第12話【ゴリラの私服】
愛美は昼食を頂きながらモーブ夫人に問い掛けた。
「先程の青年は、何者だったのですか?」
モーブ夫人も愛美と同じテーブルでスープを啜りながら答える。
「彼はボッケーシャさんちの長男だったと思いますわ。確か数年前に冒険者に成るんだって家を飛び出したとか」
「冒険者?」
「冒険者と言っても、飲んだくれの穀潰しのことですよ。まあ、何でも屋と言えば聞こえが良いでしょうかね」
流石はファンタジーの世界観である。
本当に冒険者たる職業が存在しているとは驚きだった。
だが、モーブ夫人の口調から察するに、あまり評判の良い職業でもないようだ。
まあ、ロマンとバイオレンスで飯を食おうとしているのだ、仕方あるまい。
それにしても先程の一戦は驚きであった。
予想通りの攻撃力に愛美は歓喜している。
シンプルな逆水平チョップの一撃で鎧を身に付けた若者をノックダウンしたのだ。
これは面白いと感じる。
自分の前世では、ここまでの攻撃力を愛美は持っていなかった。
いくら愛美がプロレスラーだと言え、普通の人を相手にしても逆水平チョップの一撃で勝利を勝ち取るのは難しいだろう。
そこまで腕力には自信がなかった。
それが、あれである。
「ウホホのホ~」
愛美がルンルン気分で鳥の手羽先を齧った刹那だった。再び村長邸に来客が訪れる。
それは隣の家のおばさんであった。
おばさんは手に持った大きな洋服を開きながら嬉しそうに言う。
「転生者さま、新しい服が縫い上がりましたよ」
おばさんが広げた服のサイズはとても大きかった。
おばさんが二人分スッポリと中に入るサイズの上着である。
「ありがとうございます、おばさん」
愛美は笑顔でおばさんに駆け寄ると縫い上がったばかりの洋服を受け取る。
そして、両手で洋服を広げてデザインをチェックした。
しかし、貰ったばかりの服はシンプルな物だった。
灰色の分厚い生地を太い糸で縫い合わせただけの地味な服。
デザインよりも機能性と上部さを重視した作りに窺えた。
洒落っけの一つもない。
それを見て愛美はガッカリする。
本当ならば、もっと可愛らしい洋服が欲しかったのだが仕方ない。
まあ、今着ている破けた臭い服よりはましである。
すると洋服を眺める愛美を見てモーブ夫人が提案した。
「どうです、愛美さん。今のうちに着替えてみれば?」
「そうですね」
いま、リビングには女性たちの三人しか居ない。
旦那さんと息子さんは外出中だ。
今なら男たちの目を気にしないで済む。
「じゃあ、今のうちに──」
そう愛美が言うと、隣の家の奥さんが更に衣類を取り出して言う。
「じゃあ、新しい下着も持ってきましたから、こちらを身に付けてはどうでしょうか」
愛美が手渡されたのはビキニのようなブラとパンティーだった。
しかも、それは紐ブラと紐パンである。
「ひ、紐パン……」
「サイズが分からなかったからフリーサイズで身に付けられるものを選んだんですよ」
「あ、ありがとうございます。いまノーパンだったので大変たすかりますよ。それじゃあ失礼して──」
愛美は夫人たちの前でデブナンデスから貰った男物の服を脱ぎ捨てる。
そして全裸になった。
しかし、その全裸は女性のスタイルとは大きく異なる。
胸は女性らしい膨らみは無く、代わりに大胸筋で分厚いのだ。
そして、腰は括れているが、それも筋肉で異常なまでに括れているだけでセクシーな安産型の腰付きとは若干異なっていた。
それでも今居る三人の女性の中で一番腰がスリムなのは愛美かも知れない。
だが、総合するに愛美は女性には見えないのだ。
しかし、彼女が女性だと証明しているところが一ヵ所だけあった。
それは胯間部分。
胯間に一物が無い。
ツルンツルンのぺったんこさんである。
モッコリの山も無いのだ。
それを見て夫人たちは安堵していた。
愛美が本当に女性だったのだと安心する。
「私、紐ビキニって初めてなので、これで良いでしょうか?」
背中で結ぶ紐の下着を纏った愛美が体を捩りながら夫人たちに問う。
その逞しい筋肉を見て夫人たちは思った。
この娘、下着なんて不要じゃあないのかしら、と……。
それでもお世辞に顔を微笑まして答える。
「良く似合っていますよ、愛美様。では、男たちが帰ってくる前に服を着てくださいな」
「はい、分かりました」
愛美は上着を着こんでズボンも履いた。
それから寂しそうに言う。
「私、私服はスカートなんだけどな~」
「ス、スカート……」
夫人たちは愛美がスカートを履くタイプの人間だとは想像もしていなかった。
故にズボンを作って持ってきたのだ。
そして、二人の夫人は想像する。
愛美のスカート姿を……。
「ぅぅぅう……」
寒気。
二人の背中に悪寒が走る。
二人が想像したのはゴリラ乙女のスカート姿だった。
しかもモーブ夫人が想像したのはミニスカートである。
スカートを履くゴリラ娘をイメージした二人は絶望にも近い窮地を感じるのであった。
もしも自分の実の娘が愛美だったら恐れをなす。
スカートを履いただけで男たちが絶叫して倒れる姿が想像できた。
本当に彼女が自分の娘でないことに安堵する。
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