第4話 依頼《クエスト》

「……え?」


 僕は驚いて間の抜けた声を出す。


「今、依頼クエストって言いましたか?」

「はい、そうです」


 さも当然とばかりにカレンさんは返事をする。

 依頼クエストというのは冒険者の人がギルドで受ける依頼のことだ。希少な素材の採取から獰猛なモンスターの討伐まで種類は多岐に渡るけど、どれも危険なはずだ。


 しかもカレンさんと一緒だということは、その依頼クエスト白金級プラチナ冒険者が受けるもの……必然的に難易度も危険度も高いはずだ。

 確かにかなり稼げるとは思うけど、僕にそんなものが出来るとは思えない。


「せっかくの申し出ですが、僕にそんなものが務まるとは思えませんよ」

「ご謙遜を、ウィル殿の実力であれば問題ありません。それに依頼はほとんど私がこなします、ウィル殿は最低限のサポートをしてくだされば大丈夫です!」


 確かにサポートだけなら確かに僕でも出来るかもしれない。

 体力の回復や強化バフ弱体化デバフ。これくらいなら僕でもこなせそうだ。


「でもそれならカレンさん一人でも出来るんじゃないですか? 僕が行く意味がないような……」

「とんでもない、支援をしてくれる魔法使いは常に不足しています。来てくれればこれ以上頼もしい存在はいません! それにウィル殿には以前助けていただいた恩があります。ぜひそれをここで返させて下さい!」


 そう言ってカレンさんは思いきり頭を下げる。

 勢い良すぎてテーブルに頭をゴチン! とぶつけているけど、彼女は気にしない。周りの人は不思議そうに彼女を見ている。


 ここまで言ってもらっているのに断るのは、流石に悪いね。

 僕はありがたくその話を受けることにする。


「分かりました。そういうことならお受けします」

「ほ、本当ですか!」

「はい。よろしくお願いしますね」


 そう言うとなぜかカレンさんは「やった!」と大喜びする。

 そんなに恩を返したかったのかな?


「ウィル殿と二人きり……頑張っていい所を見せないと……もしかしたら仲が良くなって間違いが起きるかも……いや、そんな不純なこと考えちゃだめだ……」

「カレンさんどうかしましたか?」

「い、いえ! なんでもありません!」


 ビクッと体を震わせるカレンさん。不思議な人だ。


「それでは早速行きましょう! 善は急げだ!」

「わわ! ちょっと待って下さい!」


 急いで珈琲を飲み干した僕は、カレンさんに連れられ移動を再開する。

 冒険者の仕事は怖いけど、少し楽しみでもある。いったいどんなことが待っているんだろう。


◇ ◇ ◇


 商業ギルド地区の一角に、その建物はあった。

 冒険者ギルド帝都支部……そう書かれた看板が立っているその建物は、他の建物よりも明らかに大きかった。


 それもそのはず、冒険者ギルドは大陸全土に根を張る一大組織だ。その資金力は他のギルドとは格が違う。

 魔術師ギルドも大きな組織だけど、冒険者ギルドと比べると、資金力は大きく劣ると思う。魔法の研究はお金がかかるわりに儲からないからね。

 みんな儲かるためというよりも、知識欲を満たすためにやってるから、お金は中々たまらないんだ。だから研究をしながら冒険者として活躍する魔法使いもそこそこいるらしい。依頼クエストで溜めたお金で研究して、お金がなくなったらまた依頼クエストをこなす。

 僕がやろうとしていることも同じ様なことだね。


「うう、緊張する……」

「安心して下さい。そんな怖いところじゃありませんよ」


 カレンさんは堂々と中に入って行く。

 よくよく考えたらこんな大きな建物の中で何かされたりはしないか。僕は呼吸を整えて中に入る。


 するとそこには……昼から飲んだくれて大きな声で騒ぐ強面の冒険者たちがいた。


「ひいっ」


 みんな大きくて体格もいい。

 そんな人たちが入ってきた僕たちを一斉に見る。


「んあ? カレンに……なんだその坊主は」

「ひっ」


 スキンヘッドの冒険者さんが僕に近づいてくる。

 するとその行く手をカレンさんが塞ぐ。い、いったいどうなるんだろう……。


「彼は凄腕の魔法使いでね。私の仕事に同行してもらうことになったんだ。ちょっかい出すのはやめてもうおうか」

「くく、なるほどねえ。つまり新入りってわけだ。ならたっぷりかわいがって・・・・・・やらねえとな……」


 その人はニィ、と笑みを浮かべる。

 か、かわいがるって何をされるんんだろう……?


「お前ら! 新人歓迎会だ! この坊主にうまいもんを出してやるぞ!」

「……へ?」


 その人の号令に「おーっ!」と返事をした冒険者たちはテキパキと動いて歓迎会の準備を始める。突然の出来事に戸惑っていると、カレンさんが耳打ちしてくる。


「あいつら、何かにつけて宴会をしたがるんだ。面倒かもしれないけど少しつきあってくれると嬉しい」

「そ、そうだったんですね……」


 こうして僕はなぜか思い切り歓迎されるのだった。

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