フローズン・プリンセス

陽菜花

プロローグ

「はぁ……はぁ……」



荒く、苦しそうな少女の声。

額には汗が流れている。



長い黒髪に真っ白な肌。

まだ6歳か7歳ほどで、綺麗な顔立ちをしていてもまだまだ幼さがある。

そんな少女はベッド洗い呼吸をしている。

彼女の両親であろう、男女2人が少女を心配そうに見ている。



「リリィ……」



女性が少女の名前を呼ぶ。

少女、リリィは荒い呼吸をするばかりで、両親の方を見ようともしない。

……見ることができない。



リリィは重い病気にかかってしまったのだ。

冬になると、大流行する病気。

ひどくなれば死ぬこともある。

彼女は元々体が弱く、熱を出すことはしょっちゅうだったが今回は違う。

どんどん悪化しているのだ。

……彼女の両親は知っている。



この子にはもう、寿命がない、と。



実は、この家族は王家である。

両親は小さな国を治めており、男性は国王、女性は女王、リリィは王女。

将来的にリリィは隣の国の王子と結婚する、という予定なのだが……



「……お、父さん……お母、さん……」



リリィが絞り出すように声を出す。

その声は聞こえるか聞こえないかもわからない、弱々しい声だった。

両親が驚いたように目を見開く。



「「……リリィ……」」



女王の目に涙が浮かぶ。

リリィはうっすら目を開ける。



「……わ、たしって……しん、じゃう、の……?」



今度は国王にも涙が浮かぶ。

女王の目から涙が零れた。

この状況を見て察したのか、リリィは目を閉じる。



「……や、だ……しに、たくない、よっ……!」



リリィの目からも涙が溢れ、ポロポロ零れ落ちる。

その瞬間、リリィがつけていたペンダントが光り出した。



「な、何だ!?」

「な、何!?」



光はなかなかおさまらない。

リリィはというと、気を失ったのか眠っていた。



彼女がつけているペンダントは王家代々大切にされているペンダント。

記録には急に光ったという話はない。

しかし、何か声が聞こえる。



『この子の病気を治す方法はただ1つ。彼女に、永遠の冬の呪いをかけること』



リリィの両親はさぁっと顔を青ざめた。

リリィの病気は治る。

しかし、永遠の冬という呪いがかかる。



「永遠の冬の呪いって何だ!?」



王様は声を荒げる。



『お前たちは、王女を助けたいのか?助けたくないのか?』



不思議な声は両親に問う。

両親は顔を見合わせる。

どうやら呪いについては何も教えてくれないようだ。

けど、今は……

王様は決心したのか、真剣な表情になる。



「……わかった。リリィを、助けてくれ」



不思議な声は王様の願いを聞いてくれたのか、光はおさまった。



それから、リリィはすぐに元気になった。

まだ呪いはかかってないと安心した両親だったが……

誰が予想しただろう。



10年後、永遠の冬の呪いは国を巻き込むことを。

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