鎮めの乙女~星の命~




「来たか……」

 龍牙は龍のような蛇の様な生き物──「星の命」が人に見せる状態になっているのを見て構える。


「龍牙、やめんか! お前のしていることはこの星の人々を殺すことだぞ‼」

「リフレインの命を無駄にしている愚者共などしったことではない」

 王牙が地面に倒れながら、龍牙の説得をしようとしている。

「龍牙様、こちらの対応は済みました」

「他の者達は?」

「まだ戦闘中です」

「ならば行って──」


「鵤の奴負けたのか?」

「しょうがね、俺等で対応すっか」

「爺、俺が倒す前に何倒されてんだぁ⁈」


「鵤以外の四天王か、蟲番とグリーレーは負けたか」

「ギリギリだったけどね」

「ならば、お前達を殺してアレを殺すまで──」



「ちょっと待ったー‼‼‼」



 制止の声に皆が振り向く。

 白い龍のような生き物に乗っかった美咲が戦場へやって来た。

「龍牙さん、リフレインさんから聞きましたよ! 龍牙さんがやろうとしてるのは星を滅ぼすことだって、それを止めてくれって言われたので来ました!」

「美咲、何故リフレインの名前を……⁈」

 美咲の口から出た内容に龍牙が驚愕する。

「いやですよー! 漸く好きな人と結ばれたのにそれで終わりだなんて、と言う事で行ってきます」

「待て美咲! リフレインはそれをして死んだのだ! お前も死ぬかもしれないのだぞ!」

「⁈ どういう事です龍牙様⁈」

「おい、ドラゴンファング、どういう事だってばよ!」

「爺、起きろ、知ってるんだろう⁈」

 褐色肌の筋肉質な男が王牙を抱き起こして揺する。

「ちょっと、音刃おとは会長は重傷なんだ、もっと優しく」

 色白の黒髪の美丈夫がそれを制する。

「……あそこに見える青い生き物はこの星の命が姿形を取ったものだ……」

「ちょ、ちょっと待って下さい、何故そんな生き物が?」

「その生き物は争いあえば争いあう程短い周期で現れ、なだめられない限り天変地異をこの星単位で起こす……」

「それをなだめられるのは『鎮めの乙女』だ」

 龍牙が口を挟む。

「鎮めの乙女って……リフレインの事ではないですか⁈ しかし、300年以上前ですよ⁈」

「ちょっと待て、なんで爺は爺になってるのに、彼奴はまだ若いままなんだ?」

「落とし子……いや、命食い──植物、動物、人など他者の命を食らう我らの習性、奴は喰いまくったのだ今に至るまで」

「品がねぇ!」

「それより美咲、君は何をしようと……⁈」

毒刃どくばくん、やっほー! 鵤いないけど皆久しぶりだねぇ! 悪いけど私今回だけは龍我様に反抗します、では!」

「待て美咲‼」

 美咲をのせた生き物は青い生き物へと突っ込んでいった。





 青い生き物の手前で、美咲をのせた生き物は止まる。

 生き物は涙を流しているようだった。

 美咲が手を伸ばす。

「坊や、そんなに泣いてどうしたの?」

 美咲はそう言ってその生き物の顔の部分を抱きしめる。

 生き物は体をくねらせ、海の中まで沈んでいく。


 美咲は、実体化したリフレインから貰った「空気飴」を口にし、再び抱きしめ、目を閉じる。





『痛いんだ』

『何が痛いの?』

『体が痛くてたまらないんだ』

『どうして?』

『僕の体の上で皆が傷つけ合うから』

『それは痛いよね』

『僕の体を壊すのが痛いんだ』

『壊されるのは痛いよね』


 星の命と対話をする。

 命は痛がり、苦しいと叫ぶ、悲しいと叫ぶ。


 美咲はそれを受け止めて、心の中での会話を続ける。


 が、空気飴の効果が切れてきたのが分かり、それでもなんとかなだめようとする。


『大丈夫、私がなんとかするわ』

『本当?』

『出来る範囲で、ね。私が出来る事なんて小さい事だもの』

『ううん、君はできるよ。ありがとう』


『それじゃあ』


『『さようなら』』


 美咲は意識が遠の居ていくのを感じた。

 目を開ければ、見慣れた黒炎の顔がぼやけて見えて笑ってしまった──





「ぷはっ!」

 黒炎は美咲を抱きかかえて海から顔を出し、飛び上がって陸地に着地すると、急いで美咲に人工呼吸を行った。

「おま‼ 美咲のなんなんだよ‼」

 長髪の白髪の男がわめき立てると、龍牙が口を開いた。

「美咲の恋人だ」

「んな⁈」

「……今なんと⁈」

「美咲の恋人だ」

 三人の男達が殺気立つ。


 龍牙は、こいつらも美咲狙いだったのかと他人事のように思った。


「げほっ‼」

 美咲が息を吹き返す、そしてげほげほと咳き込んだ。

「美咲……‼」

「黒炎さん……」

「何で無茶をしたんだ‼」

「だって頼まれたんですもん‼ リフレインさんから‼ 証拠に空気飴も貰いました」

 そう言って美咲は空気飴の空袋をみせる。

「確かに、リフレインだったんだな」

「はい、学校の写真で見たリフレインさん本人でした」

 龍牙が確認するように聞いてきたので美咲はしっかりと答える。

 龍牙は額を抑えた。

「リフレイン、何故」



『貴方達に和解してほしかったの』



「「で、出たー!」」


 毒刃と長髪の男が悲鳴を上げる。


「ほら、言ったでしょう?」

 短めの黒髪に青い目の美しい女性──リフレインはそう言って困ったように言う。

『あの日以来、貴方達は世界を守るものと憎むものに別れた、だから和解して欲しかったのよ』


『私はあの日後悔なんてしてない、貴方達に命をつなげれて良かったと思っている』


『我が子のような貴方達に命をつなげられて、良かったと思っているの』


『だから争うのはもう止めてちょうだい』


 そう言ってリフレインの姿は消えた。



「龍牙様」

 美咲が龍牙を呼ぶ。

「仲直り、して下さい」

「できん」

「できん、じゃないんですよ!」

「俺は取り返しのつかないことをしようとしたのだぞ?」

「そんなの誰だってしてますよ!」


「龍牙」


 傷の治療を終えた王牙が、龍牙に近づく。


「もう、やめにせんか。リフレイン様も言っておったろう」

「……」

「龍牙様~~‼‼ 龍牙様のプラン通りなら私せっかく恋人ができたのにそこで人生終了になってたんですが⁈ どうしてくれるんですか⁈」

「いや、それは……」

「龍牙様‼‼」



 美咲の顔が思わずリフレインに怒られた時の顔とダブって龍牙には見えた。





「──分かった」

 長い沈黙の後、龍牙は言葉を絞り出した。

 肯定の言葉だった──






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