第17話 作戦
盗賊たちの人数と狙い、子供の状態、洞窟の地形。
あの小さな虫のような道具で、これだけの情報を手に入れた事に、本来であれば舞以外、全員驚嘆するところであっただろうが、そういう状況ではなかった。
「これって……私たちの手に負えるものじゃないと思います……盗賊の方が人数も多いし、子供も人質にされているし……」
桃が不安げにそう口にした。
「……舞、お前なら『時空の腕輪』を使って、お前の親父さんに加勢してもらえるんじゃないか?」
ハヤトが期待を込めて問う。
「……ううん、そう都合良くいくとは思えない……仙界……つまり三百年後の世界に戻ったとして、父もたまたまその時代に居れば確かに連絡は取れます。でも、父がこの島をに来たことがあって、『時空の腕輪』に登録していなければすぐに駆けつけることはできない……あ、式部、私の父様がこの島を登録しているか知っている?」
「いいえ、タクヤ様の地点登録に、この島は含まれていません」
AIの式部は、淡々と事実を伝えた。
「……ということは、また船を使ってこの島にやってこなければならない……時間もかかるし、また盗賊の誰かに見つかってしまうかも知れない。どちらにしても、あの子供の体力が持つか心配……」
舞の表情が曇る。
「猿ぐつわをされていたのは、たぶん盗賊内で泣き叫んでいたために口を塞がれたということだろう。それで苦しくて、あんなに辛そうにしているんだ。ひでえことしやがる……すぐに乗り込んで成敗してやりたいところだが……無策じゃ分が悪いな」
虎次郎が意外にも冷静に分析する。
盗賊は、見張りを入れて六人。全員男で、超小型ドローンのレンズ越しにも屈強そうに見えた。
それに対して竜之進たちは五人、しかもそのうち、女性が二人だ。
それだけでも不利なのに、向こうには人質として子供が捕えられている。正面から乗り込んだら子供も含めて、全滅もあり得る。
「竜、ここはおまえが仕切る場面だ。今の状況から、最も良いと思われる策と、それに次ぐ策、そして失敗したときの策も考えろ。すぐに、だ」
本来であれば家来であるはずの虎次郎が、竜之進にそう指図する。
次期藩主候補筆頭の竜之進に、この修羅場を潜り抜けさせようとしているのだ。
もちろん、竜之進もそのことは承知している。
まず、現状で最も頼りになるのは舞の仙術だと判断し、他にどんな道具を持っているのか尋ねる。
舞も、素直に自分が持っているライトや大音響で響くベル、指向性マイク、暗視スコープ、武器として折りたたみ式のスタンガン、催涙スプレーの類いを、その効力も交えて説明する。
だが、ライトやベルは無策で使えば目立ってしまうし、マイクはあまり意味をなさない。
暗視スコープは役に立つが、それを使ったとしても、彼女が前面に出るべきではない。
スタンガン、催涙スプレーは敵への接近が前提の武器なので不向きだ。
なお、超小型ドローンに攻撃能力はないという話だった。
つまるところ、ここで最も役に立ちそうなのは両腕にはめた『時空の腕輪』だけで、他は陽動に使えるぐらい、ということだ。
この時空の腕輪には、瞬間移動以外にも、秘密にしていたいくつかの便利な機能が存在したのだ。
さらにハヤトの忍術道具についても問いただす。
手裏剣やクナイ、投げ縄の他、舞の父親から譲り受けたという便利そうな道具も持っていたが、現状の不利を覆すほどではない。
最も期待されたのは先ほども使用した刺激性の煙玉だったが、洞窟内では拡散しない分強力すぎて、自分たちも影響を強く受け、何より子供にとっては致命傷になりかねないとのことで、それを使うのは最終手段になるだろうと判断した。
それらを聞いて、総合的に竜之進が判断した最良と思われる案は、まず見張りを内部のものに気づかれぬよう倒して密かに潜入し、ある程度進んだところで舞が仙界の道具を用いて盗賊たちを攪乱、ハヤトと虎次郎が敵を手裏剣などの間接攻撃しながら徐々に間合いを詰め、隙ができれば桃が子供を救出する、と言うものだった。
舞は洞窟入り口近くの、比較的山賊たちから遠い位置から音で攪乱するため、安全ではあるが、念のため護衛として竜之進が側に着く。
竜之進もまた、傷つくわけにはいかない地位の人物なのだ。
それが不本意であることは本人が一番承知しているが、そうせざるを得ない自分の立場もよく理解していた。
そして今回の作戦で最重要なのは子供の救出であり、ハヤトと虎次郎の攻撃もまた第二弾の陽動だった。
さらに、それが上手くいかなかったときの第二案も示された。
それは舞が言い出したものであり、彼女の危険度は上がるが、盗賊たちの油断は誘えそうな妙案だった。
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