第22話【ゴブリンスタンピート】
「キョォェエエエエ!!」
「おらっ、おらー!!」
大剣を振り回すセンシローが数匹のゴブリンを相手に戦っていた。
だが、その戦況は押され気味。
一匹二匹のゴブリンならばC級冒険者であるセンシローにとっては容易い的なのだが、いま相手にしている数は大群のゴブリンたち。
センシローの回りには十匹を越えるゴブリンたちが取り囲んでいた。
その後方にはまだまだ複数のゴブリンたちが控えている。
「おらっ!」
大剣でゴブリンを頭から真っ二つに両断して見せるセンシロー。
センシローがゴブリンを切り捨てても次のゴブリンが交代するようにセンシローの前に迫る。
それが何度も続く。まるで無限のような数であった。
しかもゴブリンたちは粗末とは言え武器を武装していた。石斧や石槍、弓矢まで持っている。
幸いにも防具らしい防具は身に付けていないのが救いだった。
それでもゴブリンの数は多い。おそらく100匹は越えているだろう。
一番厄介なのはゴブリンたちの中にホブゴブリンが混ざっていることだった。
ホブゴブリン。
身長150センチ程度で矮躯のゴブリンから突然変異で産まれてくるホブゴブリンの身長は180センチ程度と人間並みに巨漢を有している。
更にパワーは剛力。
時にして人間の戦士と同じかそれ以上のパワーを有している。
そんなホブゴブリンを交えたゴブリン大軍団。
それが何故か魔の森から雪崩出てきてソドム村を襲ってきているのだ。
これは有り得ないことである。
そもそもが魔の森にはゴブリンの数が少ない平和な森だ。
魔の森と呼ばれているが、それは村の子供たちが森に入らないようにと脅しの意味で大人たちが勝手に名付けた名前である。
実際はそれほど危険な森でもない。
その森から大量のゴブリンたちが雪崩出てきているのだ。
そもそも周囲の森からゴブリンたちをすべて集めてきても、これだけの数は揃わないだろう。
とにかく異常事態なのだ。
「どうなってやがる!?」
「キョエ!!」
センシローが一匹のゴブリンが振るった石斧を大剣で受け止めた刹那だった。
眼前のゴブリンたちを次々となぎ払うように肉の塊が過ぎていく。
それはまるでブルドーザー。
両腕を広げた愛美が数匹のゴブリンを巻き込みながら押しきるように走っているのだ。
そして、大量のゴブリンを捕獲するように押しきった愛美がパワーだけでゴブリンたちを同時に複数投げ飛ばす。
それは相撲の掬い投げであった。
しかも容易く5メートルは投げていた。高さもある。
一斉に宙を舞うゴブリンたちがバラバラと地面に落ちてきた。
それらは地面に激突すると半数が動かなくなり、半数は立ち上がってこれない。
ほとんどが押し潰されて圧死しているのだ。
その立ち上がれなかったゴブリンたちに愛美がストンピングを蹴り込んでとどめを刺していく。
「すげー、パワーだわ……」
味方であるセンシローですら愛美のパワーには戦慄していた。
しかも容赦がない。
動けなくなっても生きているゴブリンたちにはキッチリとストンピングでとどめを刺していってるのだ。
頭や背中を踏みつけて骨を砕いている。
「えい、えい、えい!」
愛美には、何故か殺生への躊躇いがなかった。敵への容赦が感じられない。
前世では小さな虫すら殺すのに躊躇いを抱いていたのに、この世界ではゴブリンを踏み潰して殺してもなんの感情も沸いてこないのである。
せいぜいキモいぐらいにしか思えない。
おそらくこれも転生時の影響だと思う。
だから今は深く考えなかった。
今は生きるか死ぬかの戦いの場だ。そもそも難しいことを考えている余裕は無い。
それに、センシローから聞けばゴブリンとは残忍なモンスターだと言う。
人を殺すことすら躊躇わず、場合によっては人の肉すら食らう下道らしい。
そんな化け物が大量に村へと雪崩れ込めば殺戮の元に村人が皆殺しに逢うだろうと言っていた。
だが、それは避けたい悲劇。
まだ知り合って数日とは言え知った顔の人々が殺される光景なんて見たくもない。
人々が無惨にも殺される風景を見せられるぐらいなら、魔物のほうを皆殺しにする手段を選択肢するのは必然だった。
だから躊躇いも無しにゴブリンたちを殺せるのである。
殺らねば殺られる。
それが道理だと弁える。
「ホブゴブ!!」
ホブゴブリンの一匹が太い棍棒で愛美に殴りかかった。
しかし愛美は棍棒を片手で軽々と受け止めると反対の手でホブゴブリンの首筋を鷲掴みに捕らえる。
そして首を絞めながら引き寄せると、今度は真上に首を持ち上げた。
「ぐぇぇえ、え、え!!」
プロレス技の喉輪落としだ。
首を捕まれ持ち上げられたホブゴブリンは、釣り上げられた瞬間に身体を丸めてしまう。
腕を引っ込め、足を縮めて、背を丸めたのだ。
ゴブリンとて身体の作りは人間とほとんど変わらない構造をしている。
反射も同じである。
そして、人間の反射とは不思議だった。
首を捕まれ吊るすように上に持ち上げられると身体を丸めるように縮めてしまうのだ。全身を力ませてしまう。
