第10話 全校集会
僕らが駆けつけたころ、体育館には大勢の生徒が集まっていた。
真面目な生徒たちは生徒会の連中がいるステージの前で整列して並んでいるし、不真面目な連中はその反対側で壁に持たれて、丸めて置かれた体操マットの上にまたがり雑談にふけっていた。
全校生徒そろっているとは言いがたい。全校三百三十三人のはずだが、二百人もいないように思われた。
僕たちは整列する生徒の後ろに並んで、集会が進行するのを待った。
「皆様おそろいでしょうか」
それからさほど時間を置くことなく、壇上からマイク越しに生徒会長の声が聞こえた。壇上に生徒会長の今村と副会長の村西がいた。会場は水を打ったようにしんと静まり返った。会長は咳払いし、ひょろりと高い背を伸ばした。
「生徒会から現状について報告させていただきます。まず、外には出ないでください。危険が伴います。死亡した生徒もいます。
「現状、我々に何が起きているのか、理解に努めていますが、結論は出ていません。だかある限り把握した情報をこの場を借りていくつか報告させていただきます。
「テレビは映らず、情報室のパソコンはインターネットに接続できません。すでにお気づきのこととは思いますが、携帯電話回線も通じなくなっています。ですが不思議なことに、こうして電力は動いています。どこかから供給され続けています。理由は我々にも分かりません。水道も同様に動いています。
「事態が好転するまで、我々は静観するしかありません。幸いにも、災害時を想定して生徒職員用に三日分の水と食料の備蓄があります。各自、教室にいるようにしてください。またこれに関係し、空き教室から食料と水のダンボールを運搬するボランティアを募集します。積極的な参加をお願いします」
何か質問は?
と生徒会長が問いかけると、元気よく手を挙げた生徒がいた。
シャギーのかかった髪のギャル系女子だ。
「事態が好転するまでとさきほどおっしゃいましたけど――それはいつになるのですか? それまでに水と食料は尽きてしまうのではないですか?」
「その可能性はあります。これ以上のことは申し上げられません」
「発言の責任はとらないのですか」
「私の責任でこの事態が起こったわけではないので」
「この人生徒会長にあたりキツくないか?」
僕は江崎さんに耳打ちする。
「絵乃、いえ、クラスメイトが話していたんだけど、この人生徒会長にフラれたらしいのよ。それまではゾッコンだったみたいだけど」
「なるほど」
別の男子が手を挙げた。
「先生たちはいまどこに?」
「調査中です」
屋上にいるかもしれないと手を上げかけたが、やめた。要らぬ混乱を生みそうだ。それは江崎さんも同意見らしく手を上げずじっとしていた。
別の女子が手を上げた。
「電力が使えるのなら、プロジェクターで映画でも映してくれませんか。退屈すぎて。図書室にビデオ資料でハリウッド映画のDVDがあったはずです」
「検討します」
「ビデオ資料か。AVとかないかな」
「八木奈々とか石川澪とかあったら最高なんだけどなァ」
バカなおしゃべりをしてるグループに目を向ければ、そこには案の定猪口の姿があった。あいつが小さく手を振ってきたので、俺も小さく手を振りかえした。
運動部系の女子が挙手した。
「この場を借りて人員を募集させてください。有志により地下を掘り進めることを検討しています。ある程度の長さまで掘り進めればあの黒い物質――巷ではバリアと呼ばれているらしいですが――を避けて地上に戻れるのではと考えています。多くの方、特に体力にすぐれた方のご参加をお願いします」
これには複数の野球部員が参加を表明した。
バリアを避ければ外に出られることは僕と江崎さんは確認した。彼らの作戦が実を結ぶことを願うばかりだが、バリアは学校を隙間なく煽っているのだという気がしてならない。
ーー意思を感じるのよ。
江崎さんの言葉が蘇った。一連の事件、なにかおかしいが、そのおかしさと言うものがたしかに観念的で、自然現象とは思えないのだ。自分の言葉だが、魔術と言われた方がしっくりきてしまう。
別の生徒から二、三質問があり、その後散会となった。終わったのを合図に大勢の生徒が立ち上がった。
三日分の水と食料。それがすべてなくなってしまった場合、どんなことが起きるのだろうか?
水は水道が使えるから何とかなる。恐ろしいのは食料だ。
飢餓状態に見舞われた人間がどんなことをしてきたのか知らないわけではない……いや、これ以上考えるまい。悪い想像は悪い状況を招くというし。
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