傀儡奇譚――呪い児は愛をうそぶく
櫻木いづる
序章 呪いの世界
呪い、詛い、咒い――。
俺達が生かされているこの世界のすべては、呪いが構築している。
生きているモノから、死んだモノ、死んだことにすら気づかないモノ。
そんなありとあらゆる魑魅魍魎が跋扈しているこの世界は、腐っている。
貧富の差は日に日にその溝を深め、今やもうこの世で生きていくことすら地獄であると嘆く者すらいる。
俺も当然、その口だった。
ただでさえ人界がこんなにも地獄だと感じてしまうのに、ましてや仙人が住まうような極楽なんかありゃしない。
この世は地獄だ。
滅んでしまえばいいとすら思うほどだった――そう、あの時あの瞬間、偶然この少女と出逢っていなければ今もまだそう思い続けていたことだろう。
「この世に解けない呪いなんて、ありません」
縋り付く……いや、この場合は泣きついてきたといっても過言ではないだろう。
とある珍客の相手をしているのは、俺の雇い主である一人の少女だ。
長く続く血の川のような深紅の髪。白磁器を思わせる白い肌。そして異端の紅い瞳を宿した少女は、極々自然のことのようにそう言ってのけた。
「貴方に掛けられた呪いのすべてを、溶かして、解かして、説かしてあげましょう」
それはまるで謳うかのように。
温情のもと救済を説くかのような、甘い甘い囁きだった。
少女のその言葉に噎び泣く情けない男の姿を脇目に見ながら、俺はそっと少女の傍へと近づくとその手の平に一本の細身の短剣を握らせた。
「では、どうぞ。お始め下さいませ……〝紅の君〟」
「ええ、あとは宜しくね。〝銀の使い〟」
視線と視線を絡め合い、言葉と言葉を重ね合う。
手の平と手の平を重ねて、互いの体温を解け合わせる。
そうして主従関係を結ぶ俺達は、同時に言葉を紡いだ。
『我らが神の名のもとに、誓約を交わしましょう』
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