第18話 遊園地デート
当日、朝早くに藤沢さんとアパートを出た。
藤沢さんはとびきりのおしゃれをしてくるのではないかと身構えていたが、意外にも普段と変わらない格好だった。でも、緊張で倒れそうだった僕にとっては、そっちの方が安心できて都合が良い。
目的地への直通バスの中で、僕らは、何のアトラクションに乗ろうかと、事前に取り寄せたパンフレットを見ながら話し合う。
僕はパンフレットに書かれた、「カップルに人気!」という小見出しを見つけて、鼓動を早める。付き合ってもない男女二人で遊園地に行くのは、やはりおかしいことなのではないか。そんな思いが僕の頭の中を取り巻く。
藤沢さんは、今どんな気持ちで僕の隣に座っているのだろう。僕は昨夜、緊張でほとんど眠れなかったが、藤沢さんはいつも通り眠れたのだろうか。
「三浦君、楽しみだね」
僕の口数が少なくなったことに気づいてか、藤沢さんが僕を見て微笑む。その黒い瞳は吸い込まれそうなほどに綺麗でいて、彼女の奥底を隠していた。
しかし、そんな僕も入場ゲートをくぐってからは、陽気な音楽や様々なアトラクション、人々の熱気に煽られ、さっきまでの緊張が吹き飛ぶくらいに胸が弾んでしまっていた。
僕たちは雰囲気に圧倒されて足を止め、語彙力のない子供のように「すごいね」と言い合う。
「よし、じゃあさっそく乗りに行こう!」
そう言って藤沢さんは、パンフレットの地図と実際の景色を重ね合わせながら歩いて行く。
藤沢さんについていきながら、僕は辺りを見回す。絶叫系が売りらしいが、子供が乗れるアトラクションも多く見える。乗り物酔いがひどいと言っていた健二でも楽しめたのではないかと思い、若干の申し訳なさを感じる。
「最初は取り敢えずメリゴーランドとか乗りますか?」
この僕の提案は周囲の音にかき消され、藤沢さんの耳には届かなかったようだ。
「これ乗ろう!」
藤沢さんが指を差した方を見ると、大きく曲がりくねったレールの上を、悲鳴を乗せながら轟音で走り抜ける鉄の塊があった。
「これ、一番の目玉アトラクションじゃないですか。超絶叫系の」
「そうそう、だから混む前に乗っとかないと!」
そう言って藤沢さんは何の躊躇いもなく列に並んだ。
「もしかして三浦君、こういうの苦手だった?」
「いや、全然平気ですよ...?」
虚勢を張っているのがバレたのか、藤沢さんはクスッと笑った。
順番が近づき、出発のブザーが大きくなるに連れ、鼓動が早くなる。
とうとう順番が回って来た僕らは、荷物等を全てロッカーに預け、一番後方の席に座る。係員が安全バーとベルトの確認をして、出発までのアナウンスを待つ。
「一番後ろの席だったね」
「前だと怖いですよ。まだ後ろでよかったです...」
もう僕には虚勢を張る余裕がなくなっていた。
「三浦君、ジェットコースターってね、最後尾が一番怖いんだよ」
「えっ」
『それでは間も無く発車します。空の旅を楽しんで、いってらっしゃーい!』
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