第17話 〜東雲 桜〜

 寮へと帰る帰路の途中で背中からとある人に話しかけられた。


 「あれ?もうしかして雄二君?」

 声の方に顔を向けるとそこには東雲会長が居た。

 「雄二君だね! 今帰り?」

 「ええ……まあはいそうです!」


 「なんか凄い顔してるわね!」

 「ははは。ちょっとチームメイトと寮で喧嘩しちゃって」

 「そうなんだね」


 「ちょっと時間あるかい? 良かったら付き合ってよ」

 「え? まあ特に用はないので構わないですけど……」


 「じゃあちょっと付き合ってもらおう!」

 会長の後に付いていくと,学校の敷地内になんと塔があった。


 「学校の中にこんな所があるんですね」

 「ん? ああ! あんまり人が来ないし,もう使ってないけどな!」

 塔を会長共に登る。塔の最上階に到達し,そこから見た景色は比国海岸を見下ろし,水平線の彼方を見渡せる場所だった。


 「どうだ? なかなかいい景色だと思わないか?」

 「ええ……素晴らしいです!」


 俺はここの街に生まれこの街で育った人間だが,自分の産まれて育った街の景色で心を動かされるとは思わなかった。いつもは嫌だった海からの潮風も磯臭い臭いも今この瞬間は心地よい。

 世界が変わっていても,この風に当たる感覚と匂いは元の世界と何一つ変わらないでいてくれた。


 「私が気分転換をしたい時,一人になりたい時などにここを使うんだ」

 「この塔がなんであるのか分からないが,昔の人に感謝しないとだな」


 「ええ! 俺もそう思います」


 「財前君の死から立ち直れてないみたいだな雄二君」

 「何故分かるんですか?」


 「ん〜まあなんとなくだ! 感ってやつだ!」

 「また感ですか?」


 「私の感はよく当たるからな!!」

 「私の家の事は雄二君知ってるかい?」


 「ええ……それは勿論」

 「私はな,出来れば自分がモノリスを破壊したいと思っているんだ」


 「そしてAntsybalを殲滅したいと思っている」

 「私はその為に努力してきたし,少し無茶な事も無茶な任務も沢山してきた」


 「私のチームでも何人もの同士が今までに死んでいった」

 「自分のせいではないか? もっと実力があれば助ける事が出来たのではないか? とそう悔いた事も悩んだ事も沢山あった」


 そう話す会長の話を俺は聞いている。何でも完璧にこなしそうな会長でも悩んだり悔やんだりする事があるんだなとそう感じた。


 「何度も私自身,自分のしている事が間違っているのではないか? と思ったこともある。だけどその度に死んでいった仲間達の敵を討てるのは私達しかいない! 私のしようとしている事は間違っていないとそう何度もここで心を震わせてきた」


 会長はおもむろに胸のポケットから写真を取り出した。


 「この写真を見てくれ」

 見せられた写真は集合写真だった。

 「私が一年生の時の写真だ。雄二君達も撮っただろう?」


 「ええ写真撮りましたよ!」

 写真に写っていた会長は今の悠々しさはなく,まだ少女の面影を残した姿と笑顔が写っていた。


 「元々はそんな習慣はなかったらしい。冬月大佐が学長に就任してから始めたみたいなんだ。高校になると昨日まで一緒にいた仲間が次の日には居なくなる……」

 「そんな事が普通に起こる」


 「そうなる前に皆で集合写真を撮って仲間を決して忘れないように,またいつまでも思い出せるようにと,冬月大佐が仰っていた」


 「大佐の言っていた事が写真を見ると思い出す。ここに写っているこいつもこいつもまだこの時は笑顔で一緒に居たんだ……」

 「写真を見ると苦しい事もあるが,顔を思い出してやれる。思い出を思い返せる。そして居なくなった仲間の為に頑張らないと! とそう思わせてくれるんだ」


 「会長でも色々と悩んだり考えたりするんですね」

 「雄二君は私の事をどんな人間だと?」


 「完璧なパーフェクト人間??」

 「ははは! むしろ弱い人間だよ私は」


 「私が強い人間だったらもっと助ける事が出来たとそう思うよ」

 「財前君は強い人間だったからな……惜しい人間を亡くした」


 「財前の事詳しいんですか?」

 「詳しいって程ではないけど,彼は鉄騎の乗り方や強くなる方法などを私に個人的に聞きに来ていたよ!」


 「彼の話を聞くと,彼は凄く生意気だったが,誰よりもこの街をAntsybalから守りたいという気持ちが強い人間だったと思う」

 「俺も……そう思います」

 

 「そんな彼の敵を取れるのも雄二君だけなんだぞ! それと共に財前君の最後に一緒にいたチームの皆だけなんだ。くよくよする気持ちも分かるが前へ進め!」

 これは会長なりの励まし方なんだろうか? でもこの景色を見られただけでも会長には感謝しなければいけない。


 「東雲会長,ありがとうございます!」

 「いや! まあいいんだ。ここは好きに使ってもいいぞ」

 「ありがとうございます。ちょくちょく来ようと思います!」


 「そうか。じゃあまた会う事もあるだろう! そろそろ帰るか」

 「東雲会長――今日はありがとうございました」

 「気にするな。特に私は何もしていない」

 

 会長は自分の事を弱い人間だとか言っていたが,人間としても実力も兼ね備えた凄い人間だとそう感じた。


 俺はこんな人になることは出来ない。

 財前の代わりなんて出来るわけでもない。


 それでも身近にいる仲間が死ぬなんて嫌に決まっている。

 モノリスを破壊しAntsybalを殲滅したい。この街を守りたいなどという崇高な覚悟もない。


 だけど,自分の周りの人間の役に立てるならそうしたいと思う。

 俺の適合率の高さで今のメンバーを守れるならその為に頑張ろうと思えた。


 他の皆は最前線で戦いたいんだろう。俺はそうは思わないが,皆がそう願うなら,その為に自分の力を使って手助けするのも悪くない!

 

 俺が頑張る事で周りの人間が仲間が死なずに済むのかもしれないそう思った。


 俺は寮に戻ると今日から夜に自主練することを決めた。

 財前がしていたような量は出来ないが,自分が出来る範囲ですることを決めた。

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