第20話 初日 20:00-1
時刻は夜の八時。
外の暗さは分からないがすっかり日が暮れていることだろう。冷暖房のない部屋は確実に温度を下げていた。
それでも凍えるほどの季節では無いことが救いだった。厚着をすれば寒さを感じない程度には建物の中は暖かい。
熱源である人間の数が揃えばなおのこと、最初の拠点では少し息苦しさも感じる中で、七人の男女が円座を組んでいた。
恒例となった進捗報告の後、口火を切ったのは源三郎だった。
「……それでその格好というわけか」
視線は女性、春夏に向けられていた。腰から下がスッパリと切れてしまった白シャツは、多量の水に漬けて洗濯中だった。洗剤はないため水による手洗いの後は絞って干すことしか出来ないため、かえって皺になるだけのようだ。
そんな彼女は下着姿のままでいる訳にも行かず、おおぶりの布を肩から羽織っていた。固く厚手の生地は体に巻き付けるのに難儀するようで少し動くと肌が見えていた。
それではこれからが大変だということで、桜と新しく加入した女性、
一着は春夏用に、もう一着は同じく服が血まみれになった颯斗のためのものだ。
春夏はその四苦八苦している作業を見つつ、
「運が悪かったんだかよかったんだか」
ため息交じりに答える。
「それでも生きていてよかった」
「颯斗のおかげよ、本当にありがとう」
春夏は顔を向けると何度目になるかわからない礼をする。
急に話を振られ、顔をそむけた颯斗は、
「別に。自分のためだ」
頬に薄い紅色を浮かべて頬を緩ませていた。
「素直じゃないわねえ」
揶揄するように、小声でつぶやいた春夏は表情を変える。より真剣に、目に力を入れていた。
「申し訳ないけど悠長なこと言ってられなくなったわ。全員持ってる情報の擦り合わせをしましょう」
彼女の言っている事は理解出来た。
探索中に見つけた二人の男女。彼等を仲間に引き入れるためにはその目処を立てなければならない。それはゲーム終了までではなく明日の正午と、もう殆ど時間が無い。
だから何をしなければいけないのか、何が必要なのかをこの場にいる人間だけでもはっきりさせる必要があった。それがわかっていても源三郎は躊躇いがちに、
「……そう、だな」
「何に引っかかってるかわかんねえけどはっきり言えよ」
一人うつむく源三郎に颯斗が急かす。
……駄目だな。
その思いは自分に向けて。源三郎は自嘲気味に笑う。
中途半端が一番いけない。ゲームを始める前に念頭に置いていたことができていなかった。
ゲームに生き残るため、そして賞金を得るためにすべきことをする。初めは何人殺してでも生き残る、今はそうではないはずなのに、全面的に信じることが出来ず、逃げ道を用意していた。
身体ばかり大きくなっても心は誰よりも小さい。情けなさに涙も枯れていた。
源三郎はそれぞれの顔を見つめてから、
「役職によってタスクが違うのは理解していると思う。例えば現時点で簡単にタスクをクリアできるものがいる一方で、全員生存のためにタスクをクリアしてはいけないものもいるだろう。だとしても見捨てるということはないと約束してくれ」
誰かに言うように、その実、自身に刻み込む。
もう引き返さない。そう強く念じていた。
「それを言ったってことは」
覗き込む春夏と目が合う。
「あぁ、どの道もう全員生存しか方法がないんだ。それだけを考える」
「そうね」
苦笑する春夏をみて、同じくぎこちない笑みを源三郎は浮かべていた。
さて……
そうと決めたなら言わなければいけないことがある。
「俺は前回のゲームでしっかり攻略した訳では無い。ギリギリまでタスクが終わらず誰とも協力しないでいたからそれほど知識がないんだ。むしろ今の方が情報が揃っているくらいにな」
「ルールも変わっているんだろう。変な先入観で行動されるよりそっちの方がいい」
それは慰めかただの事実か。相変わらず興味の薄そうなパッとしない表情を益人は浮かべていた。
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