この戦争、俺が勝たせてやる。我が魔力に慄け異世界。召還された地球最強の魔法使いがチートをもらった結果

おいげん

第一章 この素晴らしきゴミ世界

第1話 異世界召喚だと。面白い、行ってやろう。

 卓越した科学は、魔法と変わらない。


 人は自然のあらゆるものを数式や物理学で解明し、地球という惑星は神の存在をも証明せんとするほどに発達した。

 光あれと神はのたもうた。だが、地球の成り立ちは小惑星の激突によって発生したものであり、原初の炎の中には人類は存在しない。


 観測できない神は、果たして神と呼べるのだろうか。

 人類という観測者がいてこそ、すべては記録され、記憶される。


 しかして、世界には神秘主義の思想も根強い。

 オカルティズムに溢れた儀式も、ゾンビを生むと嘯かれるブードゥー教も、庶民の手慰みとなる血液型占いも然りである。



 俺は歩いている。


 背は高くもなく、低くもない。180cmに届くかどうかだ。

 猫背だと言われるが、それでバランスを失ったことはない。日頃の訓練のたまものだろう。


 目の前に子猫がいる。

 道路の上で無防備に足を舐めている。目が合う。ああ、これは俺がやらないといけないな……。


術理展開メソッド・空間切除:セカンダリフォルダからプライマリフォルダへ――範囲指定完了—―Run】


 空間を切り取り、つなげ、再配置する。

 結果、俺の手の中には子猫がいて、道路には何もない空気だけが存在する。


 数秒後、蛇行運転をしているトラックが通過していく。


「あぶなかったな。もう道路に出るなよ」

「にゃおん」

 ざらりとする舌で俺の指を舐め、子猫は藪の中へと立ち去って行った。

 

 俺はまた、歩き始める。

 ポケットに手を突っ込み、無造作に足を踏み出す。


 俺は四条理御しじょうりおんという。

 

 世界でたった三名しかいない、真なる魔法使い、だそうだ。今まで生きてきてそう呼ばれてきたから、そうなんだろう。


 古の血脈を連綿と受け継ぐ、惑星の最大戦力の一人だとも。

 西洋魔術・東方陰陽・北方印術・南方呪術・教会聖術。


 この大地で認識される、ありとあらゆる魔道理論の結晶であり、科学と融合を果たしたハイブリッドらしい。

 生まれたときから隔離され、様々な訓練・思想・技能・能力・心的負荷……数え上げればキリがないほどの訓練を受けてきた。

 気がつけば、俺は世間知らずのモンスターとも呼ばれるようになった。


 このままでは危険だとの判断で、俺は初めて高校なる場所へと通うことになった。

 人とのコミュニケーションは、俺にとって新鮮で楽しいものだった。


 俺は人間が好きになった。

 嫌なこともあるし、顔をしかめることだってある。

 だが人間はそのすべてを内包し、やがて思い出として抱えて生きる。


 儚い美だと思った。

 

 高校三年生になった。周りは受験というもので忙しいようだ。

 一人になることが多いが、友人が望む進路に進めるのは嬉しい。


 そんな中、俺は調査をしている。

 これも仕事だ。俺だって金銭がないと生活はできない。

 人から奪えばいいという理論は、野蛮で未開だと思う。

 大いなる力を持つ者は、大いなる責任が伴う。俺はその言葉を信じている。


 一応のところ、俺は半分公務員扱いだ。所属は宮内庁になっている。

 解決するべきことは、魔法がらみの事件だ。

 

 昨今、連続で発生している神隠し事件。上司や俺は、背景に魔道が関連していると結論づけた。

 不可解に消える人々の所在を確かめ、残された痕跡を手繰り、犯人を生死問わず止めるために、俺は駆動する。


「ここか……近いな」

 高出力の魔道エネルギーは、眼前にある刑務所から発せられていた。


「相手も馬鹿ではない……か。居なくなってもいい人物を見繕ってるか。それもそうだな」

 各国の王族や、閣僚の子弟が行方不明となっては地球は大混乱に陥る。下手をすれば魔女狩り同様に戦犯を探し、戦争が始まるだろう。誰もそのようなことは望んでいない。


術理展開メソッド・風精透過—―」

 光の屈折率を変化させて身にまとう。透過された姿は、もともとの気配遮断能力と相まって、誰にも知覚させずに侵入を許可させた。


 鍵などはあってないようなものだ。

 格子に描く【エイワズ】のルーン。移動を意味する、古き文字だ。


「これは……」

 囚人が利用するであろう大食堂に、紫色の大きな魔方陣が展開されている。

 茫然自失としたかのように、忘我の境地にある囚人が四名。

 やがて禍々しい光とともに、姿をこの世から消していく。


「召喚魔法……次元の守りを突破してきているのか。致し方ない」

 俺は駆け込みで魔方陣の中央へ移動する。

 船酔いにも似た酩酊感が襲い、思わず中身をぶちまけそうになる。


 地球はこのような召喚に対して、対策をとるようになってきた。

 まだまだ未発達で発展途上だが、一応時空を超える移動に関してはファイアウォールが働く。


 だが今回の相手は、どうも手慣れているらしい。

 地球にセキュリティホールがあると、しっかり見抜いているようだ。


「この俺を召喚か。面白い、行ってやろう。異世界とやらで、どんなツラを拝めるのか楽しみだ」


 力がみなぎる。魔力で身体強化をかけたような、能力の異常な高まりだ。

 一説に異世界転移をすると、特殊な能力が付与される場合があるそうだ。

 

 さて、地球最大戦力と呼ばれるこの俺に、異世界は平等に力を与えてくれるのかな? 実に厄介なことだ、まったく。

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