しかも喉を握力で絞められているせいで、そこを機転にホブゴブリンの体が斜めになってしまう。
背を丸め、手足を縮める反射的動作の勢いで喉輪を軸に身体を丸めて、しかも勢いが付きすぎて足が自分の頭より高い位置まで上がってしまったのだ。
それはまるで鉄棒で差が上がりに失敗した子供のような体勢だった。
これが喉輪落としと言う技を掛けられた相手の興す反射である。
そこから今度は愛美がホブゴブリンを地面に叩きつけようと力を振るう。
真下の地面に向かっての投擲。
「えぃ!!」
ホブゴブリンは後頭部から地面に叩きつけられた。
その一撃でホブゴブリンの頭蓋骨が砕けて天国に召される。
「よし、次ッ!」
気合いを口走る愛美。
だが、ゴブリンたちの並みは愛美やセンシローを避けるように過ぎると村の中に進んでいく。
「避けてる。なんで!?」
「この野郎、俺たちとは戦わない気か!?」
それでもセンシローは大剣で近くを過ぎるゴブリンを切り捨てた。
愛美もゴブリンを捕まえてヘッドロックで締め殺す。
そこでセンシローが気が付いた。
「あねさん、こいつら何かを狙っているぞ!」
「何かって何よ!?」
「見ろよ、こいつらの流れを!」
「んん?」
センシローに言われて走り狂うゴブリンたちの流れを凝視する愛美もやっと気付く。
「なに、このゴブリンたち。民家を避けて行っている?」
そうである。
草原から走り込んできたゴブリンたちは村に攻め入るが、近くの民家を避けて進んでいくのだ。
普通村を襲撃するならば、目についた民家から襲うのが常識だと思える。
だが、どのゴブリンたちも民家を襲わず村の奥を目指して走っていくのだ。
センシローが怒鳴りながら言う。
「こいつら、村を襲うよりも何か別の狙いがあるんスよ!」
「別の狙いですって!?」
愛美は考えるよりも先に走り出していた。
それは考えても分からないのならば見たほうが早いと考えたからだ。
愛美も走るゴブリンたちの波に乗って走って行った。
その間も近くに居るゴブリンたちを殴り飛ばして打ち倒す。
少しでも数を減らそうと努力する。
そして、大量のゴブリンたちが取り囲む家が見えてきた。
ここがどうやらゴブリンたちの目的地だったようだ。
その家の前には短剣を必死に振り回すモブギャラコフ男爵の姿があった。
「ジャンピングニーパット!」
ゴブリンたちの背後から膝を突き立て突っ込んで行く愛美。
その膝蹴りに数匹のゴブリンが吹っ飛ばされて道を開ける。
その割れた道を駆けて愛美とセンシローが村長のところまで到着した。
「村長さん、大丈夫ですか!?」
「ダメだ。囲まれた。殺される!!」
「落ち着いてください。奥さんと息子さんは!?」
「家の地下室に隠れているぞ!」
「じゃあ無事なんですね!」
「ああ、だが、これでは時間の問題だ。なんだ、このゴブリンたちは!?」
愛美はセンシローの肩を掴むと指示を飛ばす。
「センシローさんは村長さんを守っていてください!」
「ああ、分かったっス。あねさんは!?」
「撃って出ます!」
言うなり愛美は肩を突き出しゴブリンの群れの中に突っ込んで行った。
そのタックルの一打でゴブリンたちをボーリングのビンのように吹き飛ばした。
そして、倒れているホブゴブリンの両足を抱え込むとジャイアントスイングで振り回す。
「そりゃあ!!!」
振り回されるホブゴブリンの巨漢にぶつかってゴブリンたちが次々と打ち飛ばされて行く。連続大ホームランだ。
鼻水を垂らしながら見守るセンシローとモブギャラコフ。二人は完全に愛美のパワーに呆れていた。
そんなこともあってかゴブリンたちの数がみるみると減っていく。
「空手チョップ!空手チョップ!空手チョップ!よし、だいぶ減ったわね!」
愛美が攻撃の手を休めていると、ゴブリンたちの背後から太ったゴブリンが一匹姿を表す。
そのゴブリンはブリキで出来た粗末な王冠を被って手には真っ赤に輝く水晶体を持っていた。
王冠からして高貴を気取っている様子だったがゾンビのような深い隈に汚い歯並びから王の偉大さは微塵も感じられない。
だが、王冠ゴブリンが持っている深紅の水晶体からは禍々しいまでの邪悪な魔力が大量に感じ取れた。
大剣を構えるセンシローが呟く。
「ありゃあ、ゴブリンキングっス……」
すると続いて珍しいモンスターに仰天するモブギャラコフが叫んだ。
「なんでこんなところにゴブリンキングが現れるんだ!?」
アイアンクローでゴブリンを握り殺す愛美が二人に問うた。
「なに、あれは強いのですか?」
「おそらくゴブリン族の中で一番強いっスね……」
その時モブギャラコフ男爵が何かに気付く。
「ちょ、ちょっと待ってくれ……」
「どうしました、村長さん?」
「あのゴブリンキング……、隣村のゴクアクスキー男爵じゃあないか……?」
愛美とセンシローもゴブリンキングの顔を確認してみた。
だが、そもそも二人はゴクアクスキー男爵の顔を知らない。
故になんとも言えなかった。
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