れろって言ったじゃーん?」


「それ設定な『忘れてる風でいこうか』とは言ったけどな、うん。ガチで記憶消すやついねぇんだよ」


私だって人の誕生日忘れるよ。

だけどね、数時間前の会話、計画、お願いは忘れないよ。ていうかなんでそこだけ覚えてるんだよ。


こうして、忘れているというのためちゃんと祝うこともできず、奈恵の誕生日はすぎていった。


9月8日の朝、スムーズの音で目覚め、5分前に開かれた門をくぐり、焦り気味に階段を駆け上がる。教室の前をうろうろしている不審者を発見。


「すまん!!私が早く起きれるのは月一の奇跡なんじゃ!!」


「これでチャラ?」


「は?チャラなわけないだろ。余裕でギリシャ流にピースサイン石投げしたるわ」


「やめろ『第二次世界大戦に参加した国は…ギリシャ!!』って答えちゃうだろ!!」


雑学を放り込まずともお前の脳のキャパはギリギリシャだろ。


3日目のテストが終わり、ついに放課後になった、計画から丸1日がすぎ、ようやくこのメダルは奈恵にかけられるのである。達成感を胸に私はリュックに荷物を詰めて、待っていた。


来ない。


えっ2人で渡すよな?だって2人で作ったもんな。えっなんで来ないん?


1組はもぬけのからだった。


「先生!!青知りませんか!?」


ここだけ切り取れば日曜サスペンス。


「えー?たぶん帰ったんじゃない?」


もう窒素しかねぇよ!!意味分からん。え?これ私の感覚がおかしい?


「奈恵…これ」


「えっ!?ありがとう!!忘れてるかと思った、青もなんも言ってくれないし…『今日ヒロイン』?」


「奈恵はいつでも私たちのヒロインだよって意味でお願いします…」


テストと、それ以上に青のせいで私は疲れきっていた。ちゃんと祝えず奈恵には申し訳ない限りだ。


律儀に首からメダルをぶら下げて帰路に着く奈恵の背中を見ながら、私は私の物語において、中2の終わりのあの日からにおいてのヒロインは奈恵だと改めて思った。


ヒーローにはなれそうにないけれど。

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